12. 症状進行と戦略の見直し(2025/4〜6)
症状の急速な進行
介護認定から約1年、私は毎月モニタリングに立ち会って父の状況を聞きつつ、ケアマネさんと一緒に対策を考えてきたんですが、この1年間の間に結構症状が進んできていて、この症状への対策を考えるのも一苦労でした。

着衣失行
まず年が変わって春頃から、デイサービスに出かける際の服を自分で着れなくなり始めている、という話が出てきました。いわゆる『着衣失行』という、服の着方が分からなくなってしまう周辺症状です。
いきなり何も着れなくなる、みたいな症状の出方ではなく、TPOに合わせた服の選択ができなくなっていくところから始まります。
気温に関係なく服を着ようとするので、夏場でも長袖を何枚も重ね着して熱中症になってしまったりすることもあります。
この辺りからデイサービスに送り出す際の父の負荷が大きくなってきました。今までは自力で服を整えて出られていた所、一人で服を適切に選んで着られないので、父が付き添って服を着させてやる必要が出てきます。
また、選んだ服が気に入らないと脱いでしまったりもするので、その片付けやら服を着る説得やらと、手間が非常にかかるようになってきました。
服の整理、ユニフォーム化を提案したが…
母の意向に合わせて服を選ぶのが大変だ、と父が私やケアマネに話をするので、母のクローゼットを見たんですが、服のバリエーションが割と多様で、ハンドリングが難しいとは感じました。
そこで、某スティーブ・ジョブズのように、
- 日常着る服を1,2種類に統一してユニフォーム化しつつ、
- 同じ服を数着買って、毎日同じ服を着せるようにする
- それ以外の服はしまい込んで選択余地をなくしておく
という提案をしました。
実は私自身もこれに近い運用をしていて、日常の服はあまり選ばないようにユニフォーム化しており、服の調達や運用で楽だと感じていたのでおすすめだったんですが、こればかりは父も施設入所までできませんでしたね。
ケアマネさんもこの話を聞いて非常に合理的だと賛成してくれたのですが、父は母への思いやり(忖度)が強かったのと、母が服を気に入らないと責められる立場だったので、どうしても導入できませんでした。
この辺りをスムーズに導入できるご家庭は、本人のお気に入りの服を1着選んだら、たくさん買って同じ服でローテーションすると、着衣失行対策の効率化に多少なりともつながると思います。
入浴が困難に
また春頃から、母が自力で入浴することが難しくなっている、という話を聞き始めました。
四肢は普通に動くので、湯船に入ったり体を洗うだけの身体能力は普通にあるのです。
一方で入浴という行為そのものの意味や、入浴の手順が認識しづらくなってきており、風呂に入っていくものの体を洗わずに出てきてしまうなど、そもそも体をきれいにするという行為ができなくなりつつありました。
当初は父が頭を洗ったりするなどの補助をしていたのですが、さすがに全身を洗うわけにも行かないので、この辺りからデイサービスの入浴介助のお世話になるようになりました。
幸いなことに、昨年4月に選んだデイサービスでは、各種機能訓練に加えて入浴介助1もしてもらえました。週4回通っているので、その間の2回ほど入浴介助をしてもらって、体をきれいにしてもらうようにしました。
不安症状の悪化
加えて厄介だったのが、不安症状の進行でした。
この頃になってくると、母は自分一人でいることにだんだん耐えられなくなってきていて、家族の誰か(特に父)がいないと、すぐに探しに行ってしまうような状況になっていました。
それこそ朝、デイサービスに送り出す前に父が身支度をしていても、母は一人で食事を取っていることができず、洗面所の父のそばまで行ってしまう感じです。
家にいる間は寝ているとき以外、ずっと父につくようになってしまい、父が一人で行動することがかなり難しくなってきました。
この時、デイサービスは週4まで拡大できていたのですが、デイサービスに連れて行くに行っている間に休息するのがやっと、という感じで、買い物や病院に行くなどの父自身の単独行動が制限されるようになってきていました。
この不安症状は施設入居までずっと続いており、メマリーや抑肝散、レキサルティといった薬物療法でもどうしようもなかったですね。
失禁の発生

もう一つ大きかったのが失禁の発生でした。
6月の梅雨の、大雨が振っている日曜日だったんですが、突然父から電話がかかってきて。
- 朝起きて母を起こしに行ったら、ベッドで便失禁をしているのを見つけた
- 布団や床が便で汚れてしまっている
- 便で汚れたズボンをゴミ箱に捨ててしまっている
という話で、かなり慌てて動揺していたので、すぐに実家に向かいました。
行きがけに、この手の対策道具をドラッグストアで買い込んで持っていきました。介護用おむつとか、専用の洗濯洗剤とかですね[^1]。
実家に着いて父とともに対応しながら、さすがにそろそろ在宅介護は厳しい…と思いました。介護力が乏しい状況で、この負荷を高齢の父にかけさせるわけには行かないなと。
この辺りから母におむつ、尿パッド、リアビリパンツなどが必要になってきました。追加でコストがかかる話ではあるんですが、問題はそれだけではなくて。
おむつや尿パッドを使う際の注意点
認知症でやっかいなのは、おむつやリハビリパンツがあればいいというものでもないことです。
認知症だと、自分がなぜおむつやリハビリパンツを履いているかを理解できなかったりします。失禁してしまった際に、介護者に告げずにそのまま脱いでゴミ箱に捨てたりするんですよ。
一度、実家のトイレが詰まったことがあって、業者に直してもらったんですが、おそらく(吸水性の)尿もれパッドを母がトイレに流してしまったからではないか、と家族で話していました。
あの手のパッドは水を吸って膨らむので、トイレに入ると確実に詰まらせるんですよね。
一応対策としては、
- 流す際の水の量を減らし、おむつや尿パッドなどの大きいものが流れづらいようにしておく。
- 掃除口付きの特殊な便器に切り替える。
という方法があって、前者はすぐにやったのですが、後者もやったほうが良いかね、と家族で相談していました。
最終的には便器切り替えには至らなかったのですが、もし2回目、3回目があったら交換していたと思います。
家の中で迷子になる
このトイレの件とも軽く重なってくるのがこれでした。
自宅の中で、自分の部屋やトイレの場所がわからなくなる、という症状です。いわゆる見当識障害が強めに出てくるとこうなります。
実際の所、実家はそれほど広くもないのですが、例えば夜間、2回の寝室で寝ているときにトイレに起きても、2階のトイレがわからなくてわざわざ1階に行ってしまったり、逆に寝る時、自分の寝室に自分で行けなくなリ、父の介助が必要になるなどといった問題が出てきました。
父も実家の部屋に張り紙をするなどして、トイレや部屋の場所を目立つようにはしたのですが、それでも迷子になることは増えてきていました。
予想以上の進行度
この介護が始まった際、母はまだ70代半ばだったこともあって、介護関係者に『在宅介護の長い期間、これからまだまだ続くから…』とよく言われました。
なので『まぁ認知症といっても緩やかに進行していくから、それなりに長い期間自宅での介護が続く(続けられる)のだろう』と、私含め家族は勝手に思っていたので、1年間でこれほど早く進行することは完全に想定外でした。
2023年の秋、日本医大で診断を受けた際は『中等度の認知症』と言われてはいたので、診断前にある程度進んでいたという点もあったのでしょう。介護開始後はなるべく母に負担をかけないように(加えて父のフォロー不可を減らすために)、食事や洗濯などの家事もあまりさせなかった点もあったのかもしれません。
それでも介護開始から即デイサービスを入れて機能訓練していたので、『せっかくデイサービスで機能訓練しても効果がないのか…』と父は落胆したりもしました。
前述の通り、デイサービスは我々にとって非常に助かるサービスだったので、導入効果自体は疑うべくもないのですが、この辺りの進行度は一言で認知症といっても人によって非定型過ぎて、統一的に言えないんですよね。
施設入所に向けた戦略の再検討

ともあれ、症状進行に伴ってかなりの介護負荷が追加され、かつ失禁等、介護のプロでも対応が大変な症状が出てきたとなると、このまま在宅介護というのは持続可能ではないな、と思いました。
そこで、この辺りの状況を受けて、今後に向けて戦略を再検討することにしました。
考えたことは以下のとおりです。
- 介護度の変更申請を行う。
- この時点で施設入所をターゲットにする。
- ショートステイ等外泊サービスを利用し、段階的な外泊移行を行う。
この時点で施設入所をターゲットにする。
すでに限界という状況ではないにせよ、このまま症状が進めば限界は近いうちにやってくるので、このタイミングから入所施設を探しはじめました。
この方針自体には、これまで述べてきたたくさんの知見が土台になっています。
- 介護者の負荷増加と失禁の発生は入所を考えるタイミングである。
- まだ家で見られる余裕があるうちに施設入所に向けて動くべき。
この2つは上記の動画ではっきり話が出てきます。
『今の状態が続くわけではないですから。もっと悪くなってからではなく、余裕があるうちに』ということです。
- 介護施設入所を言い出すべきは介護者ではなく実の子供。

『認知症は決断が10割』に書いてあることです。直接の介護者は介護そのものにいっぱいいっぱいですし、特に配偶者だったりすると良心の呵責といった精神面から言い出せないこともあります。
実子でももちろん心理的な負荷はありますが、それでもタイミングを判定して言い出すべきは間違いなく私だろうと思ったので、ここではっきり決断しました。
- すぐに入所できるわけではなく、待ちが発生する可能性が高い。
認知症で施設入所を考えた際、入所施設の第一選択はグループホームです。
グループホームは基本的に居住している自治体の住民でないと入ることができないので、実家周辺のグループホームの情報を集めたんですよ。
で、実家の自治体はグループホームの利用状況と待機者数を公開していたので、そのページを見ると、結構いるんですよね。待機者数が。
特に人気があるグループホームほど、待機者数が多くて、すぐに入所できない可能性があります。
この辺を考えると、にっちもさっちも行かなくなってから施設入所検討するというのは悪手の中の悪手です。
ショートステイ等を利用し、(施設入所に向けた)段階的な外泊移行を行う。
上記を念頭に入れつつ、
- デイサービスで送り出しの負荷が高まっているという観点
- いきなり施設入所をすると環境が激変して馴染みづらい可能性
という2点を考えて、こういう方針を設定しました。
急に施設入所という話をすると、(いろいろ行動が欠落しつつも)受け答えが十分出来る今の母は、行きたくないと言うに決まっていますし、仮に施設に移動するとしても、急に住み慣れた家を離れることで、精神的にも肉体的にも大きな動揺を与えかねません。
そこで、普段から徐々に外泊習慣をつけて、家の外で過ごす状態に慣らしておいた上で、施設入所へ段階的に誘引する、という方向で考えることにしました。
この方針は、デイサービスに送り出す際の父の負荷軽減も兼ねています。
デイサービスだと送り出してもその日のうちに戻ってきてしまうので、都度毎日送り出しの負荷がかかりますが、ショートステイのように数泊する場合、一度送り出してしまえば数泊は帰ってこないので、送り出しの回数そのものを減らしながら、父の時間を作ることができます。
また、母が自宅にいると夜間でも父に介護負荷を与えてしまい、父の睡眠時間を削ったり手間をかけることになります。外泊していれば、少なくともその日については夜間も含めて一日中母の面倒をおまかせできるので、夜間における父の負荷軽減にも有用です。
介護度の変更申請を行う。
もう一つは介護度の変更です。
これだけ介護の負荷が積まれてくると、要介護1という認定と現在の症状に乖離が発生していると言うべきでした。
今の母は何をするにも、常に父の介護が必要な状況で、いわゆる『常時介護を必要とする状態』と言って良い状態です。
この『常時介護を必要とする状態』というのは単なる言葉ではなく、厚生労働省による明確な判断基準があります。
- 常時介護を必要とする状態に関する判断基準
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000145708.pdf
実際にここにチェックを入れていくと、この表だけで『常時介護を必要とする状態』に達している状態ではあったのですが、この判断基準を参照するまでもない介護度を認定してもらうべきだと思いました。
(1)介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること。
要介護2以上の認定を受けた場合、以前お話したとおり、介護保険制度の限度額が上がります。
これまでの要介護1の場合、デイサービスを週4回使うとだいたい利用上限に達する状態でしたが、要介護2以上まで上げることで、利用限度額をさらに高め、ショートステイとデイサービスをフルに使っても自費負担を最小限にすることができます。
もう一つ、これは私の個人的な事情ではあったんですが、所属している会社では、介護休暇2を取得可能な基準として、この『常時介護を必要とする状態』という条件があったのです。
制度上は上記の判断基準についてケアマネに認定してもらえば、一応休暇の取得は可能だったのですが、ここは介護認定上で要介護2を受けて、否応なく介護休暇を取得可能な状況にしておきたいと考えました。父の負荷もかなり高まっているので、私が休暇を取って出張れるようにしておきたかったので。
更に加えて、入居施設の選択肢として特別養護老人ホームという選択肢を入れられるなら入れておきたい、という認識もありました。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group14.html
前述の通り、認知症の場合はグループホームが第一選択なのですが、介護度が要介護3以上の場合は特別養護老人ホームも選択肢に入ってきます。
この時点では母もコミュニケーションが出来る状態だったので、入居者どうしのコミュニケーションができるグループホームの方が良いと私も思っていました。
ただ、将来的に認知症が重度化したり、身体能力が大きく低下して寝たきりになった場合など、コミュニケーション機会が少なくなることも考えられます。
この場合は経済的負担の軽い特養も選択肢になるのですが、特養の入居条件は要介護3以上なので、ここで要介護3以上の認定が出た場合は施設入所の選択肢が増えることにもなります。
もちろん家族としては症状が軽いに越したことはなく、高い介護度を得ることは必ずしも本意ではないながらも、今後の介護の持続性を考えると視野に入れておくべき事項ではありました。
相談を開始したが…
はじめて便失禁があってから、しばらくの間その状態が継続したことを受けて、私は以上の3つの方針を考えてケアマネに相談することになるのですが、そこでちょっと驚かされることになります。
以下、次号。



























