プログラマが第二種電気工事士を取ってみた (1.YOUは何しに電工を?)
はじめに
前回、情報処理安全確保支援士の経過措置対象について話したときに、
…実は私自身も、(そんなに難しくはないんですが)準備にお金がかかる資格を、(スキルの幅を広げるために)受ける算段をしているところです。
という話をしていたんですが、この度目出度く資格取得に成功したので、その辺の話をしようかと思います(多分、相当需要は少ないと思いますが…)。
第二種電気工事士については山のようにWebに情報があふれているので、包括的な体験記はここでは書きません。Webの情報を参照しながら、私が電気の門外漢(プログラマ)としてこの試験に入門した際の気づきを共有しておこうかなと。
ちょっと長くなりそうなので、短め3部構成(動機+筆記試験、技能試験、本番+余談)ぐらいで行きましょう。
全体の流れは他の情報源を見てもらいつつ、『そういえば、あいつこんなこと言ってたな』ぐらいに思い出して使うぐらいがいいと思います。
きっかけ
かねてから電子工作系で活動している人たちを見ていると、割と軒並み取ってるんですよね、電気工事士って。
多分、エンベデッドに入門してきたルートが違う(電気、電子系 or 情報系)だと思うんですが、
- エンベデッドに関わるならもう少し電気知っといてもよくない? 1
という理由が一つ。
今かかわっているのはIoT系の仕事なんですが、この方面だとスマートグリッドだとかスマートファクトリーだとか、強電系に関わる機会もあるかもしれないなぁ、と。
- IoT系の活動をする際に、エッジ側の強電系に手を出せると、自己完結できるのでフットワークも活動の幅も広くなるんじゃない?
という理由が一つ。
ついでに、
- IT系以外の世界を知っておくと、仕事の幅も広がるし、IT系知識と合わせて新しい価値作れるんじゃない?
という理由が一つありました。
それと合わせて、先行事例があったのも背中を押しました。
費用も取得こそ5万弱(うち試験と免状交付で約1.5万)ほどかかりますが、継続講習費用2もなく、3年間で15万もお布施が必要な情報処理安全確保支援士よりよほどお得じゃん、と。
試験要領
年2回実施で、筆記試験と技能試験の2種類の試験があり、筆記→技能の順で両方パスしなければなりません。
技能試験に落ちた場合、次回受験時に限り筆記試験が免除されるようです。
取得効果
低圧(交流600V以下)で受電する場所の配線や設備(一般用電気工作物)の電気工事作業に従事することができます。平たく言うと自宅の宅内配線とかですね。
600V超で受電する電気設備(自家用電気工作物)の工事については上位の資格(第一種電気工事士 or 認定電気工事従事者)が必要なので、仕事で使う際には要件を満たしているかの注意が必要です。
これらの範囲は業務独占範囲なので、免状未取得者が施工すると違法になります。
筆記試験
教科書
使った教科書はこれでした(私の受験当時は2019年版)。
実は翔泳社の教科書を最初に買ったんですが、
読んでみて、知識の入り方がだいぶ違うように感じたんですよ。
翔泳社のほうはまさに教科書、という感じで、知識がひたすら羅列されています。図もそれなりに多いんですが、電気工事に全く知見のない入門者が読むと、どういうわけか頭に入っていかなくて。
一方で、『すいーっと合格』シリーズの方は、絵の大半が手書きになっているんですよ。
("ぜんぶ絵で見て覚える第2種電気工事士筆記試験すいーっと合格"から引用)
こういうのを見ていると、
- いつも見ている天井から釣り下がってる蛍光灯は、『引掛シーリング』で吊るされ、『天井隠ぺい配線』で配線されていて、図面では実線なのか。
- 表を歩いていると時々見かけるバネみたいなプラスチックの管、『合成樹脂製可とう電線管』で、略称は『PF』ね。
みたいな電気工事特有の知識が、普段の生活に紐づく形で入ってきました。
あと、絵中の文章も含め、基本的に読者を意識した語り口の文章になっていて、メカニズムやロジックがすっと入ってきやすい、という特徴があることに気づきました。
知識を詰め込んだだけの本と、読み手を意識した情報伝達ができている本、という差を私は感じたので、『すいーっと合格』をメインにして、翔泳社の教科書は辞書的に使ってました。多分『すいーっと合格』だけでも筆記試験はパスできると思います。
問題集
問題は前述の2冊に山のように入ってます。
電気系は情報系と違って技術的には十分確立済みで、大幅な技術のアップデートもなく、問題も一部パラメータを変える程度で多くは使いまわせるので、基本的に過去問を数年分こなせば全く問題ありません。
あと、隙間時間を使うためにアプリも使ってました。
筆記試験対策に当たってのポイント
上述のQiitaとか、私が見たWeb情報には書かれていなかったポイントを。
1. 最初は暗記できてなくてもいいので、とにかく回す。
("ぜんぶ絵で見て覚える第2種電気工事士筆記試験すいーっと合格"から引用)
例えば教科書を一度読んだだけで、こういうのを見て、『これは電磁開閉器で、上の方は電磁接触器、下の方は熱動継電器』って空で言える程度に暗記できるならいいんですが、普通の門外漢だとなかなか難しいと思うんですよ。
特に回路図特有の記号とか、記号下部にHとかLとか、3とか4とか書いてあっても、普通一発で覚えられないよね、と。
ただ、この辺の知識は過去問で、それはそれは嫌というほど問われます。逆に言うと、問題文を回して答えを確認するだけで、10回、20回と復習していることになるわけです。
ノートやメモにまとめたりするのも有効ですが、暗記系は最初は解けないと割り切って、問題数少な目で何度も回すのが、筆記試験知識定着のポイントでした。
あと、計算系は間違ったら、きちんと公式を確認して解きなおしましょう。どれを適用すべきか混乱することもあるので。
2. 複線図問題は捨てない。筆記試験内で読み書きできるようになっておく。
筆記試験のボーダーは6割。過去問の繰り返しで解けるとはいえ、一部の範囲を捨てると割り切って、学習を省略すれば、まぁその場は楽にはなるでしょう。
で、一部の受験記や対策サイトとかで『複線図問題は必ずしも筆記試験までにできる必要はないので、捨てても構わない』的な言説を目にしたことがあってですね。
複線図問題の学習を省略した方がいいのは以下の2パターンの人だけです。
- 『別に資格はいらないので、電気工事士試験を筆記だけ受けて、筆記だけ合格すればいい』っていう物好きな人
- 過去に複線図を書いて書き方を知っているか、複線図を書かなくても技能試験の回路を作れるレベルに到達している人
そうでない人は、筆記試験の段階で複線図を『短い時間で』読み書きできるようになっておきましょう。技能試験を見据えるならこの方がずっと良いです。
その理由は技能試験の練習を始めるとすぐに分かります。
技能試験では個々の部品とケーブルの配置だけが図として示されていて(単線図)、個々の電線を極性含めどのようにつなぎ合わせるべきかの記述がないのです。
例えば候補問題1とかはこんな感じ。
普通第二種電工を受けるレベルの人は、単線図を見て個々の電線をつなぎ合わせる芸当などできるわけはないので、技能試験が始まったら、まず複線図を書き、その図に従って回路を構成していくことになります。すなわち、
1. 大半の受験者にとっては、技能試験を突破するには複線図の読み書きは必須技能
なわけです。
だったら技能試験勉強時に学べばいいじゃん、って反論が出てくると思うんですが、筆記試験合格から技能試験までは約1か月半、忙しい社会人の身分ともなれば、この間どれだけ効率的に技能試験の演習をこなすかがカギなわけで。
技能試験の必須作業に複線図の読み書きが含まれているなら、演習期間に入った時点で、
2. 演習内の複線図読み書き時間を最小化し、かつ複線図の学習時間を演習期間から取り除く
ことで、より多くの演習時間を獲得することができるわけです。
もう一つ、複線図を筆記試験で解くためには、一定以上のスピードで複線図を読み書きできる必要がありますが、これは、
3. 技能試験の限られた時間内で複線図を書けるかどうかの試金石
という意味もあります。技能試験はすべての作業を40分間で終えなければならない、時間的にはかなりタイトな試験ですから、複線図の読み書き程度に時間をかけていられないのです。
そして言うまでもなく、
4. 筆記試験の複線図知識は筆記試験の点数を上げ、合格の可能性を上げる
のですから、まぁ何というか、普通に考えるとやらないという手はなくて、いわゆる『急がば回れ』なのです。
慣れない人にはちょっと大変ですが、複線図は読み書きに作法があるので、それを体得してしまえば楽しくすらなります。筆記試験のうちにマスターしておきましょう。
筆記で言うべきことはこれぐらいですかね。以下、次号。