情報処理安全確保支援士の経過措置対象者に関する問い合わせと、回答を受けた私の決断

はじめに

 ここしばらく表題の件でIPAと話をしていたんですけど、彼らと経産省から回答が来たので、経過措置対象者たる私1 の肚も決まったという話でもしようかなと。

情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)と経過措置対象者について

 情報処理安全確保支援士という『国家資格』があります。この資格は登録することで名乗ることを許される名称独占資格です。

 この資格はIPA(情報処理推進機構)が情報処理技術者試験と同時に実施する試験に合格すると、登録する権利を得ることができるのですが、IPAが過去に実施していたセキュリティ関連試験である『情報セキュリティスペシャリスト』と『テクニカルエンジニア(情報セキュリティ)』の合格者も、2018年8月19日までに申請を行うことによって、登録を行うことができます。

 これは経済産業省令に基づく経過措置によるもので、この経過措置を受ける2資格を有する者のことを『経過措置対象者』と呼びます。

経過措置の法的根拠

   経過措置対象者が登録資格を有する法的根拠は、情報処理の促進に関する法律施行規則(平成28年経済産業省令第百二号)の附則第4条によります。

この省令による改正前の情報処理技術者試験規則(以下「旧規則」という。 ) の規定による情報セキュリティスペシャリスト試験又は情報処理技術者試験規則等の一部を改正する省令(平成十九年経済産業省令第七十九号)による改正前の情報処理技術者試験規則の規定によるテクニカルエンジニア(情報セキュリティ)試験に合格した者は、支援士試験に合格した者(ただし、この省令の施行の日から起算して二年を経過するまでの間に、法第十五条の登録を受ける場合に限る。 ) とみなす。

 つまり、省令施行の日から2年以内に登録を受けた場合、経過措置対象者は支援士試験に合格した者と見なされるというのが、経過措置対象者が登録を受ける法的根拠になります。

 省令の施行日は平成28年(2016年)10月21日です。

 一方で、情報処理安全確保支援士試験の事務を代行するIPAは半期に1回しか登録事務を行っていないので、10月21日以前の直近の登録締め切りである、2018年8月19日が、経過措置対象者が措置を受けることができる最後の締め切り、というわけなのです。

 なので、IPAは経過措置対象者にこんなハガキまで送って知らせてきたわけです。

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経過措置対象者の地位

 ところが、実は経過措置対象者の登録資格は、情報処理安全確保支援士試験合格者と比して、非常に不安定なものなのです。

 ここで問題になるのは以下の文章です。

支援士試験に合格した者(ただし、この省令の施行の日から起算して二年を経過するまでの間に、法第十五条の登録を受ける場合に限る。 ) とみなす。

 実はこの文章には、法的に2つの意味があります。

  1. 2年以内に登録を受ければ支援士試験に合格したものとみなす。

2. 当該登録を受けた事実が消滅した場合、経過措置対象者は支援士試験に合格した者『ではなくなる。』

 法的には2が厄介でして。

 普通に考えると、過去に行われた事実が消滅することってないじゃないですか。ところが、法的にはあり得るんですよ。

 民法第121条にこうあります。

第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

 つまり取消という行為が行われた場合、法的には、当該取り消された行為が、(取り消された時点ではなく)、そもそもの初めからなかったこととなるわけです。

 これが、IPAがWebページに載せているFAQのQ2-18(登録が取り消された後の再登録)の法的根拠になります。

お問合せ・FAQ:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

Q2-18.経過措置対象者の場合、登録が取り消されたあとに再登録は可能でしょうか?

A.経過措置対象者の場合、登録申請できるのは2年間です(平成30年8月19日申請締切)。登録が取り消された場合は、その後2年間登録ができませんので、再登録するためには、新たに情報処理安全確保支援士試験に合格することが必要となります。

 これにより、支援士試験合格者と経過措置対象者の間に、取消について異なる法律効果が発生するわけです。

支援士試験合格者:取消を受けても支援士試験合格の地位は変わらないので、2年待てば再登録可能。

経過措置対象者:取消を受けると経過措置期間内の登録の事実が消滅する→支援士試験合格者と見なされない→そのままでは再登録できず、支援士試験合格が必要。

消除について

 この辺のことを考えながら、IPAのページで申請書類一式を見ていた私は、こんなものを見つけて考え込んだんですよ。

情報処理安全確保支援士登録消除届出書

https://www.ipa.go.jp/files/000058522.pdf

 支援士は支援士の仕事を辞めるときに、登録消除を自ら行うことができます。これは情報処理の促進に関する法律施行規則24条に基づくものです。

 ところで、この消除の届出が行われたときの事務処理については、情報処理の促進に関する法律施行規則27条に規定があります。

第27条 経済産業大臣は、第二十条の届出があったとき、第二十三条の届出があったとき、第二十四条の届出があったとき、又は法第十九条の規定により情報処理安全確保支援士の登録を取消し、若しくは期間を定めて情報処理安全確保支援士の名称の使用の停止を命じたときは、登録簿の当該情報処理安全確保支援士に関する登録を訂正し、若しくは消除し、又は当該情報処理安全確保支援士の名称の使用の停止をした旨を登録簿に記載するとともに、それぞれ登録の訂正若しくは消除又は名称の使用の停止の年月日を記載するものとする。

 この辺りを見たときに、こう思ったんですよ。

  • あれ? 登録の自己消除を行うと消除の記録が残るのだけど、それでも最初からなかったことになるの?

IPAに聞いてみた

 そこでIPAに聞いてみたわけです。

  • 消除を行った場合、記録が残るのだから取消とは異なる効果を有するのではないの?

 と。

 IPAが最初に返してきた回答は、単なるFAQの焼き直しだったんですが、上記の論点をもっとはっきりさせて問い詰めたところ、経産省と協議したらしく、先日IPAがその経産省の応答を送ってきたんですよ。

情報処理の促進に関する法律施行規則(平成28年経済産業省令第百二号)附則第4条において、改正前の情報セキュリティスペシャリスト試験又はテクニカルエンジニア(情報セキュリティ)試験に合格した者は、「支援士試験に合格した者(ただし、この省令の施行の日から起算して二年を経過するまでの間に、法第十五条の登録を受ける場合に限る。)とみなす。」となっています。

 この「場合に限る」とは、「施行後2年以内に登録されている状態にある場合」に限ると解釈します。

 このため、登録が取消しになった方、又は、登録を消除した方は、登録されている状態ではありませんので、施行後2年を経過した後に、改めて支援士の登録を受ける場合には、支援士試験に合格していただく必要があります。

 ということだそうです。

 結局、消除も取消と同じ法律効果を有するというのが、お役所側の認識という事でした。

IPAに同時に伝えていたこと

 法的には無理筋なのかもしれませんが、一応IPAにはこう伝えていたんですよ。

  • 現状、支援士登録、講習費用に見合ったメリットが登録者に与えられているとは毛頭思えない。
  • 経過措置対象者に消除と将来の再登録の自由を与えることで、現状メリットがない登録講習費用負担を強いることを回避すれば、登録者をもっと増やせるのでは?

 また、IPAは登録消除時の取り扱いについてFAQでも何ら言及しておらず、各種法令にも登録消除時の明示記載がなかったので、適切な法運用をしているのか疑念がある(審査請求の対象となりえるのでは?)、というところまで話をしていました。

 が、審査請求を受ける上級官庁の経済産業省がこう答えを返してきたとなると、仮に請求を起こしたところで徒労に終わるのは間違いないので、この辺が私の引き際かな、と思いました。

費用対効果、価値の検討

 彼らがそういう態度で経過措置対象者に臨む、ということであれば、私としては登録以外の他の選択肢を机上に並べながら、自己の原点に返ってデジタルに考えざるを得ないわけです。

 すなわち、

  • 3年間で15万(5万/年)の費用、約3人日の講習時間は、自己のキャリアプランに対して明確なリターンをもたらす、有益な投資たり得るのか?

 と。

 しかし、10回考えても得られる結論は微塵も揺るぎませんでした。

  • こんな不安定な地位を維持するのに使うぐらいなら、その登録講習費用と講習時間、他の資格や技術習得に使った方が圧倒的に有益。

自己研鑽の観点から見た適切な投資先

 例えば他のIPA資格という狭い範囲で捉えなおしても、年2回の高度試験合格に投資する金額としては、年5万でも場合によってはお釣りがくるでしょう。1個に絞るというならトレーニングコースの学費すら捻出できます。

 ベンダー資格なら2,3万ぐらいは普通にかかりますよね。(こいつも有効期限付きですけど)最近儲かる資格と言われているAWS認定を代わりに受けたっていいでしょう。選択肢は無数にあります。

 言わんやセキュリティ資格なら、世界に通用するCISSP、GIACを受けるために投資した方がさらなる挑戦ができますよね。

 …実は私自身も、(そんなに難しくはないんですが)準備にお金がかかる資格 2 を、(スキルの幅を広げるために)受ける算段をしているところです。

 そもそも、投資先を資格に絞る必要すらないわけです。資格に関係なくセキュリティを学習する場に投資することは可能なのですから。サイバー攻撃対応訓練、CSIRTの訓練をしているところも今はたくさんあります。

ペーパー試験資格の登録に拘る意味

 先日このセミナーに出てきたんですけど、

www.ipa.go.jp

 パネルディスカッションの場で、パネリストの一人が『資格試験はペーパー試験でしかない』 3 と言ってたんですよ。じゃあこだわる必要なくね? って話ですよね。

 もっと言ってしまうと、後日どうしても支援士資格が欲しい、という状況になったなら、その時5700円払って、改めて受けて取ればいいじゃないですか、と。取れる実力があるという推定故の経過措置なわけですから。

 そうなると、酷い言い方ですが、経過措置対象者が登録に拘るのは、単に『試験を受けるのが面倒』という事でしかないな、と。私自身もそういう認識があったなぁと自省しました。

 しかも登録講習の内容については、IPAの主張とは裏腹に懐疑的な見解が散見されていてですね…。

ameblo.jp

登録セキスぺを『オワコン』にする自己研鑽

 こうやって棚卸してくると、経過措置対象者として登録を受けることで、費用負担的にも姿勢的にも、かえって自己の成長に縛りをかけてしまうなぁと思いました。

 本当にスキルアップを考えていくのなら、たかだか日本国内の1資格を登録維持するための費用にではなく、外の世界に打って出るための投資のために財布の中身をぶちまけたほうが、エンジニアとしてはプラスになるよね、と。

 『登録セキスぺは自分にとっては通り過ぎた道、すなわちオワコン』という姿勢で、新たな技術領域、もっと広いセキュリティの世界を学んでいきたいという思いを強くしました。

さいごに

 そういうわけで、私は登録のことは忘却して、今後も『情報セキュリティスペシャリスト4と名乗りつつ他の研鑽に精を出しますが、これをお読みになった、去就に迷われている経過措置対象者の方は、改めて登録講習の投資が、真に自分にとってプラスになるかをご一考なさることをお勧めします。

 あ、ちなみに、支援士試験を受けようか迷っている人は、特に迷わなくていいのでそのまま受けましょう。

 受験の過程における知識の獲得と、支援士登録資格の取得自体には意味があります。

 そのうえで合格の暁には当面登録せず、IPAにも国庫にも金を入れずに静観することをお勧めします。


  1. 2015年秋合格。ぶっちゃけ支援士と区切られるほど、試験で要求された知識に差はないと思っています。

  2. 実はIT資格ですらありません。

  3. 多分口が滑ったのでしょう。『確かにそうかもだけど、それこの場で言っちゃっていいのかよ』とは思いましたが。

  4. といっても、IPA資格ベースで自己紹介するときは、(IPAの職員が件のセミナーで、ITアーキテクト』って間違えて読んでいた)『システムアーキテクト』で大抵通してます。