dimeizaのブログ

興味のある技術(IoT/VR/Smart Speaker)とか、資格試験の話とか、日常で出会ったTechな話について書いています。

システムアーキテクト試験 午後Ⅱ試験(論文)について考えたり準備したりした事柄(1)

はじめに

 関係各位の種々のご支援もあり、この度IPAシステムアーキテクト試験(2016)にパスすることができたので、システムアーキテクト受験者にとって難関とされている、論文試験対策について、私がやってきたこととか考えてきたこととかを残しておこうかなと。

 特に私の出自はエンベデッド系で、エンベデッド系の情報って、エンベデッドシステムスペシャリスト試験周りも含めて数えるほどしかないので、同じようなキャリアパスを進もうとされている方の一助になれば、と思います。

 あ、多分エンプラ系の人が読んでも参考になるとは思います。

 なんか書いていたら長くなってきたので、3部か4部構成ぐらいにしようかと思っています(内容、構成とも書きながら直すかもしれません)。

 お暇な時のお茶請けにでもどうぞ。

1.敵を知り己を知らば…

 何事もそうなんですが、戦いを始める前に、敵と自分の状況を確認しておくことって大事です。

敵(勝利条件と試験)

論文試験という定性的な日本語の試験であっても、国家試験である以上、どういう試験であって、何を達成すればいいか、というのは、一応明文化されてはいます。 まずはそれを見てみましょう。

試験環境

 敵について主要な特徴を列挙するとこんな感じ。

# 環境 内容
1 試験時間 120分(14:30~16:30)
2 論述内容 設問ア:800字以内、設問イ:800字以上1600字以内、設問ウ:600字以上1200字以内。手書き。
3 評価基準 1.設問項目の充足度2. 論述の具体性 、3.内容の妥当性…などを評価の視点とする。
4 設問 3題中1題選択。うち1問は組込みシステムに関する問。 出題テーマを事前に把握することができない。

試験時間

 120分しかありません。『もある』ではないのです。『しかありません』。

 これについては何をか言わんや、規定字数を満たす論文を1回でも良いので『手書き』で書くと、感覚が分かります。 慣れてくると演習では30分残しぐらいでさくっと終われるようになりますが、慣れない人は普通に2時間を超えるはずです。

 論文試験開始時間は14:30から。午前Ⅰから数えると6時間後という長丁場の最後に巡ってきます。

 この試験が始まるタイミングでなるべく体力を温存し、頭が回せるコンディションにしておきたいものです。そうなると、午前Ⅰ免除を受けずに挑むと不利に働くであろうことは容易に推察できるのではないかと思います。

論述内容

 各設問には規定字数があります。

  • 設問ア:800字以内
  • 設問イ:800字以上1600字以内
  • 設問ウ:600字以上1200字以内

 ここで、800+800+600=2400字ぐらい書けばいい、と思ったら大間違いです。

 論文試験で覚えておくべき鉄則ですが、 規定字数に満たない論文は、採点されません。 どれだけ秀逸な内容であっても目を通してもらえません。

 論文はIPAが用意した原稿用紙に従って記述します。このとき、原稿用紙の文字数が、一定の文字数ごとに振られているのですが、これは原稿用紙ぎっちり文字で埋めた場合の文字数なので、あくまでも目安でしかありません。

 このため、設問で示された最低字数よりも余裕を持って書く事が必要になってきます。空白の量次第ですが、私は上記の目安の文字数+400字ぐらいを下限として記述しました。

 となると、800+1200+1000=3000字ぐらい。400字詰め原稿8枚ぐらい。多いでしょ?

 そして、これを『手書き』で書かなければなりません。手書きの慣れとか手の疲労とか、もう技術とは全く関係ないことを考慮に入れる必要が出てくるって話です。

 ITエンジニアの多くは文章を手書きではなくエディタやワープロで書いていて、手書きで大量の文章を書いている人は少ないでしょう。私みたいに悪筆なのは練習するしかないとしても、手の疲労だけはなんとかしておきたい。

 ということで、私は筆記用具にも気を使いました。

 この2本を使って疲労に備えることに。結局Q1005-1をメインに、PG1005は予備という使い方になってました。

 百均のものでもダメとは言いませんが、書きやすさ、疲れにくさを実感できるほどの差があります。

評価基準

 この辺りは受験者でも言われないと見ないくせに、合否を左右する重要な箇所。

試験要綱Ver3.0

https://www.jitec.ipa.go.jp/1_13download/youkou_ver3_0.pdf

注 1) 午後Ⅱ(論述式)試験の評価方法について

・設問で要求した項目の充足度,論述の具体性,内容の妥当性,論理の一貫性,見識に基づ く主張,洞察力・行動力,独創性・先見性,表現力・文章作成能力などを評価の視点とし て,論述の内容を評価する。また,問題冊子で示す “解答に当たっての指示”に従わない場 合は,論述の内容にかかわらず,その程度によって評価を下げることがある。

 これが評価基準ですが、この評価基準は重要度別に並べられている、と言われています。上から3つ挙げていくと、

  1. 設問で要求した項目の充足度
  2. 論述の具体性
  3. 内容の妥当性

 こんな感じ。

 もう一つ、論文の評価基準を推し量るための資料があります。

平成27年度秋期(1)試験 システムアーキテクト 採点講評 午後Ⅱ試験

https://www.jitec.ipa.go.jp/1_04hanni_sukiru/mondai_kaitou_2015h27_2/2015h27a_sa_pm2_cmnt.pdf

問題文の引用で文字数を費やし、内容が薄くなってしまっている論述も少なかった。

問題文に記載している観点などを抜き出し、一般論と組み合わせただけの論述は引き続き散見された。

問題文に記載した観点や事例は、例示である。自らが実際にシステムアーキテクトとして、検討し取り組んだことを具体的に論述してほしい。

 ここで主として提起されているのは、問題文と論文のコンテンツとの関連についてです。何を要求されているか一言で言うと『具体性』です。問題文に書いていない、自分が持っている具体的な経験や見識を展開せよ、ってことです。

 ただし、問題文の観点や事例を使うな、と言っているのではなく、観点や事例を一般論ではなく、自身の知見に関連づけるということが、実は許されています。これは後ほど実例で示したほうが良いかもしれません。

設問(出題テーマリスク)

 組込みシステムに関する問。エンプラ屋の立場だと3問エンプラにしてほしいと思う一方、エンベデッド屋からすると、選択肢がほとんどなく不利、という印象で、ここについては受験者の立場によって変わってきます。

 出題テーマを事前に把握することができない、という点、一見当然ですが意識する必要があります。自分が用意したネタが適合しないテーマしか出題されない、というリスクに備える必要があるためです。

 この2つは出題内容によって回答の出来、ひいては試験の成否が分かれてしまう 『出題テーマリスク』とでも呼べるリスクです。

 このリスクについては、数撃ちゃ当たる作戦で、適合するテーマが出題されるまで待つ、という気長な戦略もあるのですが、私はこの試験、なるべく1発で受かりたかったので、備えることにしました。

自分(準備開始時の状況)

 翻って自分はどうだったのか。ここは受験者によって個別に異なる箇所かと思います。

 私の状況だけピックアップしておくと、こんな感じでした。

  • IPA試験
    • 論文試験は初めて。
    • スペシャリスト試験は2種制覇(ES,SC)
  • 文書作成能力
    • (論文書いていて気づきましたが)多分得意な方。
    • そもそもこんな文章書いている時点で長文厨。
    • 『得意先への謝罪文、よろしく書いといてー』って言われてよろしく書いて説明するような業務経験もアリ。
  • 構想力
    • 多分そこそこある。
  • 妄想力(シミュレーション力)
    • かなりある。
  • 開発経験
    • 10年近くずーっとエンベデッド系。
    • エンプラ系? 天ぷらの仲間?
      • 机上知識はあるが開発経験は数えるほどしかない。

 というわけで、スタート地点は文章得意なところから始まっています。システムアーキテクト試験の午後Ⅱにおいて重要なのは文章力なので、後から気付きましたが結構有利な地点に立っていました。

 これから私が取り組んできた準備について話をしようと思いますが、『文章苦手だよどうしたら良いんだよ』って方にとっては、あるいはそのまま通用しないのかもしれません。

 ただ、文章苦手、という方に対して、『こうすれば文章苦手でも受かるよ』という話をするつもりはまったくなくて。文章苦手な方は、むしろ システムアーキテクト試験を通して文章力を鍛えましょう。

 ぺーぺーのエンジニアと、リーダレベルを張るアーキテクトを分ける大きな要素は、『他者への説明能力』。下っ端はリーダにだけ説明できればいいですが、リーダはプロジェクトのコンテキストを熟知していない顧客や、上司や、協力会社など、様々なステークホルダに対してコンテキストの共有を含めた説明をしなければなりません。

 論文試験で論文を提出した向こうにいる試験官は、まさにそのステークホルダにかなり近い存在と言えます(しかも技術的知見があるだけ、全くの素人よりよほどマシ)。

 この論文対策を通して、『知らない相手に対して、自分のコンテキストを文章で的確に伝えるスキル』を身につけられるとしたら、それは真の意味の自己啓発につながっています。単に資格を取っておしまい、というよりも、遥かにIPA試験を使いこなした姿ではないかな、と私は思います。

 あと、構想力と妄想力。後者は冗談に聞こえますが、両方とも試験に効いてきます。

 特に後者については、能力としては唯一『出題テーマリスク』に備えることができる能力です。これは本試験で実際に発揮されました。後ほどご説明します。

 手持ちの経験としてはエンベデッド系をひた走ってきたのでそればかり。エンプラ系の経験は極めて乏しいです。ここも『出題テーマリスク』ですね。

 多くの方はエンプラから入るんじゃないかな、と思うので、この点については私より有利な方が大半ではないかと思います。

ここまでのまとめ

 私は概ねこういう環境で試験に臨んだのですが、その情報自体は参考情報でしかなくて、重要なのは

  • 本番で何が求められているか、どう振る舞えれば勝ちなのかを正確に把握しておく
  • 自分が持っている経験、能力と、持っていないものについて自覚的になる

 ということです。これを知っていないとギャップを埋めるための準備をすることが出来ないので。

 ちょっと長くなってきたので、次回、このあたりの状況を踏まえてどんな対策をしてきたか、って話をしようかと思います。