dimeizaのブログ

興味のある技術(IoT/VR/Smart Speaker)とか、資格試験の話とか、日常で出会ったTechな話について書いています。

Developer's Summit 2016 【18-D-5】アジャイル開発でハードウェアをつくる~イノベーションはラーメン食えればいい!~ 聴講メモ

講演資料

http://www.slideshare.net/YoshimasaKawano/20160218-devsumi

概要

 アジャイル的な視点でハードウェア開発を見た時、新しいハードウェアを安く早く作ることは可能である一方で、ソフトウェアとは異なる事項について注意しなければならない。これらの事柄を、実例を通して説明する。

スピーカー

秘密結社オープンフォース総統1の河野さん。

詳細

  • IoT時代。ハードウェアが次の波になってきていることは認識している。
  • Web開発の手法を使ってハードウェア開発ができないか?

ハードウェア開発の混沌

  • KickStarterとかを見ていると、『ガジェットの混沌』とでも言うべき状態であることが分かる。

  • 例えば『充電ガジェット』。

    • 割と誰でも思いつく。
    • 焚き火で充電するとか。
    • 体温で充電するとか。
  • 例えば『インターネット鍵』。

    • BlueToothで鍵を開けられる。
    • 電池寿命は1年、とかね。
  • ところがこれらはエネルギー収支を満たしておらず、使いものにならない。

    • 6時間焚き火に当たらないと充電できない。充電のために6時間も焚き火に当たるのか?
    • 体温で充電できる量は電池電力の1/500。それっぽっち。
    • BlueToothなら1年持つかもしれないが、Wifiだと3日しか持たない。
    • この手のハードウェア開発、キックスターターで金は集まるが、結局うまく行かない。

何が悪いのか?

  • 『デモムービーは実現できない』ということ。

    • 物理法則とちょっとした計算で、エネルギーの収支計算はできるのだが、それをしていない。
  • お金を使わないと分からないこともあるかもしれない。

    • 『浸透戦術』2を取る場合、開発のリミッターが人とか、未知のフィールドだから、という場合は有効に機能する。
    • が、 物理法則がリミッターの場合、『浸透戦術』では解決できない。
  • 作ってみないとわからないこともあるが、『お金を集める前に作る』事が大事。

  • 例えば自分はガイガーカウンターを作ったことがある。

    • 2011年当時。海外製のガイガー管が手に入らない。
    • 日本製のガイガー管もない(ディスコンしてしまったらしい)。
    • そこで、ロシアから軍用品のお下がりを輸入した。
    • 写ルンですを分解して組み合わせ、自作のガイガーカウンターを作ってみる。
    • すると、ガイガーカウンターに関する特性がいろいろわかってきた。
      • この辺りの特性は、作って、使ってみないとわからない知見。

資金調達

  • ハードウェア作成、一体何にお金がかかるのか?

    • よくあるパターン
      • 『コンサルや外注に聞いて作っている』
      • 『作ったけど思い通りにならない』
    • 『(予算がかかるので)もう一度はできない』ではなく、何度もピボットする必要がある。
  • このあたりを考えて資金調達元を考えると…。

    • 銀行はこの手のやり方に対して相性が悪い。
    • VC(Venture Capital)は動くものがないと金を出さない。
    • クラウドファンディングは、前述のとおりファンディング前にモノを作ることが肝心。
    • 結局は個人で出資が一番いいのでは。

実例

  • リコーダーミューター3を作りたい人から相談を受けた。

    • 自治体にアドバイスを受けたら、創業補助金の話をされた。
      • (ケース用)金型には数百万かかる。
      • 3D設計するなら3DCADが必要だと言われ、100万以上かかった。
    • 投資を受けるために販路のエビデンスを取る必要がある。
      • そのためにステークホルダにヒアリングが必要。
    • 大変、という相談。
  • そこで、

    • LibreOfficeで図面を書きつつ、みんな大好き秋月電子から資材を調達してさくっと作った。
    • カンファレンスで小学生向けのワークショップを開き、公開してフィードバックをもらった。
    • それをそのままAmazonで売った。
      • Amazonでフルフィルメントしてもらうと、在庫を自分で持つ必要が無い。
      • Amazonで売ったことをエビデンスとして、育英資金から融資を受けた。

イノベーションを起こすためには

  • フロンティア、高齢化等、実は現在はブルーオーシャンの時代。

    • 人手不足と言われるが、逆に人間がいないことでロボットの需要がある。
    • とは言え大企業とは違って、いかに下から市場を取っていくかを考える必要がある。
      • これは、いかに市場にマッチさせていくか、ということ。
      • ピボットを繰り返してマッチさせていく。
  • 電子、電気でやっていることは箱庭に過ぎない。

    • が、ソフトウェアの世界では、そもそも新しい技術がイノベーションを起こしたのではない。
      • 新知見ではないIT化、クラウド化のスケーリングで流通革命が起きているように。
      • LAMPとかAWSとか、OSSの力。
      • チープであることは弱みではなく、スピードに転換される。
      • 安価でIoTが試せる、というのはそれだけでパワー。

OSSのエコシステム

  • アメリカはシリコンバレーで。
  • 日本はIT勉強会で醸成されている。
  • 昨今はハードウェア世界でもオープンソースのエコシステムができつつある。
    • 勉強会やカンファレンスが増えている。
    • 2/11にも、オープンハードカンファレンスが実施された。

ラーメンスタートアップ

ソフトウェアのスタートアップ形態の一つ。

  • AWSのt2.microで数ヶ月稼働させる。
  • LAMPを使う。
  • ソーシャルでPRしながらピボット。
  • ヒットしたら一気にスケールするモデル。
  • ヒットするまでの間は、ラーメンを食い続けられるレベルの費用があれば良い。

ラーメンスタートアップはハードウェアでは可能か?

  • ハードウェアは開発に数百万かかるが、ここしばらくで大きく進化している。

    • 例えば、海外では10ドルで基盤ができる。
    • (ケース用)金型を作るとそれに縛られてしまう。
      • お金をかけず、ギリギリまで量産しないこと。
    • キーワード。
      • KiCAD(OSSのCADツール)
      • DigiKey(電子部品ストア)
      • SeeedStudio(基盤を作ってくれる会社)
      • レーザーカッター(ケースを作るためのもの)
      • 焼肉用ホットプレート(表面実装に使う)。
      • 半田ゴテ。
      • Arduinoやラズパイ。
      • Aliexpress。
      • Amazon
  • ワークショップ、書籍、キットを組み合わせた商流

    • 例えば、自分はラズパイのアドオンボードを作った。
      • KiCADで設計。
      • 組み立てせずにキット販売した。

世界と戦うためには

  • 中国が最大の敵。

知財の問題

  • 特許を日本で取得することは簡単だが、海外展開する場合、なかなか取りきれない。
  • 最近はアカデミックと連携しづらい。
    • ITとか電子、電気は知財縛りがある印象。

本当に必要なのはコピーに勝つこと

  • 中華より安いか、本物を担保する。
    • 署名と暗号化。
      • 中国の地溝油を検出するデバイスの例。
        • より正確には酸化した油を可視化するデバイス
        • 内部に暗号化チップを組み込み、本物と偽物を識別している。
    • 本物の価値はユーザからの評価にある。
      • が、どんでん返しがすぐ起こってしまう。
      • 先行者利益が少ない。
      • 絶えず努力するしかない。

価格的には中国サイトで調達するという手もあるが

  • 安い一方でトラブルも多い。
  • トラブル、偽物は当たり前。
  • トラブルマネジメントは必須と言える。
  • 逆に、トラブルマネジメントのノウハウは、蓄積すると差別化要因になり得る。

中国国内でも偽物には辟易

  • 質の悪い偽物に対しては差別化が可能。
  • もっともタチが悪いのは、『質の良い偽物』だが、大抵UIが弱い。
    • 忍耐しながら使わないといけない。
    • なのでUIを攻めると良い。

悪にならないためには

  • 動く物ファースト。

    • 見栄えよりも実証物を。
  • 動いたデータは何よりも雄弁。

    • Deliveという電気石窯を作ってみた。
      • ラズパイで制御している。
      • 温度制御の理論はある。
      • が、実際に作ってみるとデンプンのアルファ化による熱移動とか、新しいことが分かる。
      • 実際に焼いたデータにはかなわない。

ハードウェアのことを知るには?

  • とにかくやってみる。

    • イニシャルコストは低い。
  • ものがないのに費用をつぎ込むな。

    • 見栄えにこだわらない事が大事。

まとめ

  • (ソフトと比して)ハードウェアの世界は遅れている。
  • が、イノベーティブな手法を応用することはできる。
  • 早く安く作ることはできる、ということ。

告知

  • 9月にオープンハードカンファレンスを東京でやるらしい。

  1. 普通にそう紹介していましたね…。白衣の怪しげなマッドサイエンティスト

  2. 第一次世界大戦でドイツ軍が取った戦術。敵の間隙を見つけてどんどん進む戦術。この文脈では『分からないけどまずやってみよう』的な進め方を指している。

  3. リコーダーの音を小さくするためにリコーダーに取り付ける小型デバイス。子供がリコーダーの練習をすると、うるさいと言われる住宅事情のためのもの。