dimeizaのブログ

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あるITエンジニアが立ち向かった認知症在宅介護の記録(12. 症状進行と戦略の見直し)

12. 症状進行と戦略の見直し(2025/4〜6)

症状の急速な進行

 介護認定から約1年、私は毎月モニタリングに立ち会って父の状況を聞きつつ、ケアマネさんと一緒に対策を考えてきたんですが、この1年間の間に結構症状が進んできていて、この症状への対策を考えるのも一苦労でした。

着衣失行

 まず年が変わって春頃から、デイサービスに出かける際の服を自分で着れなくなり始めている、という話が出てきました。いわゆる『着衣失行』という、服の着方が分からなくなってしまう周辺症状です。

 いきなり何も着れなくなる、みたいな症状の出方ではなく、TPOに合わせた服の選択ができなくなっていくところから始まります。

 気温に関係なく服を着ようとするので、夏場でも長袖を何枚も重ね着して熱中症になってしまったりすることもあります。

 この辺りからデイサービスに送り出す際の父の負荷が大きくなってきました。今までは自力で服を整えて出られていた所、一人で服を適切に選んで着られないので、父が付き添って服を着させてやる必要が出てきます。

 また、選んだ服が気に入らないと脱いでしまったりもするので、その片付けやら服を着る説得やらと、手間が非常にかかるようになってきました。

服の整理、ユニフォーム化を提案したが…

 母の意向に合わせて服を選ぶのが大変だ、と父が私やケアマネに話をするので、母のクローゼットを見たんですが、服のバリエーションが割と多様で、ハンドリングが難しいとは感じました。

 そこで、某スティーブ・ジョブズのように、

  • 日常着る服を1,2種類に統一してユニフォーム化しつつ、
  • 同じ服を数着買って、毎日同じ服を着せるようにする
  • それ以外の服はしまい込んで選択余地をなくしておく

 という提案をしました。

 実は私自身もこれに近い運用をしていて、日常の服はあまり選ばないようにユニフォーム化しており、服の調達や運用で楽だと感じていたのでおすすめだったんですが、こればかりは父も施設入所までできませんでしたね。

 ケアマネさんもこの話を聞いて非常に合理的だと賛成してくれたのですが、父は母への思いやり(忖度)が強かったのと、母が服を気に入らないと責められる立場だったので、どうしても導入できませんでした。

 この辺りをスムーズに導入できるご家庭は、本人のお気に入りの服を1着選んだら、たくさん買って同じ服でローテーションすると、着衣失行対策の効率化に多少なりともつながると思います。

入浴が困難に

 また春頃から、母が自力で入浴することが難しくなっている、という話を聞き始めました。

 四肢は普通に動くので、湯船に入ったり体を洗うだけの身体能力は普通にあるのです。

 一方で入浴という行為そのものの意味や、入浴の手順が認識しづらくなってきており、風呂に入っていくものの体を洗わずに出てきてしまうなど、そもそも体をきれいにするという行為ができなくなりつつありました。

 当初は父が頭を洗ったりするなどの補助をしていたのですが、さすがに全身を洗うわけにも行かないので、この辺りからデイサービスの入浴介助のお世話になるようになりました。

 幸いなことに、昨年4月に選んだデイサービスでは、各種機能訓練に加えて入浴介助1もしてもらえました。週4回通っているので、その間の2回ほど入浴介助をしてもらって、体をきれいにしてもらうようにしました。

不安症状の悪化

 加えて厄介だったのが、不安症状の進行でした。

 この頃になってくると、母は自分一人でいることにだんだん耐えられなくなってきていて、家族の誰か(特に父)がいないと、すぐに探しに行ってしまうような状況になっていました。

 それこそ朝、デイサービスに送り出す前に父が身支度をしていても、母は一人で食事を取っていることができず、洗面所の父のそばまで行ってしまう感じです。

 家にいる間は寝ているとき以外、ずっと父につくようになってしまい、父が一人で行動することがかなり難しくなってきました。

 この時、デイサービスは週4まで拡大できていたのですが、デイサービスに連れて行くに行っている間に休息するのがやっと、という感じで、買い物や病院に行くなどの父自身の単独行動が制限されるようになってきていました。

 この不安症状は施設入居までずっと続いており、メマリーや抑肝散、レキサルティといった薬物療法でもどうしようもなかったですね。

失禁の発生

 もう一つ大きかったのが失禁の発生でした。

 6月の梅雨の、大雨が振っている日曜日だったんですが、突然父から電話がかかってきて。

  • 朝起きて母を起こしに行ったら、ベッドで便失禁をしているのを見つけた
  • 布団や床が便で汚れてしまっている
  • 便で汚れたズボンをゴミ箱に捨ててしまっている

 という話で、かなり慌てて動揺していたので、すぐに実家に向かいました。

 行きがけに、この手の対策道具をドラッグストアで買い込んで持っていきました。介護用おむつとか、専用の洗濯洗剤とかですね[^1]。

 実家に着いて父とともに対応しながら、さすがにそろそろ在宅介護は厳しい…と思いました。介護力が乏しい状況で、この負荷を高齢の父にかけさせるわけには行かないなと。

 この辺りから母におむつ、尿パッド、リアビリパンツなどが必要になってきました。追加でコストがかかる話ではあるんですが、問題はそれだけではなくて。

おむつや尿パッドを使う際の注意点

 認知症でやっかいなのは、おむつやリハビリパンツがあればいいというものでもないことです。

 認知症だと、自分がなぜおむつやリハビリパンツを履いているかを理解できなかったりします。失禁してしまった際に、介護者に告げずにそのまま脱いでゴミ箱に捨てたりするんですよ。

 一度、実家のトイレが詰まったことがあって、業者に直してもらったんですが、おそらく(吸水性の)尿もれパッドを母がトイレに流してしまったからではないか、と家族で話していました。

 あの手のパッドは水を吸って膨らむので、トイレに入ると確実に詰まらせるんですよね。

 一応対策としては、

  • 流す際の水の量を減らし、おむつや尿パッドなどの大きいものが流れづらいようにしておく。
  • 掃除口付きの特殊な便器に切り替える。

 という方法があって、前者はすぐにやったのですが、後者もやったほうが良いかね、と家族で相談していました。

 最終的には便器切り替えには至らなかったのですが、もし2回目、3回目があったら交換していたと思います。

家の中で迷子になる

 このトイレの件とも軽く重なってくるのがこれでした。

 自宅の中で、自分の部屋やトイレの場所がわからなくなる、という症状です。いわゆる見当識障害が強めに出てくるとこうなります。

 実際の所、実家はそれほど広くもないのですが、例えば夜間、2回の寝室で寝ているときにトイレに起きても、2階のトイレがわからなくてわざわざ1階に行ってしまったり、逆に寝る時、自分の寝室に自分で行けなくなリ、父の介助が必要になるなどといった問題が出てきました。

 父も実家の部屋に張り紙をするなどして、トイレや部屋の場所を目立つようにはしたのですが、それでも迷子になることは増えてきていました。

予想以上の進行度

 この介護が始まった際、母はまだ70代半ばだったこともあって、介護関係者に『在宅介護の長い期間、これからまだまだ続くから…』とよく言われました。

 なので『まぁ認知症といっても緩やかに進行していくから、それなりに長い期間自宅での介護が続く(続けられる)のだろう』と、私含め家族は勝手に思っていたので、1年間でこれほど早く進行することは完全に想定外でした。

 2023年の秋、日本医大で診断を受けた際は『中等度の認知症』と言われてはいたので、診断前にある程度進んでいたという点もあったのでしょう。介護開始後はなるべく母に負担をかけないように(加えて父のフォロー不可を減らすために)、食事や洗濯などの家事もあまりさせなかった点もあったのかもしれません。

 それでも介護開始から即デイサービスを入れて機能訓練していたので、『せっかくデイサービスで機能訓練しても効果がないのか…』と父は落胆したりもしました。

 前述の通り、デイサービスは我々にとって非常に助かるサービスだったので、導入効果自体は疑うべくもないのですが、この辺りの進行度は一言で認知症といっても人によって非定型過ぎて、統一的に言えないんですよね。

施設入所に向けた戦略の再検討

 ともあれ、症状進行に伴ってかなりの介護負荷が追加され、かつ失禁等、介護のプロでも対応が大変な症状が出てきたとなると、このまま在宅介護というのは持続可能ではないな、と思いました。

 そこで、この辺りの状況を受けて、今後に向けて戦略を再検討することにしました。

 考えたことは以下のとおりです。

  • 介護度の変更申請を行う。
  • この時点で施設入所をターゲットにする。
  • ショートステイ等外泊サービスを利用し、段階的な外泊移行を行う。

この時点で施設入所をターゲットにする。

 すでに限界という状況ではないにせよ、このまま症状が進めば限界は近いうちにやってくるので、このタイミングから入所施設を探しはじめました。

 この方針自体には、これまで述べてきたたくさんの知見が土台になっています。

  • 介護者の負荷増加と失禁の発生は入所を考えるタイミングである。

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  • まだ家で見られる余裕があるうちに施設入所に向けて動くべき。

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 この2つは上記の動画ではっきり話が出てきます。

 『今の状態が続くわけではないですから。もっと悪くなってからではなく、余裕があるうちに』ということです。

  • 介護施設入所を言い出すべきは介護者ではなく実の子供。

 『認知症は決断が10割』に書いてあることです。直接の介護者は介護そのものにいっぱいいっぱいですし、特に配偶者だったりすると良心の呵責といった精神面から言い出せないこともあります。

 実子でももちろん心理的な負荷はありますが、それでもタイミングを判定して言い出すべきは間違いなく私だろうと思ったので、ここではっきり決断しました。

  • すぐに入所できるわけではなく、待ちが発生する可能性が高い。

 認知症で施設入所を考えた際、入所施設の第一選択はグループホームです。

www.youtube.com

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 グループホームは基本的に居住している自治体の住民でないと入ることができないので、実家周辺のグループホームの情報を集めたんですよ。

 で、実家の自治体はグループホームの利用状況と待機者数を公開していたので、そのページを見ると、結構いるんですよね。待機者数が。

 特に人気があるグループホームほど、待機者数が多くて、すぐに入所できない可能性があります。

 この辺を考えると、にっちもさっちも行かなくなってから施設入所検討するというのは悪手の中の悪手です。

ショートステイ等を利用し、(施設入所に向けた)段階的な外泊移行を行う。

 上記を念頭に入れつつ、

  • デイサービスで送り出しの負荷が高まっているという観点
  • いきなり施設入所をすると環境が激変して馴染みづらい可能性

 という2点を考えて、こういう方針を設定しました。

 急に施設入所という話をすると、(いろいろ行動が欠落しつつも)受け答えが十分出来る今の母は、行きたくないと言うに決まっていますし、仮に施設に移動するとしても、急に住み慣れた家を離れることで、精神的にも肉体的にも大きな動揺を与えかねません。

 そこで、普段から徐々に外泊習慣をつけて、家の外で過ごす状態に慣らしておいた上で、施設入所へ段階的に誘引する、という方向で考えることにしました。

 この方針は、デイサービスに送り出す際の父の負荷軽減も兼ねています。

 デイサービスだと送り出してもその日のうちに戻ってきてしまうので、都度毎日送り出しの負荷がかかりますが、ショートステイのように数泊する場合、一度送り出してしまえば数泊は帰ってこないので、送り出しの回数そのものを減らしながら、父の時間を作ることができます。

 また、母が自宅にいると夜間でも父に介護負荷を与えてしまい、父の睡眠時間を削ったり手間をかけることになります。外泊していれば、少なくともその日については夜間も含めて一日中母の面倒をおまかせできるので、夜間における父の負荷軽減にも有用です。

介護度の変更申請を行う。

 もう一つは介護度の変更です。

 これだけ介護の負荷が積まれてくると、要介護1という認定と現在の症状に乖離が発生していると言うべきでした。

 今の母は何をするにも、常に父の介護が必要な状況で、いわゆる『常時介護を必要とする状態』と言って良い状態です。

 この『常時介護を必要とする状態』というのは単なる言葉ではなく、厚生労働省による明確な判断基準があります。

  • 常時介護を必要とする状態に関する判断基準

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000145708.pdf

 実際にここにチェックを入れていくと、この表だけで『常時介護を必要とする状態』に達している状態ではあったのですが、この判断基準を参照するまでもない介護度を認定してもらうべきだと思いました。

(1)介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること。

 要介護2以上の認定を受けた場合、以前お話したとおり、介護保険制度の限度額が上がります。

 これまでの要介護1の場合、デイサービスを週4回使うとだいたい利用上限に達する状態でしたが、要介護2以上まで上げることで、利用限度額をさらに高め、ショートステイとデイサービスをフルに使っても自費負担を最小限にすることができます。

 もう一つ、これは私の個人的な事情ではあったんですが、所属している会社では、介護休暇2を取得可能な基準として、この『常時介護を必要とする状態』という条件があったのです。

 制度上は上記の判断基準についてケアマネに認定してもらえば、一応休暇の取得は可能だったのですが、ここは介護認定上で要介護2を受けて、否応なく介護休暇を取得可能な状況にしておきたいと考えました。父の負荷もかなり高まっているので、私が休暇を取って出張れるようにしておきたかったので。

 更に加えて、入居施設の選択肢として特別養護老人ホームという選択肢を入れられるなら入れておきたい、という認識もありました。

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)

https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group14.html

 前述の通り、認知症の場合はグループホームが第一選択なのですが、介護度が要介護3以上の場合は特別養護老人ホームも選択肢に入ってきます。

www.youtube.com

 この時点では母もコミュニケーションが出来る状態だったので、入居者どうしのコミュニケーションができるグループホームの方が良いと私も思っていました。

 ただ、将来的に認知症が重度化したり、身体能力が大きく低下して寝たきりになった場合など、コミュニケーション機会が少なくなることも考えられます。

 この場合は経済的負担の軽い特養も選択肢になるのですが、特養の入居条件は要介護3以上なので、ここで要介護3以上の認定が出た場合は施設入所の選択肢が増えることにもなります。

 もちろん家族としては症状が軽いに越したことはなく、高い介護度を得ることは必ずしも本意ではないながらも、今後の介護の持続性を考えると視野に入れておくべき事項ではありました。

相談を開始したが…

 はじめて便失禁があってから、しばらくの間その状態が継続したことを受けて、私は以上の3つの方針を考えてケアマネに相談することになるのですが、そこでちょっと驚かされることになります。

 以下、次号。


  1. 介護度が上がったり症状が進行した場合の入浴介助をどこかで受けられるかは、(まだ介助が必要でない)介護初期の段階で視野に入れておくと良いです。↩
  2. 介護『休業』ではなく、有給の介護『休暇』です。介護休業と違って介護休暇の取り扱いは個社毎に違うので、取得難易度がまちまちなのが悩みどころです。↩

あるITエンジニアが立ち向かった認知症在宅介護の記録(11. 定期預金の解約)

11. 定期預金の解約(2025/4)

 前回述べた、宿題の一つというのはこれです。

 先に結論だけ言っておくと、親が認知症と判断された時点で、定期預金は必ずすぐに解約して普通預金にしておきましょう。少なくとも、子供や介護者の手だけで、本人介入なく解約できる状態にしておくべきです。

 もう一つの結論として言うべきことがあります。

 介護費用の口座はネットバンキングが可能な大手金融機関にしておきましょう。その理由は追々。

なぜ定期預金をすぐに解約すべきなのか?

 介護者による介護資金運用が極めて難しくなるからです。

 定期預金はご存知の通り、解約しないと引き出しができないわけですが、解約には本人確認が必要になります。

 以前、家族信託の話をした際にも触れましたが、この本人確認という行為は認知症にとっては非常に相性が悪いのです。

 認知症が進行してくると、直前に言ったことを忘れてしまうなど、本人の意思が曖昧になりがちで、銀行などの金融機関はこうした振る舞いを責任能力の欠如とみなして有効と判断してくれないことが出てきます。逆に認知症が絡んだ手続きを抑止したなどと、金融機関が声高に叫ぶ例すらあるぐらいです。

 更に実務的な話をすると、認知症が進行すると、自分の名前(署名)すら困難になってきます。もし署名が求められた場合に、その場で名前が書けないとなると、手続きも進みませんし預金もおろせません。

 以前紹介した『認知症は決断が10割』にもこれは書いてあります。

 私が以降の手続きを苦労して完了してからこのくだりを読んだ際、『いや…本当にそうだよ』と心の底から同意し、首を何度も縦に振ったのを覚えています。

後回しになっていた預金対策

 介護の初期体制構築時に、介護費用の財源を確認するべく、預貯金についても父と話して整理していて、母の預金状態についても昨年の時点で把握はできていたのです。

 母の年金は普通預金とは別に定期預金として口座が分けられ、蓄積されていたことも知っていました。

 本来はこのタイミングで手を打っておくべきことで、私自身も定期預金の解約について声を上げてはいたのです。

 それが1年も遅れてしまったのは、一言で言うと、『そんなことに構っていられなかった』 というのが実情でした。

 肉親が介護に入ってしまったという精神的なショックもそうですし、介護サービスの理解と整理、主介護者である父からの悲鳴と対応、加えて私自身にも仕事があるわけで、親の資産管理にフルコミットしている余裕がとてもありませんでした。

 ただ、時間と認知症というのは残酷なもので、母の状態が1年でかなり進行しており、

  • 今後の介護の長期化に伴う介護費用負担
  • 施設に入った場合、介護費用がさらに増加する点
  • 現在はまだ会話が出来るが、進行すると会話すら困難になりかねない点

 この辺りを考えると、これが最後のリミットだと思ったので、GW前後の期間を利用して、この重い問題の解決に乗り出しました。

金融機関の解約手続きを徹底的に調べる

 まずは金融機関のWebページを隅々まで見て、定期預金の解約手続きを探しました。ところが母の預金の場合に限って、非対面1での解約手続きが一つも見つからなくて。

 この辺は明確な理由があって、このケースに関しては、母の口座は非常に条件が悪かったのです。

 というのも、①地場の信用金庫の口座で、②対面で口座を開設していたのが非常に災いしました。

 どちらかの条件ならまだ非対面手続きの可能性はあったんですよ。

 例えば①についてですが、後日、父の定期預金口座の一部を解約する際には、スマホからの解約作業一発で事足りました。父の口座はメガバンクの口座で、非対面での本人確認と解約手続きがしっかり整備されていたからです。非対面で開設した口座ではなかったんですが、この手続きはうまく行きました。

 ②については、母の口座の金融機関のページには『オンラインで開設した口座ではオンラインでの解約を受ける』旨の記載があったのです。逆に言うと、対面で開設した口座は対面で解約が必要、ということでした。

 このパターンとしては最悪の落とし穴に落ち込んでいる状況でした。

金融機関に電話する

 一方で対面での解約手続きについても詳細の記載がないので、これは直接電話して確認するしかないなと。

 ただ、短期記憶がだいぶあやふやになっている母に、銀行からあれやこれやと質問される事態は避けなければなりません。少なくともそうしないと危険だ、と私が判断するレベルまで認知能力は低下してきていました。

 父も年老いて細かい交渉や聴取ができそうもなかったので、私が息子として銀行に電話してみることにしました。

 …まぁこの時の交渉は結構大変でしたね。

 認知症という話を出さずに本人に負荷をかけたくない、という趣旨で話すべく、母の身体能力(移動がおぼつかなくなっており、負担をかけたくない)を引き合いに出して、父を代理人として解約したい旨話をしたんですが、どうしても本人確認は必須だ、との一点張りでなかなか通らない。

 非対面でやるなら、父が書類を記入して来店するのは良いが、今すぐと、解約手続き時の2回母に直接電話したいと言い出す。

 (そうしたくないから非対面で、って言ってるんだよ!)という心の声を必死に押し殺しながら交渉をしたのを覚えています。

 どうあっても意思確認が必要、という話で平行線になってしまったので、

  • 何度も母に質問をされたくない、という観点で行くなら、いっそ無理を押して来店した上で、家族全員同席の上で対面手続きを通したほうが良い

 と判断し、解約書類を父が受け取って、自宅で父と母で書類を書きつつ、1度だけ来店してその場で1回だけ意思確認する方向で着地させました。

 とにかく銀行にいる時間を最小限にしてボロを出さないようにするため、書類作成も家でできるように交渉しました。

 そこから父に書類を受け取ってもらい、母によく言い含めて書類を書きつつ、家族全員で行ける日程調整をし、という感じですね。

解約手続き

 GWの飛び石の平日を選んで、家族全員で解約手続きに行きました。あの日も確か雨の日でしたね…。

 予め銀行には話を通していたので、担当の方がすぐに出てきて別室に通されました。

 書類はすぐに渡したんですが、結構待たされていて、その間私はずっとやきもきしていました。

 しばらくしたら担当の方が返ってきて、家族(正確には母)に向けて解約手続きの次第と金額について話をしてました。

 最後に、『解約ということで問題ありませんね?』と母に声をかけたのですが…母が答えない。

 このとき私には緊張が走りました。ここで『いいえ』と言われてしまうと困るわけです。

 もちろん、母には父からも私からも、何度も話をしていますし、その度に母からも同意を得ています。

 定期預金の口座解約は今後の生活上絶対に必要だから。銀行の人に確認されたら、はい、解約します、と答えてねと。

 ところがこのタイミングで、一番大事な声が出なかったので、私としては非常に心配しました。

 そのまま、数秒沈黙が流れました。

 ところが、私が口添えしたほうが良いかなと口を開きかけた直前に、

 『…はい、わかりました。それでは手続きを進めます』

 と、担当の方がそのまま引き取って、別室へ戻っていき、しばらくしてから解約完了となり、無事に手続きは終わりました。

銀行を出た後で

 私は先に銀行を出たのですが、その後しばらく話し込んでいた父によると、担当の方自身も身内に認知症の家族がいたらしく、この手の解約手続きで苦労した経験があったそうです。

 先程母の声を聞かずに引き取っていったのも、おそらくそうした背景があってのことだったんだろう、と私も思いました。

 ともあれ私はここでようやく、大きなため息をつくことができました。

 この時の定期預金解約がうまく行かないと、ここから先の施設入所において介護資金を確保できなかったであろうことを考えると、母の資産管理としては失敗できない大一番で、(傍目にはそう見えないでしょうが)なかなかの大仕事でした。

 ただ、ひとまず道は開けたものの、母の症状進行は予想以上に早く、資産管理とは別次元の深刻な問題と対峙することになります。


  1. 第3回で述べたとおり、認知症と判断されて口座凍結されては困るので、なるべく非対面で完結させたかったわけです。↩

あるITエンジニアが立ち向かった認知症在宅介護の記録(10. 認知症家族の悩み)

10. 認知症家族の悩み(2024/6〜2025/1)

 ひとまず初期体制は整いましたが、だからといって介護が楽になるわけでもなく。母が健康なときはなかった悩みが色々と噴出してきて、都度悩まされることになります。

 夏頃まではまぁなんとか問題なく過ごしていたのですが…

介護者の不調に備える

父のコロナ感染(2024/9)

 この年の秋に、父が突然コロナに感染してしまったことがあって。当時きちんとワクチンをしていたのですが、感染経路も分からずに感染してしまったようです。

 高齢だったので予後が心配でしたが無事回復しました。

 ただ、その時に結構介護ワンオペの問題が色々噴出しました。

  • 母にも面倒を見てもらえないばかりか、逆に感染させるリスクがあり得る
  • 父の自己判断で、高熱の中一人で車を運転して病院に行ってしまった。
    • その結果、車を自宅の車庫にぶつけてしまい軽く凹んでしまった。

 母の面倒を見ている介護者が病気になってしまうと問題という点もそうですが、高齢の父の判断力が低下しており、本来はタクシー等で行くべき所車で行ってしまったという点も問題でした。

 それ以上にこの高熱による食欲不振と、車の運転を誤ってしまったことによる父の心身のダメージが結構大きかったようです。

 Google Chatで経緯は一通り把握していましたが、急遽私に電話が入ったので話をしてみると、かなり弱々しい声だったので慌てて実家に行きました。

 行って状況を聞いてみると、高熱による食欲不振で食事も取れておらず、精神的にも『もうダメかも』とかなり弱音を吐いている感じでした。

 ただ、たしかにこの時点で負荷はかかってはいたのですが、この後(翌年以降)に比べればこの頃の認知証の症状はまだそれほど強くなかったので、本人の体調から精神面に来ていると私は判断しました。

 近所の店でカロリーメイトゼリー1 を買ってきて、一袋二袋食べると元気がでてきたようで、しばらく回復に専念するように話をしてその場は帰りました。

www.otsuka.co.jp

 もちろん、父が回復できないようであれば施設入所も含めて、この時点で在宅介護からの撤退も視野に入れたのですが、しばらくゼリーを食べ続けていた所父の体調も回復し、心身ともに持ち直したので一安心しました。

ショートステイとの契約(2024/10)

 ただ、私はこの事態を結構重く見ました。

 父が体調不調の際に、介護負荷を引き受ける何かがないと、介護者も被介護者ももろもろ危険です。

 私も弟も母の状態を常時見ていられる状況ではないので、父が病気に伏したり入院等した場合に、泊まりで面倒を見てもらう機能が必要だと思ったのです。

 そこで、このタイミングでショートステイの導入を検討することにし、ケアマネさんに相談をしました。

ショートステイ(短期入所生活介護)

https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group12.html

 これまではデイサービスを使って、日中に母を預かってもらっていたのですが、ショートステイはいわゆる短期のお泊りで、夜間も含めて被介護者を預かってもらうことができます。

 食事、入浴も含めて終日面倒を見てもらうことができるので、一時的に介護家族から介護の負荷を軽減するのに有用です。

 デイサービスと違って夜間まで面倒を見る関係上、被介護者の心理的抵抗、介護家族の準備負荷が増えるのですが、それでもなお介護家族の負荷軽減に大きな効果があります。

 難点は短期であることで、施設入所とは違って、あくまでも日単位の預かりになるので、施設介護の代替としては基本考えないほうが良いです。

ショートステイの見学と契約

 ケアマネさんからは民間大手が運営しているショートステイ施設を紹介してもらいました。

 例によって厚労省の『介護事業所・生活関連情報検索』で調べた所、スコア自体はそれほど悪くはなかったので見学に行きました。

 デイサービスと違って設備自体はしっかりした低層コンクリートのビルで、きれいではあったのですが、人が少ないせいもあって若干閑散としていたのを覚えています。

 ショートステイともなると介護度も結構ばらつきがあるらしく、母以上に認知症が進んだおじいさんが、ヨロヨロと表に出ようとしては介護職員になだめられて返っていく姿を見かけたりもしました。

 母も一緒に見学したのですが、デイサービスのときと同様不安があるらしく『こんなところに行くのは嫌だ』とは言われたものの、また父の調子が悪くなった際に無理をされたり、(ガンの経過観察中でもあるので)入院されたりしたらそんな悠長なことは言っていられません。

 父からも私からも弟からも『万が一、お父さんが入院したときのためだから』 とその場は説得して、我々はこの施設と契約することにしました。

 施設と契約しても利用がなければ費用はかからないので、ひとまず転ばぬ先の杖ということで契約だけをしておいた感じです。

 ただ、実はこの施設は一度も利用することはありませんでした。

 ショートステイ自体は次の年(2025)に利用する機会が増えたのですが、別の施設を使うことになったのです。その経緯はおいおい。

元旦の話(2025/1)

 幸いなことにその後、父が体調を大きく崩すこともなく、なんとか家族全員で2025年の元旦を迎えることはできました。

 私も弟も実家に帰って、私が差し入れたおせちを食べていたのですが、食事の片付けをしている際に父と母が揉めているのを見かけました。

 実は1,2ヶ月前からモニタリング等で話題には上がっていたのですが、この頃から母は食器洗いの際に洗剤を付け忘れて洗ってしまい、結果父が洗い直す、みたいなことが頻発していました。

 これまで問題なくできていた食器洗いができなくなっている。認知症が進行している状況だったのです。

 このときも食器洗いをしようとする母と、洗剤をつけてないから自分で洗おうとする父が揉めている、という状況でした。

進行の抑止と家事負担の天秤

 認知症介護においては、『認知症になったからといって仕事を取り上げてはいけない』 とよく言われます。

 自分がこれまでやっていたことを取り上げられることによって、

  • 役割を取り上げられたことで自信が低下する
  • 脳への刺激が少なくなることで症状が進む心配がある

 この辺りを考えると、できるだけ家事などはやってもらいたいところですが、その一方で、

  • 任せられず見守りが必要になる
  • うまくできなければ結局介護者が実施する必要がある

 という点で介護者に対する大きな負担になります。

 この両者の天秤については悩んだところでした。

 父も家事の多くは母に委任してきたので不慣れな点もあり負担になっていたので、私からは家事の効率化(自動化) をしたほうがいいのでは、という話をしていました。

家事負荷軽減のための食洗機導入

 そういう背景の中で父と母の紛争を見かけたので、私は『食洗機を導入しようよ』と言いました。

 高齢者家庭になると新しいものを入れるのを嫌がったり、年金生活なので費用負担を気にしがちなのですが、こうやって揉め事が発生して、父の負担が増えるぐらいなら、金で解決する手段を選んだほうがマシです。

 父にも母にも『だいぶ歳とってきたから、機械にできることは機械に任せて負担を軽くしようよ。こんなんで喧嘩するよりずっとマシだから』と説得して、後日食洗機を導入することになりました。

介護サービスと家族の負担

介護認定更新と担当者会議(2025/1)

 ちょうどこの時期に、2024年初頭に申請した介護保険の認定期限が切れそうだったので、ケアマネさんに話をして認定更新をしてもらい、結果、引き続き要介護1が維持されることになりました。

 その状況を引き継ぐ形で、モニタリングのタイミングでサービス担当者会議を実施することになりました。

サービス担当者会議

 サービス担当者会議というのは、ケアマネ主導のもとで、介護サービス利用者の家族とサービス提供側の担当者が集まって行う会議で、状況の共有、課題の検討を行い、ケアプラン更新やサービス変更などのアクションにつなげる会議のことです。

 今回はデイサービスを利用していたので、デイサービスの担当者の方も実家に来て、父、私、ケアマネさんと会議をすることになりました。

デイサービスについて

 デイサービスの枠は、初期の土曜日の週1回から徐々に増えていて、3回まで来ていたのですが、この2月から4回になり、介護度1としては目一杯使えるようになっています。

 その一方でデイサービスでの状況を聴取したのですが、これだけデイサービスに行く機会が増えているにもかかわらず、母からなかなか不安が取れない、という話を聞きました。

 健常者なら本来、もうとっくに慣れているはずなんですが、認知症の進行に伴って、自分がデイサービスにいってきたこと、今も通っていることを忘れてしまうらしく、なかなか精神的に安定しない状況のようでした。

家事について

 私からは、前述の皿洗いの1件も含め、台拭きと雑巾を混同してテーブルを拭いてしまうなど家事の失敗が増えたことについて話をした所、

  • 確かに家事にはリハビリの側面もあるが、あくまでも介護力とのバランスの中で考えるべきものだと思う。
  • 例えば施設であれば介護力は家庭よりずっと高いので、家事をやってもらうことはできるが、家庭の介護力は限られているので、むしろ父を守る方向にしたほうがいいのでは。
  • 対認知症のための訓練はデイサービスで十分実施している。

 というアドバイスをケアマネさんから受けたので、食洗機導入も含めて自動化を進める方向で話をしていました。

認知症進行と今後のアクションについて

 他にも認知症の症状進行は見られており、一人で風呂に入りづらくなってきている点、2階のトイレの場所を忘れてしまう点など、状況が前より深刻になっているので、『今後症状が進行したたらどう対処すべきか?』を相談した所、

  • 『食べられないものを食べようとしてしまう』『排泄の失敗』『外への徘徊』が発生したらケアマネに対応を相談して欲しい。

 という話がでました。いくつかは長谷川先生のYoutubeで見ており、確かにこの辺はトリガーだなと思いながら話を聞いていました。

 一方で現状はまだ認知症一般としては日常生活が可能な範囲、という結論で終わったのですが、今から考えるとこの時点で進行の早さに気づくべきところだった気がします。

認知症家族の考えるべきことは多い

 こんな感じで、介護体制が整ったといっても、認知症介護から発生する課題は非常に多く、かつ広範で考えることは多いです。

 この他にも、

  • 夜間勝手に冷蔵庫を開けたり、父が間食を与えた結果体重が増えた件とか、
  • 毎年出していた年賀状をどうするかとか(結局年賀仕舞いした)
  • トイレに頻繁に行くようになってトイペの消費が激しいとか
    • これは過活動膀胱の診断を受けたものの、服薬してもなかなか改善せず、心理的なものもあるのでどうしようもなかったですね。
  • トイペも含めて買い物負荷を軽減すべくネットスーパーの利用を検討したりとか
  • 母が携帯を誤操作してマルウェアが入ってしまい、除去に非常に手を焼いたとか
  • 母の歯にトラブルがあって歯科に連れていくのに一苦労したとか

 それはそれは大小のトラブルが山のようにあって、その都度私や父が奔走する羽目になっています。

 そういった苦労も含めて在宅介護なんですが、この辺りは介護サービスを使ったとしてもどうすることもできず、家族にダイレクトに負担がかかる話です。

 それだけに、私としては、在宅介護というものは、

  • 介護サービスを使っていなかったら、確実に潰れていた負荷なのは間違いない。

 と同時に、

  • 介護サービスを使えばどうにかなるというのはとんだ勘違いで、そんな甘い話ではない。

 と言うべきことかなと思っています。

家族負担と介護サービスの限界

 介護を体験したことのない人は『現代は介護サービスが整っているんだから、それさえ使えば介護なんて楽勝なのでは?』という解像度しか持っていないことも多いです。

 従業員介護対策に力を入れている企業であっても『親の介護には介護サービスを使ってなんとかせよ』程度の話しかしないことが多く、介護サービスでフォロー可能な領域に対する深い理解なく、家族負担を軽く見るところは結構多かったりします。

 が、介護サービスはあくまでもビジネスなので、サービスの責任分界点が必ず存在するのです。

 その責任分界点から先で発生する介護トラブルは全て家族の負担になってきます。さっき挙げた問題のほとんどは介護サービスとは別の領域で発生しているので、サービスでフォローできないんですね。

 こうした(金銭的問題とは別の)家族負担に対して、介護を体験していない人は結構無頓着になりがちなので、蛇足ではあるんですが一言触れておきました。

片付けるべき宿題

 こんな感じで、認知症の進行に伴って負担が増えつつもどうにか回している、という状況だったのですが、同時に私は、片付けておくべき宿題のタイムリミットが近づいてきていることを感じざるを得ませんでした。

 次回はその話からしようかと思います。


  1. 私も食べられない時に命をつなぐのに使ってます。弱ったとき、ご飯が食べられない時は、最悪これだけ食べていればなんとかなります。↩

あるITエンジニアが立ち向かった認知症在宅介護の記録(9. ICT)

 今回私は遠距離介護だったので、ICTの力は必須でした。

連絡、情報共有インフラ

Google Chat & Google Driveによる連絡&情報共有

 介護の話が始まって、介護保険申請辺り頃に、家族で使用する連絡用のインフラをLINEからGoogle Chatに変更しました。

workspace.google.com

 我々息子が家を出てから、家族の連絡手段は基本的にLINEベースでした。

 認知症になる前は母もLINEで連絡をよこしていたぐらいなのですが、介護対応している間に、色々と不都合な問題に気づきました。

  • スマホの故障、交換時のアカウント引き継ぎ時に事故りやすい(メッセージ履歴が消えてしまう)。
  • 総務省から通信の秘密に関する勧告、指導を何回も受けている(が、改善が見られない)。
  • UIは(貧弱な)スマートフォン中心で、PCやブラウザなど、しっかり調べものができる環境のUIが使いづらい。

 LINEの動作で余計な時間を取られることが増えてきた上、個人情報をやり取りするので、品質的にもセキュリティ的にも信頼が置けないインフラはやだなーと。

 もう一つ、

  • 問診票や申請書、契約書など、家族間で共有すべき文書を取り扱う機会が増えてきた。

 という点から、文書共有も同時に考える必要がありました。

 であればこの機に全てGoogleに片寄せしてしまうのが、介護のワークフロー上効率が良いと思ったのです。

  • 文書を全てGoogle Driveで共有し、GoogleChat上でリンクを共有すれば、全てGoogleアカウント上で完結しますし、
  • Google水準のセキュリティレベルの高さが確保されており、
  • スマホアプリ、ブラウザI/Fの両方が十全に提供されており、老いた父も含めて問題なく利用可能。

 という形で欠点を潰した上で今後の介護対応に役立ちそうと踏んだので、家族に話をして乗り換えることにしました。

 ここから施設介護に至るまでの様々な資料共有、非同期的な検討の大半は全てGoogle Chat経由で行っており、施設介護に移行した今も変わっていません。

 これは我ながら英断だったなぁと思っています。

実家のIoT

SwitchBotによるIoTインフラ統一

 父のガン手術の頃から、実家のリビングには見守りカメラが置いてあったのですが、この見守りカメラも含め、実家のIoTインフラを全てSwitchBotに統一することにしました。

 最初にSwitchBotが話題に挙がったのはカメラと言うよりスイッチだったのです。

 母は寝る前、自分の部屋でTVを見てから寝るのが習慣だったのですが、認知症が入り始めた辺りからTVや電気を消さずに寝落ちすることが増えてしまって。

 認知症の悪化要因として睡眠不足があると知った父は、自分が寝る前母の部屋をチェックしてTVや電気を消して、母の睡眠を深くするように気を使っていたんですが、この手間をなんとかしたいなと思ったのです。

 そこで、

  • 母の居室にSwitchBot人感センサーを置いて、

SwitchBot 人感センサーwww.switchbot.jp

  • 動きが止まったら、SwitchBotハブミニからTVリモコンの代わりに電源断操作を行いつつ

SwitchBot ハブミニwww.switchbot.jp

  • ついでにSwitchBotスイッチで壁の照明の電源を切る

SwitchBot ボットwww.switchbot.jp

 という一連の機器を組み合わせた動作をスマホで組んで動かしました。

 これ自体もそれなりに機能していて、父の手間が多少マシになったんですが、見守りカメラが別インフラだとアプリが別で管理しづらいという問題もあったので、実家のインフラをSwitchBotに完全に統一することで、操作も確認もシンプルにしています。

スマートスピーカーの導入

 もう一つ、スマートスピーカー(Alexa)を導入することにしました。

 こういうEcho Showを居間に置いて、

 以下2つの機能を実現しました。

  • 服薬の時間や、デイサービスに行く時間など、日常のルーチンを決まった時刻に音声で知らせる
  • SwitchBotを組み合わせて、居間の照明やエアコンの音声を操作する

 ただ、これは思ったより受けが良くなくて。

 音声通知の方は最初のうちは良かったんですが、症状が進行してくると、逆には葉がこのアナウンスを聞いて不安になりがち、という話があったのですよ。

 また、音声による機器操作はどうしても普段の習慣に取り入れられなかったらしく、声で操作できるんだけど手元のリモコンで、というクセは、父母とも最後まで抜けなかったですね。 

睡眠状態の確認

 認知症が進行してくると、睡眠が浅くなって夜中に起き出してしまうことが増えてきます。

 この辺りの睡眠の浅さを父はだいぶ気にしていたので、スマホで確認できるような機器を見つけて、母の布団に設置するなどしたりもしました。

 これは布団やマットレスの下に敷いておけるので、寝る際に何かを付ける必要もなく、付けても間違いなく外してしまう母の睡眠状態を確認するには良い方法でした。

 ただまぁ、在宅介護の場合、睡眠状態についてあまり神経質に監視する必要はないのでは、とも思ってはいます。

 もちろん睡眠が浅いようであれば、認知症専門医に相談して適切な処方を受けるべきだと思いますが、個別の日毎の睡眠時間を細かく確認する必要があるかはちょっと難しいところです。

介護施設情報の整理と取り出し

 介護施設の情報検索は厚労省の『介護サービス情報公表システム』が最強だという話は前回しましたね。

https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/

 一般の方が検索する場合、このサイトや自治体が展開している介護施設情報サイトが基本的なI/Fだったのですが、私としてはもう少し手元のプログラムでなんとかできないかと思ったのです。

 というのも、事業所検索のページで細かいパラメータを設定して検索しても、一部のパラメータだけを変更して再検索するなど細かい操作をすると、現在のI/Fでは結構ストレスが溜まった1ので。

介護施設情報のビッグデータを探す

 そこで、この介護施設情報のデータとして、手元で扱えるオープンデータはないか調べてみました。

 政府は公共分野のオープンデータ推進に力を入れているはずですからね。

www.digital.go.jp

 そうしたら、こんなのが見つかったのです。

www.mhlw.go.jp

 厚労省はだいたい半年間隔で、『介護サービス情報公表システム』で使われている全国の施設情報を介護施設の種類ごとに分けて、CSVデータで公開しています。

 このCSVデータを例えばExcel等で開くと、こんな感じです。

手元で施設表を作って比較検討する

 このように、北は北海道から南は九州まで施設名などが並んでいるのですが、このオープンデータはかなり細かい情報まで使えます。

  • 緯度、軽度
  • 電話番号
  • 法人番号、法人の名称
  • 事業所番号
  • 利用可能曜日

 これらの情報を組み合わせると、例えばこういうデータ処理ができるようになります。

  • 自宅の緯度と経度を元に、半径○kmに存在する事業所を昇順で並べ替える。
  • 運営法人の種類を確認できる。(例えば、社会福祉法人/医療法人であるか、など)
  • 利用可能曜日でフィルタリングできる。(土日対応可能な設備のみを選ぶ、など)

 また、現状、『介護サービス情報公表システム』の施設のページは事業所番号をベースにURLが組まれているので、URLの生成ルールをよく調べると、

  • 『介護サービス情報公表システム』の指定した事業所に対応したURLを自動生成する。

 なんてこともできます(これは普通の人にはちょっと厳しいのでITエンジニア向け)。

 そこで私は、この辺りの絞り込みを手元でできる処理をpythonコードで実装して、

  • 実家の都道府県、市町村、緯度、経度を用い、指定した距離内に位置する介護施設情報を絞り込んだcsvを出力する。
    • このとき、必要最小限の列に絞り込みつつ、『介護サービス情報公表システム』の施設URLも一緒に生成して出力する。
    • 細かい情報を目視確認、拾い読みする際にこのリンクがあると作業が非常に楽。
  • 出力されたCSVファイルをGoogle SpreadSheetで編集し、フィルタで整列したり絞り込んだりする。
  • さらに、『介護サービス情報公表システム』の施設URLを開いて、基本情報に含まれていないレーダーチャートの値を調べて記入する。

 という手順で、手元で比較表を作ることにしたのです。

 こういう比較表を手元で持っておくと、『介護サービス情報公表システム』のインタフェースに左右されずに施設を選ぶ基準を様々変更しながら吟味できます。

 自分で比較表を持つと、独自の複雑な基準でフィルタできる点も大きいです。例えば『レーダチャートが千葉県平均以上で、認知症関連スコアが4以上』みたいな基準で絞り込んだりも自由自在です。

 加えて言うと、この比較表に別の情報源の情報を突き合わせることもできます。

 後で施設入所の話がでてきますが、実家のある自治体では、各施設の入居待機者数を一定期間ごとに公表していたりします。

 この入居待機者数の情報と、上記のような手元表の情報を突き合わせると、待機者数の情報を考慮に入れつつ、施設を選ぶことができます。

 唯一の欠点は、この情報が半年ごとの情報なので、公開後の施設の改廃、状況の変化に対応できていない点です。ここは『介護サービス情報公表システム』やケアマネに確認するなどして裏を取りましょう。

遠距離介護の重要な基盤はICTにあり

 という話でした。

 この基盤をもとに、私は実家の遠距離介護に取り組んでいて、施設介護に移行した今もなお、これを使って実家と母の面倒を見ています。

 さて。

 こうした環境構築をした上で、月1のモニタリングと毎週のデイサービスの利用を経て、どうにか体制自体は安定したのですが、それとは別に認知症は我々の予想より速く進んでいきました。

 次回はこうした事態の変化を、少しスピード早めに話していこうかと思います。


  1. ブラウザのバックボタンで戻ると、指定したパラメータが全て消えてしまって、一から入れ直しになってしまうのです。↩

あるITエンジニアが立ち向かった認知症在宅介護の記録(8. 情報源)

介護に立ち向かった際に参照した情報源

 ここまで初期体制構築について書いてきたのですが、この構築の間、私も結構勉強しまして。

 みんなの介護の川内さんから、『あまり勉強しすぎるな』と言われたものの、プロをハンドリングするには、プロの語彙をある程度知って、業務の流れを把握しておかないと手綱を失うものです。

 ここでは、私が在宅介護に対峙した際にあたった情報源をリストアップしておきます。

Youtube動画

長谷川嘉哉「ボケ日和 転ばぬ先の知恵」チャンネル

 我が家の介護は認知症だったので、何といってもこれが一番助けになりました。

www.youtube.com

 認知症専門医の長谷川先生がYoutubeで情報発信をしてくれていて、認知症介護で非常にきついポイントについて、的確なアドバイスをしてくれます。

 非常にたくさんの動画があるんですが、認知症家族に対して一番おすすめなのはこれです。

www.youtube.com

 認知症介護は脳の進行度という見えない敵が相手の撤退戦になるんですが、この進行度というのが読めないのです。予想より早かったり遅かったりする。

 これに付随して介護家族の負荷も読めなくなってきます。急に介護負荷がぐっと増え、そのままズルズル継続する可能性もあるのです。

 さらに、認知症は進行すると社会的にできることが加速度的に減っていきます。最初は元気に散歩できていたのが、そのうち銀行にもいけなくなり、最後は名前も書けなくなる。

 単なる身体の老化と違う点はここにあって、認知症家族は、こうした将来の不確定性について、先に手を打っておかないと詰んでしまうのです。これが非常に怖い。

 なので、『今は大丈夫』と思っているうちに、将来必要になってくる手を『今』打っておくことが非常に重要になってきます。

 もう一つは、これから出てきますが施設入所に関する決断と動き方の話です。

 認知症は残念ながら進行不可避です。いつかは必ず在宅介護負荷が自宅の介護力を超える日がやってきます。

 なので、在宅介護をしているタイミングから、

  • 施設入所をいつ、どのように決断するか。
  • 施設をどう選ぶべきか。
  • どのように自分の心(自分の中の罪悪感)の折り合いをつけていくか。

 これらを先に、正視眼で考えておく必要があります。

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 この他にも、認知症介護家族にとっては、状況によってかなり刺さるものがあると思いますので、是非探してみてください。

親ケア.com

 もうひとつはここですね。

www.youtube.com

 こっちは認知症と言うより介護全般の基礎知識を付けるのによいです。

 介護認定の話とかもここで説明されています。

www.youtube.com

 あとは施設入所のところでもかなり背中を押してもらいました。

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 これは後でも出てきますが、些細なことながら、施設に入れる時、介護家族が本当に悩むことです。

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書籍

認知症系

 書籍系で一番効いたのはこれかもしれません。

認知症の親を介護している人の心を守る本

 特にこの図が非常に重要です。続けられる介護と続けられない介護の差。

 本人が満足でも、一部の人間が割りを食うような介護ってのは続けられない介護です。

 介護に関わる関係者が程々に割りを食い(お金や時間を失う)ながら、本人にもある程度の不自由を負ってもらいながら実施する介護というのが、実は続けられる介護です。

 この割り切りは在宅介護の体制維持上、極めて重要です。『本人最優先!』という哲学を中心に据えてしまうと、必ず誰かにしわ寄せが行くからです。

 例えば本人に遠慮しすぎると、家族の負荷を軽減するための介護サービスを導入できないという問題が発生します。また、本人の意思を理由に外部や第三者が余計なことを言う現象(いわゆる"ぽっと出症候群")によって介護家族が責められたりしがちです。

 介護の負荷に聖域はなく、口を出すほどの関係者なら責任や負荷も一緒に負ってもらうし、それは本人も例外ではない。

 この割り切りがしっかりできると、介護体制全体として、必要な介護サービスの導入も(本人の意志とは別に)冷静に進められますし、施設入所も冷静に考えることができるようになります。

 これ以外にも、認知症介護でぶつかる個々の問題に対する実践的なアドバイスが多くおすすめです。

認知症は決断が10割 介護は、決断次第で天国にも地獄にも!

 前述の長谷川先生の本です。

 ちょうど介護中に出版された本で、認知症介護家族は一読しておくと良いです。

 この本の重要性は、先程Youtube動画をご紹介した際に触れた決断の重要性で、まさにタイトルにそれが示されています。

認知症患者さんを抱えるご家族が、介護生活を送る上で、どんな『決断』をすれば後悔せずに済むのか

 について、しっかりしたリストを元に章立てが行われています。

 私はこれを読む時点で長谷川先生の動画をガッツリ見ていたので、『決断、大事だよね』ってうなずきながら読んでたんですが、今から認知症の家族の介護を始めるという方がいたら、たぶん最初にこれを読んだほうが良いと思っています。

ボケ日和

 同じく前述の長谷川先生の本です。認知症の進行を春夏秋冬に割り当てつつ、症状進行について症例を紹介しながら説明しており、認知症の全体像を捉えるための読み物としてさっと読める本です。

 個々の介護の局面に対して効く系の本ではないのですが、この本がありがたいのが、『認知症進行の全体像が見える』こと。

 今どの季節にいて、これからどういうことが想定され、最終的にはどうなるのか、という進路、方向性を示してくれる点が貴重です。

家族で「軽度の認知症」の進行を少しでも遅らせる本: 正しい理解と向き合い方

 これは参考程度に読みました。

 悪くない本でしたが、我が家で診断を受けた際はすでに中等度で、進行抑制と言うより介護に完全に入ってしまっていたので。

認知症の人の「かたくなな気持ち」が驚くほどすーっと穏やかになる接し方

 健常者だとなかなか想像できないんですが、認知症の人と話をする、ってのは、実は結構難しいのです。

 単に記憶が落ちているという中核症状だけではなく、周辺症状によって行動が健常者とは変容しており、その結果自信を喪失したり、逆に怒りやすくなったり、不安になるといった精神の不安定さが高まるからです。

 認知症家族に対応する際には、健常者と同じように、安定した記憶、精神を期待して対話するのではなく、

『本人の意志に逆らわないながらも、必要に応じてこちらの進んで欲しい方向に誘導する』

 といった特別な配慮が必要になってきます。

 そういった事柄について気づき、示してくれる本です。対応がギスギスする前に読んでおくと良いと思います。

親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと

 子供の視点から、親が認知症になったときの実務的な体制構築を考える際に読むと良いと思います。

 特に遠距離介護の際にどうすべきかに注力している点がこの本のポイントです。

 スマートスピーカーによる服薬の呼びかけとか、見守りサービスとか、IoTの活用などについてはこの本を読みながら考えました。

介護全般

親不孝介護 距離を取るからうまくいく

 この本については前述しましたね。遠距離介護が始まることを想定して最初に読んだ本で、これをきっかけに介護相談に臨み、川内さんと話をしています。

資産管理系

ゼロからはじめる「家族信託」活用術(三訂版)

 一応家族信託についても読んで勉強しました。

 この本は"士業、専門家のための"と書いてある本なので、一般の人が読むのは結構難しく、法律の基本的な知見や読書体力が必要な本になってます。

 一冊読んで思ったのは、

  • 家族信託は要は信託契約なので、自力で契約を組むのもできなくはなさそうだけど、法域が広く複雑なので、やるなら専門家を噛ませるべきかもな。
  • 会社やマンションを持っているなど資産規模が大きい人にとっては、専門家込みでやる価値はあるが、資産が小規模ならそこまで…。

 というところでした。

 このあと、施設入所までの間に母の資産を整理していくことにはなるのですが、一部の実務は私だけでやりきってしまっています。

 今振り返っても家族信託契約を巻いて、サポートの専門家を付けるような規模ではなかったな、と思っています。

Webサイト

介護事業所・生活関連情報検索

 これはケアマネ探しのところで紹介しましたが、私は使い倒しました。

https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/

 居宅介護支援事業所(ケアマネ)、デイサービス、ショートステイ、グループホームと、施設探しの際には必ずこのページで裏を取っています。

 使い方については前述したのでそちらをご参照いただければ。

 私はこれ以外の介護情報検索サイトは一切使っていません。このページの使い方を知っているというのは、ケアマネと同等の検索能力を持っているのと同じなので。

要介護認定

www.mhlw.go.jp

 厚労省の介護認定に関するページです。ここは介護認定を受ける際に参照しておくべきです。

 特にリンクが貼られているこの2冊は、一度通読しておくと良いでしょう。

  • 認定調査員テキスト
  • 介護認定審査会委員テキスト

 初回の認定は前者を読み解いた弟が職員と対話しましたが、次回、介護度変更を賭けた更新認定では私がこの2冊両方を徹底的に読み解いて対策することになります。

自治体の介護に関するサイト

 お住まいの自治体にはたいてい介護に関するサイトがあるはずですが、そのサイトは頻繁に目を通しておくと良いです。

 例えば私の在住している千葉県船橋市だとこんなサイトになっています。

www.city.funabashi.lg.jp

 ここから船橋市独自の介護施設検索ページにアクセスしたり、介護家族交流会など、より地元に近い情報を得ることができます。

 自治体によっては居宅介護支援事業所(ケアマネ)の受け入れ可能人数とか、グループホームの待機者数などが公開されています。私も参照しながら母の施設利用を検討していました。

 とりあえずこれぐらいですかね。このページはまた気がついたら適宜情報を追加しておきます。

 次はちょっとITエンジニアっぽいことを話しましょう。介護を円滑に行うために考えたインフラや自宅の設備に関する話です。

あるITエンジニアが立ち向かった認知症在宅介護の記録(7. 認知症専門医への転院)

認知症専門医への転院(2024/5)

診断前後のかかりつけについて

 元々、もの忘れ外来に行く前から、母は精神科に通っていて、薬の処方を受けていたことは以前に書きました。

 で、日本医大で認知症の診断が下ったあとも、診断結果はその精神科に連絡され、引き続きそこから認知症の薬(アリセプト)を処方されていたのです。弟の伝手とはいえ、紹介状はその精神科から出ていましたからね。

 これとは別に、母には脂質異常症の既往があって、別の内科から治療薬の処方を受けていたのです。認知症初期にオーバードーズで問題になったのは、主としてこの辺りの定期処方薬と、精神科の薬に関するものでした。

転院を考えた事情

 ただ、私が見た感じ、ここから先の介護を考えるに当たって、今の医療体制を継続するのはあまり良くないかも、と思っていました。

 主として理由は3つあります。

1. 精神科の先生との信頼関係が欠如しかかっていた

 精神科は徒歩圏内ではなく、父が母を車に乗せて通院していたのですが、特に認知症の診断あと辺りから、通院に連れて行った父が色々と心配をこぼし始めたのです。

 『本当に効果があるんだろうか』『わからないまま言われたとおり処方しているんじゃないか』とか。

 私からは『よく先生と対話してみたほうがいいよ』とは言ったのですが、どうも毎回行くたびにそんな感じで、腹を割って話せていないようでした。

 母は結局1年以上精神科に通院したものの好転せず、私が問題提起して弟が病院手配して、ようやく真因として認知症が明らかになったという経緯があります。

 父にとってみればこの経緯は、真因にたどり着けず1年間も漫然と薬を処方されたのも同然で、主治医の専門性を疑うのに十分ではあり、無理のないことではありました。

2. 認知症の専門性を求めるべき局面であること

 認知症と介護の準備を進める中で、こういう本を読みました。

 この本は認知症の家族を見る子供(親族)の心身の負荷をどのように軽減し、体制構築していくか、という本なんですが、こういう図が載っていました。

 認知症については認知症専門医1、他の病気についてはかかりつけ医という分担が書いてあります。認知症の症状進行に従ってしっかりと専門医に頼ることの重要性が示されています。

専門医制度について

 日本に医者はたくさんいるんですが、いくつかの医療分野においては、その分野の学会などの団体が、当該分野に特に優れた/詳しい医師に対して『専門医』という認定を与えています。

 実は認知症についても日本認知症学会が『認知症専門医』を認定しています。この認定を受けた医者は認知症について十分な経験と知識を持っており、認知症への専門性を期待できる医師です。

 認知症専門医がどこにいるかは、認知症学会のページから調べることができます。

dementia-japan.org

 このページから、認知症家族がお住まいの都道府県、市町村を入れると、認知症専門医が所属する病院、または医師名が出てきます。

 あとは各病院のページから診療状況や来歴を確認し、目星がついたら是非相談に行くと良いと思います。

認知症家族の状況を鑑みる

 我々の状況に照らしても、専門性の高い認知症専門医にバックアップしてもらうのは大変ありがたいです。そもそも、認知症を診断してくれた日本医大の石渡先生も、上記の本の著者である西村先生も、そして、この後でご紹介するYoutube動画で啓発してくださっている長谷川先生も、全て認知症専門医です。

 これらの先生方から認知症について得られた知見は、認知症について何も知らなかった我々家族にとって非常に重要なもので、相当助かりました。

 これから中核症状が進行し、周辺症状が出てきた場合、どのように対処していくべきかということを、家族としては相談したくなってくるはずです。こうしたときに、認知症の専門性を十分に持った医師に相談できる環境を作っておくべき、と私は思いました。

3. 今後の通院負荷の増大

 もう一つは、母の症状の進行によって、通院の負荷が確実に増大していくであろうことです。

 今はまだ自力で歩けていて、父と同伴で病院に行くことにそれほど困難はないものの、ゆくゆくは表に連れ出すことも困難になってくる可能性があります。そうなった時に、車で連れ出して複数の医療機関に何度も受診しなければならない、というのは家族にとって負担になります。

 精神科は車で行かなければならない距離なので、父が車で連れ出す必要もあります。車が使えなくなった場合、公共交通機関で診察に行ける、理想的には徒歩で行けるぐらいの距離に病院があれば、今後の通院負荷に対応しやすくなるのでは、という思惑もありました。

認知症専門医を探す

 実は日本医大に行く前に認知症専門医については少し調べていて、

  • ちょっと遠いが、精神科も持っていて、認知症向けデイケアを併設している医院

 を見つけていました。もし弟が日本医大を勧めなければ、ここに行ってみようと思っていた病院です。

 ただ、主介護者として母を連れて行くのは父なので、過去の経緯を考えると、父との相性が合うかどうかが大きなポイントです。なので一度父にこの病院にコンタクトを取ってみるように話をしました。

 相談してみた所『いつ来てもいいよ』と先生に言われ、コミュニケーションも問題なかったので、特に問題なければそこに…と思っていました。

 が、改めて認知症専門医の検索ページから、実家近辺の専門医を調べ直した所、

  • 最寄り駅付近でバスでも行けそう、かつ内科を併設している医院

 を見つけました。

 結構目立たない病院で、私も時々実家に帰る際に見かけてはいたのですが、単なる内科だと思っていた所、ホームページを見ると『脳神経内科』『認知症について』とさり気なく書かれていたのです。

 合わせて包括に『認知症介護についてよく連絡をする(良い評判がある)医院ってどこがあります?』と質問した所、その医院の名前がでてきたのです。

  • 最寄り駅、バス通院も視野に入り、相対的に通院負荷がだいぶ低くなる
  • 内科を併設しているので、別のかかりつけの薬も一本化でき、ワンストップで完結できる可能性
    • 更に言うと、父のかかりつけも引き受けてもらえば両親ともに1医療機関で済む
  • しかも包括との連絡もよく行っている(認知症介護実務にも通じている)

 これらの条件が揃っているなら言うことはないなと。

 父から連絡を入れたら初診の予約が取れたので、(平日でしたが)私も都合を付けて付き添うことにしました。

転院の初診

 今でも忘れませんね。あれは雨の日の午前中でした。

 病院の前で父母と待ち合わせをして病院に入り受付を済ませた所、父はヒアリングのために診察室に入っていき、一方で母は複数の検査(CTとか血液検査とか尿検査とか)を受けることになりました。

 母には私が付き添っていて、待合室で待ちながら個々の検査を受けていくという流れで、私は都度検査に母を送り出していたのですが、全ての検査が終わって母が戻ってきても、父が一向に帰ってきません。

 この頃から母は、病院で待つことに徐々に耐えられなくなってきていました。

 昨年の日本医大でも結構待たされたのですが、それでも普通に会話をしてしっかり待てていたはずの母が、非常に落ち着かなくなってきていて、とにかくなだめるのに苦労した記憶があります。

 数分ごとにトイレに行きたがっていたり、5分ごとに『まだ帰れないの?』と私に聞いてくるなど、かなり堪え性がなくなってきていました。トイレについては後で『過活動膀胱』の診断が下ることになるのですが、同じ質問に同じように淡々と答える、という心づもりが事前にできていなければ、私にも相当なストレスになっていたでしょう。

 ただ、その時に待たされた時間は客観的に見ても結構長い時間だったのも事実です。認知症の周辺症状由来で落ち着きがなくなっていたのは事実ですが、私から見ても2時間近く、父が診察室に行ったまま帰ってこないのは疑問ではありました。気づけば午前の診療時間は終了し、受付も閉じ始めています。

 もうお昼になるぞ、というタイミングで、母と私が診察室に呼ばれたので入っていくと、診察室には父がいて、前には認知症専門医の先生がいました。

 先生は母にいくつか簡単な質問(眠れているか? 食事は取れているか?)をし、その時の母は特に問題なく答えていました。それで診察は終了。

 だいぶ長かったね? と父に話を聞くと、どうもかなり長い時間、母の状況をヒアリングしていたそうです。認知症診断に至るまでの病状の経緯はもちろん、母の生い立ちから現役時代の仕事の話まで、ありとあらゆる情報を収集していたのだとか。

 一人の患者に対して充てる時間としては法外なぐらい大きく、全力で患者の状況を把握するという姿勢を感じました。

 その上で先生は、『認知症の診療ガイドラインに基づいて診療するからね』と言ってくれたそうです。

www.neurology-jp.org

 これは日本神経学会が発行した医療者向けのガイドラインなので一般人が読むのは難しいのですが、認知症の診療方法、基準、指針について専門家がコンセンサスを取った方針なので、我が国の標準に基づいて対応いただけるということで、父の疑念を払拭するに良い説明だったと思っています。

 母のかかりつけと薬についても合わせて話をしており、引き受けてくださるという回答だったそうです。これで母についてはかかりつけと認知症対応を最寄りの医院に一本化することができました。

 これから母が施設入所するまでの間、過活動膀胱に対する方針、食事の管理に関する問題、健康診断対応、皮膚や腰の問題への対処、補聴器の相談など、あらゆることを相談しており、非常にお世話になりました。

 この状況を持ってしても、この先の認知症対応は大変だったのですが、もし転院をしていなかったら苦労はその比ではなかったと思っています。

 認知症介護における体制構築においては、医療機関の座組についても十分な専門性でバックアップいただきつつ、負荷最小となるような構成を立てておくことをおすすめします。

ようやく一段落

 というわけで、これでひとまず母の認知症介護の初期体制構築は落ち着きました。

 ここから約1年半、在宅介護が続いたのですが、次回は続きを話す前に、この在宅介護を支えた情報収集の方法やら、自宅の環境構築やらと言った情報についてご紹介する回にしようかと思います。


  1. 認知症専門医とは別に、独立行政法人国立長寿医療研究センターが養成している『認知症サポート医』という制度がありますが、これはどちらかと言うとかかりつけ医と専門医の橋渡し役に近い存在です。専門性の観点では認知症専門医のほうが上ですが、お住まいの地域に専門医がどうしてもいない場合は、サポート医にお世話になってもいいと思います。↩

あるITエンジニアが立ち向かった認知症在宅介護の記録(6. デイサービス開始)

デイサービス(2024/4)

ケアマネのアサイン

 包括からケアマネの紹介を頂いたので、私、父、弟の3人で相談して、お願いすることにしました。

 しばらくして契約手続きのため自宅に訪問頂き、契約に関する説明を受けました。

居宅介護支援事業者との契約

 要介護1以上でアサインされるケアマネ(介護支援専門員)は、基本的に民間の事業者(居宅介護支援事業者)から派遣されてくるので、支援を受けるに当たっては利用者(並びに家族)は契約をする必要があります。

 と言ってもそんな難しいことではありません。

 ケアマネは、在宅介護を継続するに当たっては不可欠な支援をしてくれます。

  • 居宅を定期的に訪問し(モニタリング)、利用者や家族が抱える問題を把握する。
  • 利用者や家族が利用可能な介護サービスを紹介しつつ、これを適切に利用して課題解決を図るための居宅サービス計画(ケアプラン)を立てる。
  • 利用する介護サービスとの連絡調整を行う。
  • 介護認定の更新申請や区分変更申請を支援する。必要に応じ手続きを代行する。

 介護サービスを行っている事業者は星の数ほどありますが、これらのサービスから最適なものを家族が選び出すのは大変です。

 ケアマネは利用者の状況を把握して、適切な介護サービスを探し、組み合わせて提案してくれるので、利用者や家族は膨大な検索負荷を負わず、ケアマネの提案を吟味しつつ利用するサービスを決定することができます。

 このケアマネの活動に関する必要については全額介護保険から充当されるので、利用者は基本的に無償で支援を受けられるのですが、一応これらの支援を受けるに当たっての注意事項等もあるので、契約を取り交わすという話です。

早速の紹介

 で、来てくれたケアマネさんは既に下調べを済ませてくれていて、いくつかのデイサービスの紹介をしてくれました。

デイサービス(通所介護)

 デイサービスは在宅介護サービスの代表格の一つとも言えます。日中の時間帯だけ施設に行って介護を受けるというサービスです。

 提供するサービスは施設によって結構違いがあるんですが、基本は食事、入浴、機能訓練、レクリエーション辺りかと思います。

 高齢者サービスのステレオタイプとして、幼稚園のようなレクリエーションを高齢者にやらせている光景をTVで流したりしていることもありますが、あれはあくまでも一側面に過ぎません。

 実際、認知症が進行してくるほど、それ以外の機能が非常に重要になってきます。この辺については追々。

 さておき、介護相談の際に川内さんに言われたとおり、私としては父と母にある程度距離を作る必要があるので、初手としてデイサービスを使い、まずは日中に母を預かってもらいつつ、父に母から開放された時間を作らなければなりません。

 一方で認知症の母を適切に預かってくれるサービスがあるかどうか、我々に探しきれるかどうかは結構不安がありました。

 ケアマネさんは認知症という状態を鑑みて、地域密着型通所介護というタイプのデイサービスで4箇所ぐらい候補を選び、パンフレットを持ってきてくれました。

 地域密着型通所介護というのはデイサービスの一種なのですが、

  • 比較的少人数で、個々の利用者に目が届きやすい特徴がある
  • 要介護1以上、かつその市町村に在住していないと利用できない

 という特徴があります。

 デイサービスは大規模だと数十人単位でまとめて面倒を見るところもありますが、認知症の場合は比較的目の届きやすい環境が好ましいという配慮1でした。

 とりあえずパンフレットを見てみると結構特徴がありまして。

  • 食事が美味しくて非常に人気が高いところ
  • 古民家を活用して田舎の家っぽくしずかに過ごせるところ
  • 音楽療法に力を入れているところ
  • 菜園を持っていて農作業ができるところ

 いろいろな特色があるんだなぁと感心しました。

母に適したデイサービスは…?

 このデイサービスの紹介を受ける前の事前連絡で、一つ質問されたのが『母の趣味、嗜好』についてでした。

 これから新しい施設に行くに当たって趣味、嗜好に合った所を選ぶというのは結構重要なことで、それこそ本人の日頃の趣味をデイサービスでできれば、馴染むのも非常に速いと思うのですが、この点に関しては非常に泣き所ではありました。

 というのも、母には趣味と言えるほどの趣味がなかったのです。

 振り返ってみれば父母が結婚した頃は我が家は貧しくて、母は幼い私を床で遊ばせながら、当時の法務やビジネスを支えていた和文タイプライターの内職で生計を支え、私が小学校に入ってからも主婦業とは別に仕事を持ち、更に地域社会に貢献するなど、趣味に費やす暇がない人生でした。

 趣味がないと歳を取ってからボケる、と昔聞いたこともあって、私は高校の頃からずっと、なにか趣味を持ったほうがいいよと母に言い続けてきたのですが、ついにこの歳まで母は趣味らしい趣味を持つことがなかったのです。

 強いて言えば母は園芸が多少好きで、庭の花をよく育てていたので、趣味嗜好の一つとしてガーデニングという話をしたのですが、デイサービスのマッチングという観点ではあまり有用な情報にはならなかったなぁ、と今でも思っています。

 趣味を持っておくということと、親の趣味嗜好を押さえておく、という意外な点が、こうした施設選びにおいても効いてくる、というのは知っておくと良いと思います。

施設見学

 というわけで契約の締結は終わり、紹介は受けたものの、デイサービスの選択に関する決定打がなかったので『見学で決めるしかないね』という家族の合意に達しました。

 どのみち本人の趣向に好適なデイサービスがあっても、実際に見学してみなければ実態は分かりません。

 決め手がなかったのでまずは『食事が美味しくて非常に人気が高いところ』かねぇ、という話をしていたら、ケアマネさんが早速電話を書けて見学の予約を取ってくれました。しかも当日の午後に。

 この辺り、ケアマネの存在意義の重要なところで、適切にお願いをすれば介護施設との連携に家族の手がかからないのでありがたい所です。

 結構バタバタしてたんですが、家族が揃っている数少ない機会だったので、昼食後見学に行くことにしました。

 だいたい自宅から来るまで10分ぐらいの距離でした。デイサービスを使う場合送迎があるので、自宅からの距離も考慮すべき要素の一つです。

 着いたのは一見するとただの2階の一戸建て住宅でした。インターホンを鳴らしたら職員の方に迎えていただいたので入室。

 土曜日だったのですが利用者の方がいてレクリエーションをしていました。我々はその隣室で説明を聞いたんですが、

  • 戸建て住宅の規模なので目が届きやすいという点
  • 利用者が至極和やかだった点

 という2点が印象的だったのを覚えています。ここであれば母も不安なく過ごせるのではないか、と思ったので、その場で家族で相談し、申込みをすることにしました。

 ケアマネさんに連携してもらい、後日、デイサービスとの契約を行い利用開始という段取りになりました。

デイサービス利用の難しさ

 その一方で、我々にとっては結構難しい課題が3つ残りました。

1. 人気のデイサービスは枠の取り合い。

 後で調べたんですが、そのデイサービスは地域でも非常に人気が高く、なかなか利用枠が空かないという問題がありました。

 申し込んだタイミングだと、週1回(土曜日)しか空きがなかったので、やむなく週1回から利用を開始しました。

 母の場合、要介護1の認定を受けていたので、週4ぐらいまでは介護保険の範囲内でデイサービスを使える余裕があり、かつ私としては週1と言わずもっと利用して父の負担を軽減したかったので、この点はなかなか痛いところでした。

 とはいえ複数ヶ所のデイサービスを使うというのは、これはこれで大変です。点々とするので定着もしづらく、母にも父にも負担がかかります。

 一方で、いきなり週4もデイサービスを使うと、ずっと家にいた母が環境変化に適応できない可能性もあったので、将来の利用枠拡大を念頭に、ケアマネさんに継続的に空き枠の確保をお願いすることにしました。

 最終的に週4回まで枠を確保できたのですが、そうなったのはだいぶ後のことです。

2. 送り出しとお迎え時に家族に負荷がかかる。

 デイサービスではたいてい送迎サービスがあるので、指定時刻に玄関先まで連れてこれれば、あとは職員の方にお任せすれば施設までは連れて行ってくれます。

 逆に言うと、玄関先まで本人を連れて行くところまでは家族の領分で、本人の状態によってはこれが結構大変なのです。

 母の場合、認知症が出ていたとはいえ、この当時はまだ意識がはっきりしていたので、突然自宅外の施設に連れて行かれる、という点に違和感を持っていました(これはどの在宅介護の家庭でもそうだと思います)。

 私と父は『母をどうやって玄関先まで連れてくるか』ということに心を砕き続けることになります。

 母には『家にずっといると体にも頭にも悪いから、心身の訓練のために行ってきて欲しい』と話をするのですが、それでも『なんでこんなところに行く必要があるの?』と何度も父に、私に尋ねます。

 これこそが認知症介護家族にとっては最もきつい点で、どれだけ趣旨を説明しても、そしてその趣旨を納得しても、納得した事実も説明された趣旨も全部忘れてしまうのです。

3. 世間体と本人に対する配慮

 さらに、ことここに至っても、父はデイサービスの利用になかなか前向きになれずにいました。

 父に聞いてみると、どうも母自身が『デイサービス利用をあまり知られたくない』と父に言ったらしいのです。

 今思うと、おそらくこの時、認知症といえども母にも病識がないでもなかったのだと思います。

  • 自分が少しおかしな状態になっていて、介護サービスの世話になっていると言う(主観的にはみっともない姿を)近所に知られたくない。

 という母の認識を父が汲んでしまって、頭では分かっていても、どうしても後ろめたさがあったのだと思います。

母の世間体について私が思っていたこと

 この時私によぎったのは、私自身が中学生の頃不登校になった際の母の反応でした。あの時もそうだったな、と。

 当初は自分の息子が不登校という、人並みの子供とは異なる無様な状態になったことを恥ずかしがっていたんですよ。

 その後、我々家族が世間体を捨て、外部から様々な支援を受けた結果、私は不登校を克服して、学業成績の階段を駆け上がっていきました。

 このプロセスの中で父母は世間体という縛りを一度脱したはずで、ピンチの時はなりふり構わずなすべきことをすべきだ、という学びを得たはずだと私は思っていました。少なくとも私はその学びをずっと持ちつつけていたので。

 一方で、高齢になると人間は後天的な学びを捨てて、もっとプリミティブな個性に回帰していくものなのかもしれません。ましてや母はまだ自分が歳相応の状態だと思っていて、父に想像以上に負担をかけている自覚がないので、ピンチという認識もなく、世間体を優先してしまったのでしょう。

障害の克服

 しかし今はそんなことを言っていられる状況ではありません。母に過剰に忖度した結果、一家が介護負荷に押しつぶされたら元も子もありません。

 認知症になることは別に恥じることでもなんでもないし、歳をとったら社会に介護してもらうのは我が国の制度設計上当然のこと。

 折しもこの歳に施行が開始された認知症基本法の趣旨を念頭に、折れそうになる父の送り出しの背中を押すようにしました。

 ひとまず初回の送り出しは(平日の朝だったんですが)仕事を調整して私が立ち会い、私が母に何度も趣旨を説明し、手を引いて家の外に連れていき、職員の方におまかせするようにしました。

 一旦職員の方の前まで来てしまえば、彼らはプロなので、認知症の人にとって有効な誘導を上手にしてくれます。

 とにかく送り出しの型を作り、父母がこのデイサービス利用に慣れる形に持っていくことが必要でした。

 幸いなことに2回目以降は父だけで送り出すことができ、デイサービス送迎に遠隔地の私が立ち会うことはなくなりました。

 ただ、このあと利用回数が増え、母の認知症が進行していくとともに、デイサービスで確保した自由時間と相反する形で、父の送り出し負荷は大きくなっていくことになります。

初期体制構築最後の課題

 というわけで、介護相談から始まった介護体制の初期構築はサービス利用開始という形で一応収束したのですが、もう一つ私にはやるべきことがありました。

 それは母のかかりつけを認知症専門医へ転院させることです。このお話は次回。


  1. 実はデイサービスの中には認知症対応型通所介護という、認知症にドンピシャなデイサービスがあるのですが、父母が居住していた自治体の認知症対応通所介護は少なく、家から結構距離があったので見送っています。↩