dimeizaのブログ

興味のある技術(IoT/VR/Smart Speaker)とか、資格試験の話とか、日常で出会ったTechな話について書いています。

科学技術分野における最高位の国家資格 技術士(情報工学部門)のご紹介と、資格取得の感想戦について(後編)

 本記事はQiita Advent Calendar "IT資格取得をテーマに学びをシェアしよう!【PR】Udemy Advent Calendar 2021" 12/12(日)分の記事で、12/11(土)の記事の後編に当たります。

qiita.com

 前編は以下。

dimeiza.hatenablog.com

第二次試験

 さて。

 私はかねての計画に従って、第一次試験合格後、即座に第二次試験の受験手続きに入ったんですが…。

 これも受験するまでにひと騒動というか…大変でしたね。

未経験者がぶつかった、願書と押印とリモートワークの問題

 第二次試験受験時には、受験資格を満たす実務経験を記述した上で、当該実務経験について第三者(サラリーマンであれば雇用主)からの証明を受ける必要があります。

 で、この時の証明に必要なのは、証明権者の『公印』だったんですよ。

 問題の所在はもうおわかりですね。Covid-19とリモートワークと判子の関係についてです。

 会社もこの時かなりの混乱期で、感染防止と業務継続を両立させるための方針が二転三転し、右往左往していました。

 私はなるべく出社しない方向で管理職と調整していたんですが、この時ちょうど管理職が交代していて、リモートワークに対するポリシー変更があり、出社も含めてギクシャクしていたんですよ。

 折しもその時、私自身も咳を中心とした風邪のような自覚症状が出てしまって。執務は辛うじてできそうながら会社に出勤するのがはばかられる状態1になってしまいました。

  • 会社とは郵便経由で押印願書を授受しなければならない
  • 一方で公印をもらうには(ちょうどあまり関係が良くなかった)上長の承認が必要

 という組織上動きにくい状態になっていました。

 その上、

  • 周囲に技術士第二次試験願書作成経験者がおらず、社内手続きも含めてどのように進めればいいかわからない

 という手続き不慣れもあり、さらに、

  • 再試験合格から第二次試験願書締切までの期間が(例年と比すると)短い

 というこの年特有の事情も重なって、非常に手続きしづらい環境になっていました。

 そうは言っても、辛うじて第一次試験をこじ開けたのですから、手続きごときでヘバっているわけには行きません。

 これも技術士に求められる『複合的な問題の解決』と割り切って、各所に対する調整を始め、どうにかこうにか業務経歴の証明を受けた願書を入手し、技術士会に郵送することができました。

 あ、ちなみに令和3年度からは、押印に関するこうした不都合を考慮して、押印が不要になっているので、文書に印鑑をもらうための作業は軽減されています。今後受験する方はご安心ください。

論文との闘い

 IPA試験の論文と違って、

  • 試験範囲が特定の技術領域に限定されない
  • 技術よりも問題解決、行動特性といったコンセプチュアルな記述を求められる
  • 何よりも記述量が多い
  • その割に文字数が足りなくなる

 というのが技術士論文試験の特徴です。

 量も量ですし(以下、拙著から抜粋)、

試験科目 最大記述量 配点 回答時間
I 必須科目 600字×3枚 40点 2時間(10:00〜12:00)
II 選択科目 + III 選択科目 600字×3枚 + 600字×3枚 30点 + 30点 3時間30分(13:00〜16:30)

 合格率もだいぶシビアな数字で(同様に拙著から抜粋、令和2年度)、

選択科目 申込者数 受験者数 論文試験合格者数 論文試験合格率[%]
コンピュータ工学 42 35 1 2.8
ソフトウェア工学 111 89 7 7.9
情報システム 138 119 15 12.6
情報基盤 73 61 5 8.2
合計 364 304 28 9.2

 無対策で行ったら討死確定の試験です。

 IPA試験同様、論文答練して現場ですばやく解答を書けるようにならないといけないんですが、まぁ量が量なので手が痛くなりましたね。

 といっても、1日あたり大体600字詰め5,6枚ぐらいの答練ボリュームにしていた気もします。

参考書が…無い!

 もう一つ、IPA試験との圧倒的な差は、情報工学部門の参考書不足です。

 特に第二次論文試験に対して、Amazon等の著名な書籍販売サイトで手に入る参考書、対策本ははっきり言って0です2

 技術士(情報工学部門)の敷居の高さは、この情報源不足からも来ていて、正直試験の場で何を書けば正解なのか、心底手探りの状態で答練していました。

ここでちょっと先触れをしておくと

 私自身もこの状況は良くないなーと思っていて、IPA試験、技術士試験で積んできた論文作成ノウハウを、個人的にどこかでまとめたいと思っているところなので、もしかすると

 を執筆するかも知れません。

 とはいえ、書籍執筆って読み手が想定するよりもずっとパワーが必要で消耗する行為だというのは、自身が体験してよく分かっているので、この年末年始の私の状況次第、とお考えください。

感染との闘い

 答練は答練で黙々とこなしてきたんですが、それ以上にもっとクリティカルに効いてくるのはCovid-19。

 『もし受験日に感染していたら』というのが一番のリスクです。この場合は当然試験を受験できなくなります。

 とにかく体調を維持すること、崩さないことに専念していましたね。

試験の場に何を持っていくか

 技術次第二次論文試験は、おそらく自分がこれまで受験した試験の中で最も消耗する試験だろうと思ったので、(若さもだいぶ失われている事を考えて、)可能な限り肉体、精神の消耗リスクに備えられるよう、持参品もできる限りの吟味をしました。

 詳しくはここに載っていますが、

zenn.dev

 個人的には対肩こり向け鎮痛消炎剤マスク、そして言うまでもなく筆記用具の選定に一番気を使いました。

 (今でこそ不織布マスクが第一選択ですが)マスクはなるべく試験時に息苦しさや耳の痛みを伴わないものにしたかったので、エアリズムマスクを選んで持っていった、というのがあります。

試験の場で辛かったこと

 これは今だからこそ言えるんですけど、私の隣りに座っている人の筆圧が結構強くて、記述の音もうるさければ机も結構揺れたんですよ。

 試験開始時からだったので、メチャクチャ集中力が削がれましてね。私の自意識が過剰なだけですが、プレッシャーもかかりました。

 終わった後は肩や腰にもそれなりに負担が来たんですけど、試験中に一番キツかったのは、他の受験者からの集中力削ぎでした。

災い転じて福となす

 ただ、結果的に見ると(こうして合格記を書いているのもありますが)、このピンチはチャンスに逆転できた感もあります。

 『負けてたまるか!』と、私の論文作成もまたハイペースになっていきまして。

 以前、ITストラテジスト試験を受けた時は、そのハイペース故に危うく敗北を喫するところだったんですが、

dimeiza.hatenablog.com

 今回は以前の轍を踏むまいと、ハイペースでありながら慎重に論文設計を行い、着実に文字を埋めていました。

 気づいたら、必須科目でも選択科目でも、終了時間に1時間以上の余裕を残して論文を書き終えていました。

 試験中、休み時間に混んでいたトイレに行く余裕があったぐらいです。

 試験開始時、プレッシャーをかけられる側だったのが、いつの間にかプレッシャーをかける側に逆転していました。

 色々な試験を受験してしみじみ思っているのが、『試験中にピンチに陥った時に、どうやって心理的にリカバーするか』は、結構勝敗をシビアに左右するなぁ、と。

 まぁ…今振り返っても、自分の中では関ヶ原、天王山とも呼べる闘いで、なかなかの大一番、大勝負でしたね。

先例なき口頭試験対策

 論文試験が終わった後、一息ついて口頭試験の受験準備に入ったんですが、これも正解なき闘いでした。

 まず、

 点については、口頭試験も例外ではありません。

 まぁ、Webでは体験記をちらほら見かけるんですが、キツかったのは、

  • 2019年度以降の改定された口頭試験に関する体験記がまったくない

 ことでした。

 技術士試験制度は2019年に改定されているんですが、この時に口頭試験の基準や実施方式も変わっています。詳しくはここに。

zenn.dev

 ところが、新制度に対応した口頭試験で、一体何を聞かれるのか、何に備えるべきかということについて記述された、情報工学部門の体験記がまったくなかったのです。

 これは他分野も含めた口頭試験対策本も似たりよったりで、

  • 旧来の試験対策で、果たして私は口頭試験を突破できるのか…?

 という点で非常に不安になったのを覚えています。まぁ、そうは言っても対策はしたんですけども。

 ちなみに今は情報工学部門向け口頭試験の問答はWeb上に存在します。なぜなら私が書いたので。

zenn.dev

口頭試験で見つけた論文の粗

 事前情報だと、口頭試験において論文試験で書いた内容が話題になることもある、という話だったので、論文の内容も慎重に見直していたんですが、論文のある一言を見て、

  • 待てよ…この内容、試験官に通じているか…? 題意解釈は本当に大丈夫なのか…?

 と、不安になってしまったんですよ。

 これが口頭試験対策でもう一つキツかったところですね。

 不安がよぎった頃には他の口頭試験対策はだいたい終わっていたんですが、これ以上の口頭試験対策ができなくなったほどです。

 論文試験の結果発表前に口頭試験対策をした人だけが分かる苦しみだと思うんですが、『論文試験ダメかも知れない』という不安の中で行う口頭試験対策のストレスは想像を絶します。

論文試験合格時のハプニング

 論文試験どうなるか、と心配でやきもきしながら迎えた2021年初。

 合格発表日(2021/1/8)、合格者番号が書かれたpdfファイルを恐る恐る開き、私の番号を探したんですが、見つからなくて。

 『そうか…やはりダメなのか…厳しいな…』と打ちのめされながら、私は床に崩れ落ちたんですが、改めてpdfファイルを見ると、私が受験した選択科目であるソフトウェア工学』って書いてあるページが2つあることに気づいたんですよ。

 『ひょっとして…総監(総合技術監理部門)3のページを見てる…?』と、ハッと我に返った私はpdfファイルを先頭からたどり、情報工学部門の『ソフトウェア工学』のページを見たところ。

 そこに私の受験番号はあったんですよ。

 この時の脳内麻薬の出方はヤバかったですね。直後のツイートがこちら。

 ページ見間違いで落とされた後に持ち上げられるというコレ、技術士界隈ではよくあることらしいんですが、ほんの数分で一気に地獄から天国に叩き込まれた感がありました。

口頭試験直前に突然襲ってきた緊張

 ここから先は割と順調で、(私の知りえる限りでの)口頭試験対策も問題なく実施し、Covid-19の魔の手からも逃れ、無事本番を迎えまして。

 試験会場に行った後も、『これだけ練習してきたんだから何とかなるだろ』という余裕があったぐらいだったんですが。

 試験時間が近づいたので、受験者控室から試験室前の(廊下に置かれた)椅子に移動して、座った直後

 何の前触れも理由もなく、凄まじい緊張感が襲ってきたのを覚えています。

 この時、私は口頭試験とは、一般に言われているような、ただの合格率の高い試験ではなく、『1年間の努力の成否が20分間の舌端に乗る、もっとも易しくもっとも厳しい試験』であることを実感しました。

 この緊張の瞬間は、ここから先の20分間の振る舞いが、この2年間の勝敗を完全に左右するということを身体で理解した瞬間だったのでしょう。

 ただ、極度の緊張は感じましたが、緊張に負けなかったのは覚えています。試験官は我々の答案を通してくれた味方だ、と改めて思い直して面接室に入りました。

 後はガイドブック記載のとおりです。

 試験終了後、後進に残すためにも、自身の精神衛生のためにも、絶対に試験内容を忘れないようにしないと、と必死で記憶を維持していたのを覚えています。

振り返ってみると

 改めて振り返ると、技術士の取得自体敷居が高いだけでなく、

  • 情報工学部門は特に合格率が低い
  • 試験全般を通して参考書がほとんどなく、自力合格が厳しい

 という部門特有の逆境に加えて、

  • 令和元年度〜令和2年度の技術士試験はハードモード4だった(台風とCovid-19)。

 という、年度特有の問題に苦しめられた、茨の道5ではありました。

 『じゃあ、それだけの価値がある資格だった?』と聞かれると、正直まだ実感はないんですが、この資格を取ったことによって、それ以前の自分とは色々と変化したところも出てきています。

  • 高度試験合格だけの頃にはなかった、底から湧き上がってくる自信が出てきた
  • 社内の職位から独立した立場で組織の問題を俯瞰したり、意識的に教育、指導の声掛けをするようになった
  • 技術者倫理に悖らない行動を心がけるようになった
  • 私企業、個人としての利益だけではなく、(自身や他者の活動に対して)公益を意識した捉え方をするようになった
  • 書籍を執筆するなど、これまでの自分の枠を超えた活動をするようになった

 まだ技術士としては歩みはじめの一年だったんですが、内的な所から徐々に変わってきているような感があります。

さいごに

 技術士の価値については過小評価されているという嘆きの声が技術士自身からも聞こえることもありますが、私としては、

  • 技術士(情報工学部門)を(称号として)フルに活用しつつも、
  • 今は少ない技術士(情報工学部門)の陣容を拡大する働きかけをしつつ、
  • 社会的な地位を高めるために少しでも貢献できればいいな

 と思っているところです。

 現状、万人が目指すべき資格だとは思っていませんが、こんな事を感じながら戦い抜いた技術士(情報工学部門)受験生がいたということを踏まえつつ、一人でも多くの、高い技術力と高潔な心の両方を兼ね備えたITエンジニアが、この最難関、最高峰のIT資格に挑み、勝利を勝ち取って頂ければ、筆者としては何よりの幸いでございます。


  1. PCR検査も満員で実施してもらえず、咳が出ている関係上。

  2. よく探すと1冊だけ、一般に入手可能な書籍はあるのですが、それだけで十分かと言うと微妙。

  3. 総監(総合技術監理部門)は、21個ある技術分野の中で特殊な部門で、別途専門技術分野を持ちつつも、専門横断的な技術監理をすることを特徴とする部門です。総合技術監理部門の合格者番号は、専門とする技術部門、専門科目を併記した上で記載されます(pdfファイル全体では、同じ技術部門、専門科目名が2回表記されることになる)。

  4. 個人的にはDante Must Die/The Boss Extreme相当の難易度だと思っています。

  5. 良く言えば技術士試験史上に残る闘いで、この地獄の試練を潜り抜けた自身を誇るつもりではいますが、一方で、こんな思いをするのは令和元年度〜令和2年度受験者だけでいいとも思っています。