dimeizaのブログ

興味のある技術(IoT/VR/Smart Speaker)とか、資格試験の話とか、日常で出会ったTechな話について書いています。

『本プロジェクトの目的は、プロジェクトマネージャ試験に合格することである』(3)

本試験

 IPA試験の受験、果たしてもう何度目でしょうね。

会場

 千葉県の某大学です。システム監査技術者、ITストラテジストデータベーススペシャリストの各試験で訪問しているので、ここに来るのはもう4回目。

午前2

 ここはもはや、特に言うべきこともないですね。

 過去問で頻出のRACIチャートとかEVMとか、PMに新たに組み込まれたアジャイルの文脈でも、アジャイルマニフェストとかXPとか、過去問やってればだいたいわかるよね、という感じです。

 ここまで来たら、いっそ全区分で午前2を免除してほしいぐらいです。

午後1

 私が選択したのは問2と問3でしたが、この辺りは今般試験の変更点が浮き彫りになっている問題です。

試験情報 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

令和4年度 秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後1 問2より抜粋

メンバーの多様な考えを活用して早期に対応し、変化に適応

令和4年度 秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後1 問3より抜粋

メンバーの成長とチームの自律的なマネジメントに向けた継続的な改善

 それぞれ、試験要項の改訂事項と真っ向対比できるレベルで、明確に反映されています。

 統制型のプロジェクト運営だけで、いわゆる剛腕だけでプロジェクトを進めてきたPMには解きづらい問題と言えるでしょう。

 ただ、過去問の時点でも、自律的なマネジメントという文脈は結構出ていました。

令和3年度 秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後1 問1より抜粋

令和2年度 秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後1 問2より抜粋

 試験要項に変更があったと言っても、実際の所、試験問題の傾向としては連続しているのがよく分かると思います。過去問への演習は嘘をつかないということの証左で、変更点に向けてあからさまに準備していなくても対応可能だった、というのが実際のところでした。

 まぁそういうわけで、私自身は午後1も快調に筆を進めていたのですが、返ってきたスコアを見ると予想より若干低くて。IPA発表の回答とそれほど乖離しているようにも思えず、ちょっと採点者に文句を言いたい気分にはなりました。

午後2

 技術士試験の峻厳さには程遠いものの、IPA三大難関の最大の壁は、なんだかんだ言って論文です。

 まず問1を見たんですが、

問1 システム開発プロジェクトにおける事業環境の変化への対応について

 と書かれていて、ここで若干悩みました。

 どちらかと言うと変化への対応性を強く持つべきプロダクト、具体的にはSoEのシステムやエンプラ系のシステムに対して親和性が高く、組込のような深層、低レイヤのシステムに対しては適用しづらいテーマです。

 そういう事例を書くこともできたんですが、私が得意としてきたのは組み込み系の話なので、問2のタイトルを確認し、

問2 プロジェクト目標の達成のためのステークホルダとのコミュニケーションについて

 これならいけそうだな、と思ったんですが、一つ、ある事に気付いて警戒のレベルを上げました。

 それは設問の書き方です。

令和4年度 秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後2 問2より抜粋

 システム監査技術者以外の他区分について論文答練をしてきた人なら、この設問の書き方の違和感に気づくはずです。

 対比してみましょうか。前年度の問2とかどうでしょう。

令和3年度 秋期 プロジェクトマネージャ試験 午後2 問2より抜粋

 まだピンときませんかね? では令和3年度問1を、対比箇所を強調して見てみましょうか。

 そう。設問ウの書き方が異なっているのです。

 システム監査技術者試験を除き、IPA論文試験の設問の定石は、概ねこんな形になっています。

  • 設問ア: 与件(対象となるプロジェクト)の説明
  • 設問イ: 与件に対して受験者が行った施策、行動の(題意に基づいた)説明
  • 設問ウ: 設問イで受験者が行った施策、行動に対する評価、改善点

 ところが今年度の問2だけはそうではありません。設問ウにおいて、

”実行段階"において生じた認識の不一致とその原因、及び"実行段階"において認識の不一致を解消するために積極的に行ったコミュニケーション

 つまり、設問イと同様、与件に対して受験者が行った施策のさらなる説明を要求しています。

応用力と論理展開を求める設問の変化球

 プロジェクトマネージャ試験ほどのレベルの試験でも、論文を事前作成しておき、その論文を本番上で展開してしまう人は結構いるようですが、この手の変化球が来た場合、真っ先にふるい落とされるのはそういう人々です。

 そりゃぁそうですよね。定石に従って論文作成するなら、設問ウに相当する中身は評価や改善点であって、施策の第2段階ではないのですから。

 私の論文攻略本でも、IPA試験に対しては『論文の事前作成&展開は避けよ!』とはっきり言明しています。これは論文評価ランクを落とす最大の落とし穴なのですが、ここで調子を狂わされた人も結構いるのではないでしょうか。

経験と論文展開力を持つ者の余裕

 一方で私はこれを見て、逆に得たりと思いました。

 ステークホルダ間の認識齟齬は、私自身のプロジェクト管理経験における最大のテーマの一つで、書くべきことはたくさんあったからです。

 あまりにも言うべきことが多かったがゆえに、技術士口頭試験においてすら言及したほどでした。

zenn.dev

Q.チームの質問がお客様に伝わらない言葉だったので、それを書き直した、というお話でしたが、具体的な事例を挙げることはできますか?

A.昔のことなので大分忘れていますが…。

開発しているデバイスにはファイルシステムがあって、アプリケーションごとに階層が分かれているんですが、この状態で『カレントフォルダ』という言葉をメンバーが使うことがあって。

チームメンバーは自分の担当アプリケーションが念頭にあって、一意と思い込んでそう言ってしまうんですが、絶対パスで示さないとお客様にはわからないだろう、という話をしたことがありました。

 このように、論文試験では、試験に対する取り組みや姿勢によって、初手で決着がついてしまうことが普通にあります。

 論文試験において勝利を確実にするのは、事前に論文を書く行為ではなく、自身の経験をその場で形式知化し、文章として説明できる能力なのだということを押さえておきましょう。

論文設計

 せっかくなので論文設計も、差し障りがない範囲で残しておきましょうか。

  • 第1章 私が携わったプロジェクトについて
    • 1.1 概要
      • 大手企業向けICチップ形状製品
      • 2.5年、20人、約300人月、2億程度のPJ
      • 得意先要求仕様への配慮と、工場に量産品書込コードを送った上で、工場で量産させる点に注意が必要
    • 1.2 目標
      • 1.5年以内に得意先評価用サンプルを提出
      • 2.5年後に工場量産品の納品開始
    • 1.3 重要ステークホルダと影響
      • 得意先仕様管理部署
        • 仕様コミュニケーション上の手戻り→サンプルの納期に影響する
      • 工場
        • 量産品書込コードの遅延→量産遅れにつながる
  • 第2章 計画時の期待値コントロール
    • 2.1 期待の内容
      • 得意先:
        • フル仕様でサンプルが納品されると思っている
      • 工場:
        • 得意先へのサンプル納品と同時に量産品書込コードが完成すると思っている
    • 2.2 理由
      • 得意先:
        • 開発リソース上、1年間でフル仕様の実現は困難。
        • 仕様齟齬は過去開発でも発生しており、仕様Fixが間に合わないリスクがある
      • 工場:
        • 得意先側のサンプル評価によってはコード修正が必要→量産品書込コードの納期は変わりえる
    • 2.3 コミュニケーション
      • 得意先:
        • リリース計画と、各時点の搭載機能の対応表をキックオフ時に説明
        • 仕様、認識齟齬による遅延可能性を明言し、リスク認識させた
      • 工場
        • 予め、量産品書込コード提供時期が未定であると明言
        • 量産時の作業について初期段階で明確化し、前倒し実施
  • 第3章 実行段階での認識不一致について
    • 3.1 不一致の内容
      • 顧客の受け入れ試験における、自社仕様認識との不一致
    • 3.2 原因
      • 顧客が受け入れ試験を定めるに当たって、他ベンダーの仕様を流用した
      • 結果、自社製品と仕様が乖離していたが
      • 顧客の仕様理解は大雑把で、仕様乖離を認識していなかった
    • 3.3 コミュニケーション
      • 自社製品(顧客仕様)と受け入れ試験仕様の乖離をテーブル化するようリーダに指示
      • 他ベンダーの仕様とも整合するよう、自身が監修して受け入れ試験仕様を確定させた
      • 最終的に各社が共通の受け入れ試験仕様で量産化し、市場投入に成功

 だいたいこんな感じです。

 まぁ、書いた結果が全てといえば全てなのですが、一つ言っておいたほうが良いことがあるとすれば。

  • プロジェクトの規模に関する情報を除けば、数字は必ずしもMustではない。

 ということでしょうか。

 納期に関しては1.5年、2.5年などのざっくりとした数字を出してはいますが、やれ試験項目数が何項目あるかとか、コードの規模が何LoCだとか、量産品が何万個なのかとか、そういう細かい数字は一切使っていません。

 プロジェクトマネージャ試験の対策本によっては、こういう数値を出すことによってリアリティを出すんだよ、みたいな記述を見かけたりもするのですが、設問で必要な情報を論理立てて十分に説明することさえできれば、細かい数値の明示などは些末事に過ぎません。

  • 一般論ではなく自分独自の経験、知見に基づいて
  • 設問から要求される、プロジェクトの文脈と、受験者の行動を
  • 適切な粒度で、論理的に、ストーリーを立てて説明する

 これが論文試験で成すべきことの全てです。来年以降挑まれる方の健闘を祈ります。

さいごに

 従前で書いてきたように、私自身はプロジェクトマネージャとしての仕事をするつもりはあまりなくて。

 つまりこの試験で勝ち得たロールを実業務で実施することはあまり予定していないのですが、こうしてIPAからプロジェクトマネジメントの有識者である旨のお墨付きをもらったので、

  • 組織内でのプロジェクト運営体制に関するチェックやバックアップをしたり
  • プロジェクトマネジメントに関わる後進の育成に活かしたり

 することができるだろう、と思っています。

 また、自身が書いた論文対策本のプラクティスを試す絶好の機会でもあり、この通り効果を立証することもできました。

 キャリア途中の置き土産の回収を通して、こんな成果が得られたので、これをご覧の皆様も、プロジェクトマネージャ試験を通し、何らか勝ち取るものを得られれば幸いでございます。

『本プロジェクトの目的は、プロジェクトマネージャ試験に合格することである』(2)

 さて。

2022年度のプロジェクトマネージャ試験の変更点

 今年の5月に、こんな文書がIPA掲示されたんですよ。

www.jitec.ipa.go.jp

 情報処理技術者試験は、試験範囲を明示した『試験要項』と、各区分に対して要求される知識、技能を明確化した『シラバス』によって試験内容が規定されるわけですが、よりにもよって私が受験するタイミングで改訂してきたわけです1

変更内容は次のとおりです。

(1)アジャイル型開発プロジェクトの増加、プロジェクトマネジメントに携わる者の業務と役割の変化を踏まえた変更(プロジェクトマネジメントの業務を、特定のプロジェクトマネージャが任命されて担う、チームの一部のメンバーで分担する、又は全メンバーで分担するといった多様な形態を想定)

(2)その他、シラバス用語例などの整理

 IPAのプロジェクトマネジメントに関する認識は、基本的にSIerがやるようなウォータフォールモデルに基づく、どちらかというと古典的なプロジェクトマネジメントのそれだったんですが、今年からアジャイル的なマネジメントについても問うよ、と言い出したわけです。

 冒頭で説明したプロジェクトマネージャの対象者像や役割、技術水準も、この影響を受けて変わっています。

プロジェクトマネジメント業務を単独で又はチームの一員として担う

メンバーの成長とチームの自律的なマネジメントに向けた継続的な改善

メンバーの多様な考えを活用して早期に対応し、変化に適応

プロジェクトチームの自律的な成長を促進

多様な考えを理解して,変化に柔軟に適応

 この辺りは従来の統制を主とし、強いリーダーシップで牽引していくというプロジェクトマネージャ像とは大きく異なっています。むしろ協調、支援を主としたサーバントリーダーシップに近いと言えるでしょう。

 後述しますが、これは実際の問題傾向にも波及してきていて、この考え方にキャッチアップしていかないと、いくらプロジェクトマネージャの経験があったとしても、大きくビハインドを背負うことになってしまいます。

私の蓄積

アジャイルに対する蓄積

 これに対するに私としては、本を買って勉強するなどの対応なしに、『うん、分かった』の一言である程度済んでしまいました。

 というのも、実はこの手の本、自社でウォータフォールでプロジェクトを回していたくせに、結構読み込んでいたんですよ。

 おそらく普通のプロマネさんとはこの点が大きく異なると思うので、私が読んでいたアジャイル関連の本をピックアップして紹介しておきます。

 いずれもアジャイルの文脈におけるプロジェクト運営の方法について記述されており、日本の旧来の上意下達的なプロジェクトマネジメントとは全く異なっています。この辺りを私は割とよく読み込んでいて、アジャイルの空気感がどういうものかを概ね把握していました。

 それどころか、私自身はウォータフォールプロジェクトの中にアジャイルの技術やプラクティスの一部を持ち込んで、プロジェクトを安定化させるなどということを、これらの本が出るかどうかのタイミングで実施していた立場だったので、問われれば答えられる、ぐらいの自信はありました。

アジャイルに対する蓄積

 それだけではなく、非アジャイル、つまりウォータフォールを前提とした書籍の蓄積も、実は相当量あったわけです。

 これはあくまでも一例ですが、プロジェクトマネージャ試験に先立って、実はこんな感じで膨大な蓄積があって。この蓄積が、今般の受験で参考書がたったの1冊で済んだ最大の理由と言えます2

 なので、これを読んでいる方で来年以降プロジェクトマネージャを受験される方は、先程示した教科書類に加えて、アジャイルと非アジャイルの両側面において、面白そうだと思える書籍をそれぞれピックアップして読んでおくと良いでしょう。

 特に、自社で採用していない(有用性を認識していない)が、業界的、世界的には有用なプラクティスが示されている書籍が良いです。そういう書籍を読んでおくと、問題一つ解くときにも、自社の考えに凝り固まることなく、より広い視野で有用とされているプラクティスを参照してより良い正解を書くことができるようになります。

 プロジェクトマネージャ試験は特に自己の経験に自縄自縛されやすい試験なので、上手にアンラーニングしつつ、多様なプラクティス、考え方を選択肢に組み込んでから挑みましょう。

試験準備

午前と午後1

 午前と午後1に関しては特に言うべきことはなく、試験対策本と前述の書籍から知識を付けつつ、過去問を解き、結果を評価する、ただその繰り返しです。

 強いて言うならこの2点でしょうか。

1.午前2対策は、試験学習開始時と終了時に実施するのがオススメ。

 先に紹介した試験対策本だと、午後試験から学習を開始し、午前2は最後に取り組むように推奨していますが、それは当該区分にある程度習熟した下地のある受験者が取るべき戦略だと思っています。

 対象区分に対する理解度が低い場合、語彙が少なすぎて教科書や問題文の読解に支障が出ることも想定され得るので、

  • 学習を始める際、まず語彙を獲得するために午前2をざっと解いていく。
    • 問題文や教科書を読むための基礎知識をつける。
  • 学習の終盤で、最終仕上げとして午前2を解く。
    • 論文等の重い学習で終盤消耗することを避けつつ、単発知識を再度刷り込んでおく。

 私は(どの試験区分であっても)この手法で取り組むことにしています。

2.午後1を解く際には、論理的かつ客観的な解答解説が示されている試験対策本を選ぶ。

 これはどの区分でもそうですが、午後1の問題文から回答に至るまでに適用する論理こそが、論文試験系の午後1を解くために必要な唯一の武器だと言っても過言ではありません。この武器を磨くことができる書籍の選択だけは確実にしましょう。

 その観点で言うと、先に紹介した試験対策本は、私からも太鼓判を押せます。

午後2

 今回、午後2については、私は先に紹介した試験対策本については全く参照しておらず、完全に私のオリジナルのやり方で挑んでいます。

 例によってPCで5本、手書きで5本ぐらい書いたんですが、今回私が意識したのは、

  • プロジェクトという活動には、複数の側面がある。

 ということです。

 午後2対策の文脈で平易に言うと、こういう意味です。

  • ある一つの完結したプロジェクトは、各側面毎に複数の論文に書き下すことができる。

 ここでいう側面は、例えばPMBOKの知識エリアで切り分けたり、プロジェクトに対する関心事で切り出すことができます。

 PMBOKの知識エリアで切り出すなら、例えばこんな感じでプロジェクトを表現することができると思うんですが、

  • スコープ:
    • プロジェクト序盤の要件定義は準委任契約、アジャイルにスコープを探索。
    • 設計以降はスコープクリープを防止するため、変更委員会で保守的に管理。
  • 品質:
    • 設計工程ではレビューの指摘事項密度から設計品質を把握。
    • 一部設計では形式手法を用いて自動検証を実施。
    • 実装工程では単体テスト推進のためTDDを一部導入。
  • コミュニケーション:
    • プロジェクト計画段階でステークホルダ登録簿を作成、洗い出し。
    • 工程横断のステアリングコミッティと、各工程個別の会議体、連携フローを計画。
    • メンバーの意見を取り入れ柔軟にコミュニケーションパス変更に対応。

 これらが実は全て単一のプロジェクトの活動だったりするわけです。

 何が言いたいかと言うと、仮に受験者が1つのプロジェクト経験しか持ち合わせていなかったとしても、そのプロジェクトについてあらゆる側面で説明できれば、複数の論文を苦もなく記述可能なのだ、ということです。

 プロジェクト経験が豊富であれば良いに越したことはないのですが、それは論文中で引き合いに出せるプラクティスや実経験といった、いうなれば引き出しの数に関する話です。

 問題文中で特定の制約がない限りは、論文の題材にするプロジェクトは実は1つ2つあれば十分だったりします。そのプロジェクトについて、問題文中で問われた側面さえ論述できればそれで良いのです。

 実際、私自身は複数の論文を書いていますが、その半分をある単一のプロジェクトを元ネタにして書いていたりします。試験本番ですらこの単一のプロジェクトから書いているのです。

 問題文中で発生し得る制約としては、

  • 対象システムの特性(エンプラ系 or 組み込み系)
  • プロジェクトの攻め度合い(SoR: System of Records or SoE: System of Engagement)
  • プロジェクト体制(ウォータフォール的 or アジャイル)

 この辺りが想定されますが、過去問を見て、問題文中で縛りがありそうだなと思ったら、それに対応したプロジェクト事例を思い出すなり、調べて手元に持っておくとよいでしょう。プロジェクトのストックとしては2、3個あれば良いんじゃないでしょうか。

 一つの事例には複数の側面がある、ということを覚えておいて、単一のプロジェクトを複数の側面から説明、描写できるようにしておきましょう。おそらくそれがプロジェクトマネージャ試験の午後2で効率よく勝つ秘訣です。

 これ以外の事項は、私の論文攻略本に書かれているプラクティスをそのまま使っています。ガッツリ書いてありますので、よろしければ手にとって参照ください。

zenn.dev

 学習時間とかもいつもどおりです。週末の土日午前中に数時間、というのを3ヶ月ほど繰り返した程度です。

 では、本番に行きましょうか。


  1. そういえば、似たようなことがシステム監査技術者試験でもありましたねぇ…。何だろう、こういう試験制度改訂については、私は結構運が悪いようです。
  2. 『勝つべくして勝った』というのはこの辺りの事情もあります。

『本プロジェクトの目的は、プロジェクトマネージャ試験に合格することである』(1)

はじめに

 久しぶりに書くわけですが、冒頭は…まぁ…いつものとおりです。

 この度プロジェクトマネージャ試験に合格しました。

プロジェクトマネージャ試験とは?

 このページにたどり着く方であればご存知の方も多いと思いますが。

www.jitec.ipa.go.jp

ja.wikipedia.org

高度IT人材として確立した専門分野をもち、組織の戦略の実現に寄与することを目的とするシステム開発プロジェクトにおいて、プロジェクトの目的の実現に向けて責任をもってプロジェクトマネジメント業務を単独で又はチームの一員として担う者

 という人材モデルを意識した、高度情報処理技術者試験の一区分です。

 IPA試験の中では昔から実施されており、かつ昔から人気が高く、合格率も低い資格として有名です。

 IPA試験の中ではITサービスマネージャと並んでマネジメントに関する知見を問う試験であり、他の試験区分と比して、テクニカルな要素が問われづらいところから、非ITエンジニアが受験を企図することも多くあります。

 WikiPediaにも記載がありますが、プロジェクトマネージャ試験は、ITストラテジスト試験、システム監査技術者試験と並んでIPA論文試験の最難関級の試験としても知られています(私は勝手に三大難関と呼んでいます)。

 なぜこの試験を受けようと思ったのかについては、事前状態を説明しながら追々。

事前状態

 まぁ…正直なところを言うと、今回の私は勝つべくして勝つ状態で挑むことになったので、後に続く人にとってどれぐらい参考になるかはちょっと分からないのですが。

  • 高度情報処理技術者試験は7冠。
  • 技術士(情報工学部門)。
    • マネジメント、リーダーシップ、評価、コミュニケーション、問題解決等、プロジェクトマネジメントで問われるコンピテンシーを公式に認定されている立場。
    • 口頭試験中にマネジメント経験について説明したりしている。
  • プロジェクトマネジメント経験を数年単位で有している。
    • 小規模なテストマネジメントから、顧客に相対する億単位のプロジェクトまで。
    • 当事者としてマネジメント上の問題をいくつも抱えてきた。

なぜ受けようと思ったのか

 私の過去の論文試験合格のエントリ(↓)を見た後でこれを見ると、

dimeiza.hatenablog.com

dimeiza.hatenablog.com

 『他の試験は未経験気味でぶっ込んでるのに、何でお前今までこれ取ってなかったの?』と言われるぐらい、私自身のキャリアとは親和性がある資格に見えると思います。

 これは私自身の個人的な事情で、プロジェクトマネージャを担当してもあまり割の良い経験ができなかった(最終的に体を壊してしまった)ので、今の組織ではプロジェクトマネージャを卒業していて、『もうプロジェクトマネージャやりたくないなぁ』と、以前から思っていたからです。資格を取ってしまうと関連の仕事を回されかねないですからね。

 ただ、よくよく考えると、今の私は技術士(情報工学部門)になっていて。

 前述したとおり、技術士(情報工学部門)は、プロジェクトマネジメントに必要なコンピテンシーを明示的に問われ、その発揮を期待されている立場です。

 加えて、ここでも紹介したんですが、

zenn.dev

 政府調達の立場から見ると、プロジェクトマネジメントについては、技術士(情報工学部門)はプロジェクトマネージャ試験合格者と対等の立場として取り扱われています1

 私はかねてからこの事を知っていたので、技術士を取った時点で最早不要とも思ったんですが、逆に、

 『今となってはプロジェクトマネージャ、持ってても持ってなくても変わらなくね?』

 と思い直しまして。

 せっかくここまで来たんだったら行きがけの駄賃、

  • PMBOKを含めてプロジェクトマネジメント知識を一通り整理した上で
  • IT系論文試験本著者としての箔を付け、その効果を証明する2

 という意味でも、このタイトルを勝ち取ってしまおうと思ったので、あえて取ることにしました。

教材について

 私のIT系論文試験本の冒頭でも書きましたが、

zenn.dev

IPA試験に挑む際には対応する試験区分の攻略本を読んで、各区分の個別技術知識を付けることを勧めています。

試験対策本

 今回はこれを使いました。

 PMの攻略本といえばこの人、と言われるぐらい有名な方が書いている本です。

 実際見てみた感じ、この本を徹頭徹尾、真剣に読み通せば、かなり合格率を上げられるだろう、というのが私の感覚でした。要求される知識は一通り集まっており、午後問題の解説についても納得感のあるロジックで説明されています。

 また、試験受験のモチベーションを高めるためのコラムが随所にあったりするなど、攻略本としての工夫には私も参考にする所が多くありました。

 一方で、情報密度が非常に高い所から、読み通すには相応の根性か計画性を要します。自身の経験を持ち込みながら咀嚼する箇所も出てくるので、プロジェクトマネジメントについて全くの初心者である場合、読解自体も難しくなってくる側面があります。

 私のようなプロジェクトマネージャ経験者が読むのであれば隙のない本ですが、未経験者の場合はもう少し平易な書籍から始めても良いかもしれません。

参考書

 今回は実務を経験していますし、関連書籍も大分読んでいるので、PMBOKの体系さえ整理できてしまえばいい、という判断のもと、これだけを読んでいます。

 PMBOK上のプロジェクトの構造や用語、概念について図を多用した説明がされており、プロジェクトマネジメントとはどんなものなのかを解説しつつ、PMP試験への足がかりにもなる本になっていました。

実はこれだけでは足りていない…。

 通常、というか昨年までの試験であれば、おそらくこの2冊があれば問題なく攻略できただろうと思いますが、実は今年の試験から一つ変わった所があって。

 一方で、私はその変わった所に対する書籍を特に揃えませんでした。その辺りは過去に私自身がたくさん読んできていたからです。

 この、『プロジェクトマネージャ試験の今年度の変更点』と『私自身の過去の蓄積』から、次の話を始めるとしましょう。


  1. 政府調達上における技術士の真価は、ほぼ全ての高度試験のロールをこれ一つでこなせることで、プロジェクトマネジメントは技術士のロールの一つに過ぎません。
  2. 未踏破の論文区分が残っていると、論文攻略の解説をしても説得力に欠けるなぁと。

プログラマが第二種電気工事士を取ってみた(2.ソレダメ!〜あなたの施工は欠陥品!?〜)

技能試験

情報処理技術者試験の午前試験と同じく、基本的にちゃんと準備している人であれば、筆記試験はまず突破できるはずです。

そう、本番はこれから。

概要

事前に決められた13個の候補問題の中から1つが出題され、ケーブルと部品を使って40分以内に問題に記載された一般用電気工作物を施工せよ、という試験です。

出題される問題は試験地ごとに違い、事前に知ることはできません。

詳しいことは教科書や試験要領を参照した方がいいでしょう。

必ず覚えておくべきことは2つ。

  • 40分という極めてタイトな時間しかない。
  • 『欠陥』と呼ばれるミスを1つでも作品に含めてしまった場合、一発で不合格になる。

ということです。

工具

多分これが鉄板だと思います。

ホーザンの技能試験工具セット。試験会場でも多くの人が持参していました。

他に練習用部材セット付きのものや、後述する合格シリーズのアイテムが同梱されているものもあるので、必要に応じて好きなのをお選びください。

初めての人は対策DVD付きのやつを選んで、基本作業をDVDを見ながら習得するとよいです。非常に簡潔かつポイントを押さえています。人によってはこのDVDだけで合格を狙えるかもしれません。

個人的には腕力がないので、リングスリーブの圧着がきつかったんですが 1、何度もやってるとそのうちできるようになるので、腕力が弱めな人もご心配なく。

追加工具

ホーザンはこの工具セット以外にも『合格』シリーズと称した電工試験用工具を出しているんですが、この中で、『合格クリップ』と、『合格マルチツール』は工具袋に入れておく価値があります。

合格クリップ

圧着作業前に接続の事前確認ができ、誤接続を防ぐことができる

ってのが売りのようですが、私はどちらかというと、『リングスリーブ圧着時に電線の向きと長さをそろえるための固定具』として使用していました。

技能試験では、リングスリーブによる電線の圧着はどの候補問題でも必須の工程なんですが、この際、芯線がリングスリーブから一定の長さ以上むき出しになっていると欠陥を取られてしまい、一発不合格になります。

これを避けるためには芯線むき出し部分の長さを短く揃えた上で圧着する必要があるんですが、送電用の電線は電子工作で使うような細い線と違って、中の導線が太いのでそれなりにやんちゃで、手で固定して圧着しようとすると、すぐに明後日のほうを向いてしまったりします。

特に3本、4本を束ねる場合、リングスリーブに入れづらかったりするので、この辺で結構イライラ感が出ます。こうした際に手を使わず線を固定できるので、作業の円滑化が期待できます。

ただし、試験終了時に合格クリップをつけっぱなしだと、それ自体が欠陥扱いになり、これまた一発不合格になります。

合格クリップを使う場合、リングスリーブを圧着したら、すぐにクリップを外す習慣を演習中につけておきましょう。

合格マルチツール

  • レンチ
    • ロックナットを固定できる
  • ブレード
    • 器具の電線外し穴に差し込んで電線を外す
    • ゴムプッシングに穴をあける
  • リングスリーブ保持穴

 の3つの機能がありますが、特にロックナット用レンチとして使い勝手が良いです 2

 技能試験で求められるロックナット固定には、通常ウォーターポンププライヤーを使うのですが、ジョイントボックス内にウォーターポンププライヤーを入れようとすると結構作業しづらいんですよ。

 その点マルチツールは小さくてすっと入るので、短時間での作業が求められる技能試験ではこちらがおすすめです。

部材セット

最初、『準備万端』シリーズの1回分のやつを買いましたが、本記事執筆時点ですでに在庫切れでした。

2回目を回した際にはモズシリーズを買い足しています。

この辺りもお好きなのをどうぞ。

基本的にさほど変わり映えはしないはず…ですが、最初に使った準備万端シリーズとモズシリーズで、2.0[mm]ケーブル被覆の剥ぎやすさに違いがあった(準備万端シリーズのほうが剥ぎやすかった)ので、多少評判を見て選んでもよいかもしれません。

教科書

技能試験の教科書も『すいーっと合格』シリーズを見ています。

ただ、この教科書を見る前に、先ほど紹介したホーザンのDVDを見ておくのがおすすめです。

この教科書で1点だけ迷うところがあるとすると、

  • ケーブルストリッパとの付き合い方

かなと思います。

筆者は電気工事士の必須技能として電工ナイフの操作技能の習得を重視しており、基本的にケーブルストリッパなしですべての作業ができるように書いてあります。数センチ単位の配線長計測でも、ケーブルストリッパのゲージではなく、手(握りこぶしの大きさ等)や電工ナイフの長さで測定するように書いてあったりします。

合格者が電気工事士の実務に携わることを考慮した、非常に親身な配慮 3 なんですが、合格を狙うだけであれば、ケーブルストリッパをフル活用して、ケーブルストリッパでできない作業をほかの工具で実施するようにした方が良いでしょう。

2021/4/30更新: 2020年度からケーブルストリッパメインの書き方に変わっているようです。安心してオススメできそう。

逆に言うと、電工ナイフでしかできない作業には特に注意する必要があります(ゴムプッシングの穴あけと、VVRケーブルの被覆剝がし)。これらの作業は実施する問題も少ないので、意識して練習しましょう。

技能試験対策に当たってのポイント

1. ケーブルの太さからリングスリーブと刻印を求められるようにしておく。

この辺は筆記試験でも問われることなので、しっかり勉強してきた人にはそれほど苦ではないと思います。

技能試験で使う電線は1.6mmと2.0mmの2種類しかないので、この組み合わせと本数から、リングスリーブの種類と刻印を求められれば問題ありません。

  • 1.6[mm]2本=リングスリーブ『小』、刻印『〇』
  • 電線全部で8[mm]以下=リングスリーブ『小』、刻印『小』
  • 電線全部で8[mm]以上=リングスリーブ『中』、刻印『中』

だけわかっていれば、まぁ大体何とかなるでしょう。

ちなみに刻印間違いも欠陥なので、圧着する際には刻印間違いに十分気を付けましょう。私も練習中に何度かやらかしました。

2. 誤解しない複線図を書く。

複線図を2,3書くと分かると思うんですが、

  • 線が交差したとき、接続点なのかそうでないのかがわかりづらくなる
  • 隣り合った線の色が赤なのか黒なのか白なのかわからなくなる

汚く書いてしまうと、せっかくの複線図がこういう問題を抱えてしまい、施工ミスの原因になりかねません。

  • 線同士の間隔をある程度開けられる程度に大きく図を書く
  • 交差するときは大きく黒丸を書き、リングスリーブの刻印を記入しておく
  • マーカーを使って電線を色分けする

等、施工ミスを起こさないよう、明確に図を書いておくといいです。

あと、複線図を一度書いたからと言って、思考停止して作業に没頭しないようにすることも大事です。

先ほどリングスリーブのサイズの話をしましたが、特に接続、圧着施工をする際に『これで合ってるよな?』と確認を意識しておくといいでしょう。

圧着直前に複線図の記述ミスに気づいて、慌てて『複線図のほうを』直して正しい施工をした、なんてこともあったので。

3. 基本的には2周回す。

Qiitaの記事だと1周でも、って書いてありましたが、個人的には、

  • 合格率7割を目指すなら1周でもまぁ何とか。
  • 100%に近づけたいなら2周を推奨。

って感じです。

というのも、

  • 1周目の最初の数問の演習では、おそらく規定時間(40分)をオーバーする

だろうからです。

技能試験の候補問題は、どの問題をとっても基本作業の組み合わせなので、異なる問題に取り組む場合であっても、基本作業の習熟に伴って、施工に必要な時間は徐々に短くなっていきます。

最初は40分以上かかります

13問やればだいたいできるようになると思います。

って書いてあるのはそういう話です。

逆に言うと、1周だけでは、

  • 初期に取り組んだ問題は40分以内で完了することが保証されてない

ってことです。

1周目は習熟のため、2周目は確認と定着のため、と割り切って2周回すと、勝利条件をかなり固めることができると思います。

4. 必ず時間を測る。

技能試験の時間は40分しかないので、時間に余裕ができることはまずもってありません。余裕ができたとしても、確認のためにリザーブしておくのが賢明です。

このため、

  • 指定された作業を規定時間内で確実にこなせるか
  • 慣れた環境の場合、大体何分ぐらいで施工を完了できるか(何分リザーブできるか)

を知っておくことは非常に大事です。

あと、各問題の時間を計っておくと、

  • 自分が苦手なのはどの問題、どの作業なのか

如実に見えてきます。その問題は自分の弱点なので、その問題を構成している基本作業には特に注意しましょう。

ちなみに私は候補問題No.11が苦手だったらしく、いくつか作業やり直しが発生し、演習でも30分以上時間がかかっていました(ココ伏線)。

5. 完成後、各部品と配線の欠陥をチェックする。

電気工事士の技能試験の最も恐ろしいところは、実は時間ではありません。

  • 施工した電気工作物に、1個でも欠陥が存在した場合、有無を言わさず一発不合格になる。

という欠陥の存在です。

せっかくお金と時間をかけて技能試験までこぎつけたのに、くだらないミス一発で努力を水の泡にされてたまるか! と思ったら、施工終了後、各部品と接続に欠陥がないかどうか、教科書を見ながら1つ一つチェックしていきましょう。

大抵の教科書には(試験要領でもよいです)、各部品についてやってはならない欠陥が列挙してあります。例えばランプレセプタクルなら、

  • 正しく『輪作り』ができていない(巻きつき不足、巻きつきすぎ、左巻き等)
  • ネジが絶縁被覆を噛んでいる
  • 芯線が5[mm]以上はみ出ている
  • ケーブル外装が台座内に入ってない
  • ネジを締め忘れている
  • 極性を間違えている

こんな感じに欠陥が示されているはずなので、これらの欠陥が存在しているかどうかをすべてチェックし、やらかしていたら明確に認識し、きちんと施工しなおしておくことを勧めます。

6. 差し込み型コネクタは再利用しない。先に十分買っておく。

演習用に電線セットを買うと思うんですが、私が買った電線セットには、差し込み型コネクタの予備がなかったんですよ。小スリーブこそ100個ぐらい入ってたんですが、差し込み型コネクタは1周分の最小限個数しかありませんでした。

こりゃぁ使いまわすしかないのかなぁ、と思いつつWebで外し方を探し、実際に見つけて外したりもしたんですが、結構手間で時間もかかるんですよね。

そんな手間で時間を消費するぐらいなら、いっそまとめ買いして、使いまわさず捨てたほうが効率的じゃん、と。

これを買って、使いまわさずに捨ててました。失敗時の付け直しを考慮しても、50個づつあれば2周回しても十分余ります。

再利用の時間がもったいないですし、試験でも実務でも、施工失敗時の差し込み型コネクタは電線ごと切って新しいのを使うので、ケチケチせずに買ってしまった方が楽です。

7. 機器接続→ケーブル切断がおすすめ。

これは『すいーっと合格』シリーズの流儀でもあるんですが、ケーブルを先に切断して、切断したケーブルに機器をつなぐよりも、

  • 先にケーブルに機器を結線した後で、ケーブルを切断する

という手順で作業するのがおすすめです。

ケーブル切断は不可逆な作業なので、機器ごとに一つ一つ確認して切断した方が確実ですし、場合によっては結線済みのケーブルを入れ替えることでリカバリすることもできます。

大体この辺を意識して、10月下旬から12月初頭ぐらいまで、週末にひたすら演習していました。

以下、次号。


  1. 第二種電工では大スリーブは出題されないので、小中スリーブ程度で悲鳴を上げる私の腕力が弱すぎる、って話でもあるのですが。

  2. 個人的には電線外しはPanasonic純正のプレートはずし器、ゴムプッシングは電工ナイフのほうが確実だと思いましたが、この辺は好みの問題。

  3. ケーブルストリッパで取り扱えるのは一部の細い電線だけなので。

プログラマが第二種電気工事士を取ってみた (1.YOUは何しに電工を?)

はじめに

前回、情報処理安全確保支援士の経過措置対象について話したときに、

dimeiza.hatenablog.com

…実は私自身も、(そんなに難しくはないんですが)準備にお金がかかる資格を、(スキルの幅を広げるために)受ける算段をしているところです。

という話をしていたんですが、この度目出度く資格取得に成功したので、その辺の話をしようかと思います(多分、相当需要は少ないと思いますが…)。

第二種電気工事士については山のようにWebに情報があふれているので、包括的な体験記はここでは書きません。Webの情報を参照しながら、私が電気の門外漢(プログラマ)としてこの試験に入門した際の気づきを共有しておこうかなと。

ちょっと長くなりそうなので、短め3部構成(動機+筆記試験、技能試験、本番+余談)ぐらいで行きましょう。

全体の流れは他の情報源を見てもらいつつ、『そういえば、あいつこんなこと言ってたな』ぐらいに思い出して使うぐらいがいいと思います。

きっかけ

かねてから電子工作系で活動している人たちを見ていると、割と軒並み取ってるんですよね、電気工事士って。

多分、エンベデッドに入門してきたルートが違う(電気、電子系 or 情報系)だと思うんですが、

  • エンベデッドに関わるならもう少し電気知っといてもよくない? 1

という理由が一つ。

今かかわっているのはIoT系の仕事なんですが、この方面だとスマートグリッドだとかスマートファクトリーだとか、強電系に関わる機会もあるかもしれないなぁ、と。

  • IoT系の活動をする際に、エッジ側の強電系に手を出せると、自己完結できるのでフットワークも活動の幅も広くなるんじゃない?

という理由が一つ。

ついでに、

  • IT系以外の世界を知っておくと、仕事の幅も広がるし、IT系知識と合わせて新しい価値作れるんじゃない?

という理由が一つありました。

それと合わせて、先行事例があったのも背中を押しました。

qiita.com

業務独占資格です。今話題の情報処理安全確保支援士は名称独占資格でしかないので、電気工事士の方がつおいですね!

費用も取得こそ5万弱(うち試験と免状交付で約1.5万)ほどかかりますが、継続講習費用2もなく、3年間で15万もお布施が必要な情報処理安全確保支援士よりよほどお得じゃん、と。

試験要領

www.shiken.or.jp

年2回実施で、筆記試験と技能試験の2種類の試験があり、筆記→技能の順で両方パスしなければなりません。

技能試験に落ちた場合、次回受験時に限り筆記試験が免除されるようです。

取得効果

www.shiken.or.jp

低圧(交流600V以下)で受電する場所の配線や設備(一般用電気工作物)の電気工事作業に従事することができます。平たく言うと自宅の宅内配線とかですね。

600V超で受電する電気設備(自家用電気工作物)の工事については上位の資格(第一種電気工事士 or 認定電気工事従事者)が必要なので、仕事で使う際には要件を満たしているかの注意が必要です。

これらの範囲は業務独占範囲なので、免状未取得者が施工すると違法になります。

筆記試験

教科書

使った教科書はこれでした(私の受験当時は2019年版)。

実は翔泳社の教科書を最初に買ったんですが、

読んでみて、知識の入り方がだいぶ違うように感じたんですよ。

翔泳社のほうはまさに教科書、という感じで、知識がひたすら羅列されています。図もそれなりに多いんですが、電気工事に全く知見のない入門者が読むと、どういうわけか頭に入っていかなくて。

一方で、『すいーっと合格』シリーズの方は、絵の大半が手書きになっているんですよ。

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("ぜんぶ絵で見て覚える第2種電気工事士筆記試験すいーっと合格"から引用)

こういうのを見ていると、

  • いつも見ている天井から釣り下がってる蛍光灯は、『引掛シーリング』で吊るされ、『天井隠ぺい配線』で配線されていて、図面では実線なのか。
  • 表を歩いていると時々見かけるバネみたいなプラスチックの管、『合成樹脂製可とう電線管』で、略称は『PF』ね。

みたいな電気工事特有の知識が、普段の生活に紐づく形で入ってきました。

あと、絵中の文章も含め、基本的に読者を意識した語り口の文章になっていて、メカニズムやロジックがすっと入ってきやすい、という特徴があることに気づきました。

知識を詰め込んだだけの本と、読み手を意識した情報伝達ができている本、という差を私は感じたので、『すいーっと合格』をメインにして、翔泳社の教科書は辞書的に使ってました。多分『すいーっと合格』だけでも筆記試験はパスできると思います。

問題集

問題は前述の2冊に山のように入ってます。

電気系は情報系と違って技術的には十分確立済みで、大幅な技術のアップデートもなく、問題も一部パラメータを変える程度で多くは使いまわせるので、基本的に過去問を数年分こなせば全く問題ありません。

あと、隙間時間を使うためにアプリも使ってました。

play.google.com

筆記試験対策に当たってのポイント

上述のQiitaとか、私が見たWeb情報には書かれていなかったポイントを。

1. 最初は暗記できてなくてもいいので、とにかく回す。

f:id:dimeiza:20190120200254p:plain

("ぜんぶ絵で見て覚える第2種電気工事士筆記試験すいーっと合格"から引用)

例えば教科書を一度読んだだけで、こういうのを見て、『これは電磁開閉器で、上の方は電磁接触器、下の方は熱動継電器』って空で言える程度に暗記できるならいいんですが、普通の門外漢だとなかなか難しいと思うんですよ。

特に回路図特有の記号とか、記号下部にHとかLとか、3とか4とか書いてあっても、普通一発で覚えられないよね、と。

ただ、この辺の知識は過去問で、それはそれは嫌というほど問われます。逆に言うと、問題文を回して答えを確認するだけで、10回、20回と復習していることになるわけです。

ノートやメモにまとめたりするのも有効ですが、暗記系は最初は解けないと割り切って、問題数少な目で何度も回すのが、筆記試験知識定着のポイントでした。

あと、計算系は間違ったら、きちんと公式を確認して解きなおしましょう。どれを適用すべきか混乱することもあるので。

2. 複線図問題は捨てない。筆記試験内で読み書きできるようになっておく。

筆記試験のボーダーは6割。過去問の繰り返しで解けるとはいえ、一部の範囲を捨てると割り切って、学習を省略すれば、まぁその場は楽にはなるでしょう。

で、一部の受験記や対策サイトとかで『複線図問題は必ずしも筆記試験までにできる必要はないので、捨てても構わない』的な言説を目にしたことがあってですね。

複線図問題の学習を省略した方がいいのは以下の2パターンの人だけです。

  • 『別に資格はいらないので、電気工事士試験を筆記だけ受けて、筆記だけ合格すればいい』っていう物好きな人
  • 過去に複線図を書いて書き方を知っているか、複線図を書かなくても技能試験の回路を作れるレベルに到達している人

そうでない人は、筆記試験の段階で複線図を『短い時間で』読み書きできるようになっておきましょう。技能試験を見据えるならこの方がずっと良いです。

その理由は技能試験の練習を始めるとすぐに分かります。

技能試験では個々の部品とケーブルの配置だけが図として示されていて(単線図)、個々の電線を極性含めどのようにつなぎ合わせるべきかの記述がないのです。

www.shiken.or.jp

例えば候補問題1とかはこんな感じ。

f:id:dimeiza:20190120202443p:plain

普通第二種電工を受けるレベルの人は、単線図を見て個々の電線をつなぎ合わせる芸当などできるわけはないので、技能試験が始まったら、まず複線図を書き、その図に従って回路を構成していくことになります。すなわち、

1. 大半の受験者にとっては、技能試験を突破するには複線図の読み書きは必須技能

なわけです。

だったら技能試験勉強時に学べばいいじゃん、って反論が出てくると思うんですが、筆記試験合格から技能試験までは約1か月半、忙しい社会人の身分ともなれば、この間どれだけ効率的に技能試験の演習をこなすかがカギなわけで。

技能試験の必須作業に複線図の読み書きが含まれているなら、演習期間に入った時点で、

2. 演習内の複線図読み書き時間を最小化し、かつ複線図の学習時間を演習期間から取り除く

ことで、より多くの演習時間を獲得することができるわけです。

もう一つ、複線図を筆記試験で解くためには、一定以上のスピードで複線図を読み書きできる必要がありますが、これは、

3. 技能試験の限られた時間内で複線図を書けるかどうかの試金石

という意味もあります。技能試験はすべての作業を40分間で終えなければならない、時間的にはかなりタイトな試験ですから、複線図の読み書き程度に時間をかけていられないのです。

そして言うまでもなく、

4. 筆記試験の複線図知識は筆記試験の点数を上げ、合格の可能性を上げる

のですから、まぁ何というか、普通に考えるとやらないという手はなくて、いわゆる『急がば回れなのです。

慣れない人にはちょっと大変ですが、複線図は読み書きに作法があるので、それを体得してしまえば楽しくすらなります。筆記試験のうちにマスターしておきましょう。

筆記で言うべきことはこれぐらいですかね。以下、次号。


  1. 大学で電気はやったんですが、大分忘れている上に机上実験程度の実技しかしてませんからね。

  2. 認定電気工事者とか一種電工は講習があるんですが、費用はせいぜい1万程度と安価。

データベーススペシャリスト試験を受ける前に知っておきたい3つの極意

はじめに

 本記事はQiita Advent Calendar "IT資格取得をテーマに学びをシェアしよう!【PR】Udemy Advent Calendar 2021" 12/20(月)分の記事です。

qiita.com

…またですか?

 はい。またです。

f:id:dimeiza:20211218104728p:plain

 これで高度情報処理技術者試験のタイトルは6つ目になります。

今回も受験記書くの?

今回はテクニカルスペシャリスト試験の合格ですし、体験記とかを書く気は特になかったんですよ。

データベーススペシャリストについては山のように合格体験記も残っていますし、(良くも悪くも)コモディティ化されている区分1なので、あえて何かを書く必要もないと思ったんですが、昨日祝杯を上げながらこの一連のツイートをした際に、

この話は私がデータベーススペシャリスト試験を受ける前に知っておきたかった3つの受験テクニックだなぁ、と気づいたので、翌年以降受験する人のための道標として残しておこうと思ったのです。

というわけで、極意などという若干釣りっぽいタイトルですが、以降の話は体験記でもなければ、データベース技術の能力向上などといった高尚な話でもなく、純然たる受験テクニックの話です。

1. 出題パターンと傾向を熟知しておく。

 出題パターンについては、過去問を何年かパラパラめくっていくとすぐに分かる事かとは思います。

 データベーススペシャリスト試験の午後I、午後IIは、大抵以下の形式に則って出題されています。

  • 問題文の要件から概念データモデルのリレーションシップを引き、関係スキーマの空白を埋める。
    • いわゆる論理設計問。
  • 問題文に記述された性能に関する与件から、パフォーマンスを明らかにし向上を図る。
    • いわゆる物理設計問。
  • 問題文に記述されたシステム構成と業務フローから、SQLの穴埋めを行う。

 データベーススペシャリスト試験合格の一番の近道は、

  • 上記の各形式に対して明示的に備えつつ、
  • 自分はどの形式が最も得意であり、
  • IPAはどの形式に対して最も優遇してくるか

 を知っておくことです。

各形式に対して明示的に備える

 これはまんべんなく過去問を解いていれば問題なくできることです。

 午後I、午後IIでは問題選択をすることになって、結局一部の問題は解かず終いになるわけですが、後述するように、自分がどの形式を得意とするか知っておくためには、まず過去問を解いて体感しておく必要があります。

 また、全形式の問題を解いておけば、万が一、自分が最も得意としている形式が非常に難化している場合に、避けて通るための保険にもなります。

どの形式が得意かを知っておく

 受験生のバックグラウンドによって、各形式に対する得意、不得意が出てくると思います。

  • 日本語読解と概念の整理を得意とする人
  • SQLの組み立てを得意とする人
  • 計算とパフォーマンス把握を得意とする人

 自分がどの形式を得意としているかは、本番における問題選択の基準、判断材料として重きを占めることになります。

どの形式が最も優遇されるかを知っておく

 これはデータベーススペシャリスト試験経験者の間でよく言われていることですが、午後IIで出題される2問については、

  • 1問は論理設計問で、大半の人がこれを選ぶ(本命)
  • もう1問はそれ以外の問題で、選ぶ人は少ない(大穴、冒険)

 という話がされることがあります。論理設計問以外の問の方は比較的難易度が高い問題のことも多いそうです。

 このため、本番では論理設計問を安牌として選択するのが一般的な戦略になっています。

 ただ、今年の午後I問1辺りは論理設計問としては日本語の捻りが強く、過去で1,2を争う難問とも言われていて、必ずしも安全な道とは限らないのですが、論理設計問が攻略の基本にあることは、この区分の常識感として知っておいたほうが良いでしょう。

2. 概念データモデル、関係スキーマ、問題文を三位一体で解く。

これは上述の戦略に従って、論理設計問を選択した際の鉄則です。

 論理設計問の解き方の根本とも言える考え方で、当たり前と言えば当たり前ですが、概念データモデルと関係スキーマに欠落している情報は、問題文からだけではなく、他方からも補う必要があります。

概念データモデルの配置から関係スキーマの内容を類推する

 概念データモデルで予め配置されている情報は、回答者が線を引きやすいように配置されています。

 この線の引き方を見ると、

  • ん? この情報とこの情報が上下配置されてて交差もしなさそう…ひょっとして外部キー関係?
  • この情報とこの情報、多分サブタイプ関係だけど、関係スキーマには片方書かれてなくね?

 みたいな関係性が暗示的に読み取れることがあるので、ここから関係スキーマの穴埋めを疑っていったりすることもできます。

関係スキーマの表記と概念データモデルを照合する。

 関係スキーマ上、主キーや外部キー表記が予めされている場合、この関係性がきちんと概念データモデルに反映されているかを確認しておくことは大事です。

 外部キー、サブタイプ表記のような、データモデル間の関係を正確に表現することが論理設計問最大の出題趣旨で、出題者は問題を解いていく中で、新たな関係を解答用紙に記入していくことになるわけですが、この時、

  • 一方に予め暗黙的に表現されている関係性が、関係スキーマと概念データモデルの両方に反映されているか

 だけではなく、

  • 回答者が回答した新たな関係性が、関係スキーマと概念データモデルの両方に反映されているか

 ということも求められるので、これを意識的に確認する観点からも、関係スキーマの外部キー表現と概念データモデルのそれについて、平仄を取る癖をつけることはとても大事になります2

関係性を明示、暗示する問題文の表現を拾い切る。

 解答を求められる関係性や属性名は、大抵問題文から拾うことになるので、普通、問題文は慎重に見ることになりますが、

  • 識別する。
  • 一意になる。
  • 一意になるとは限らない。
  • 設定されないこともある。
  • 対応付ける。
  • 設定できる。
  • 設定できない。

 これらの述語が出てきた場合、かなりの確率で概念データモデルや関係スキーマの関係性を表現しているので、この述語で説明されている主体について、概念データモデルや関係スキーマ上の取扱を確認しなければなりません。

 ただ、もっと恐ろしいのは、関係を暗示しているのはこうした決まりきった表現とは限らないことです。

  • (適用率が)変わることがある。
  • 複数回することはない。

 のような、一見紋切り型でない述語であっても、この関係性を表現するデータ構造を実現せよ、という含意があって、概念データモデルと関係スキーマに影響を及ぼすことがあります。

 問題文の中に埋もれている、こうした暗示的な表現を拾って他2つに表現できるか、という点は、回答の画竜点睛を入れる上で重要になってきます。

三位一体で見れるかは問題選択にも影響する

 問題文、関係スキーマ、概念データモデルのそれぞれに断片表現された関係性を、関係スキーマ、概念データモデルに完全に表現し切るのが、論理設計問の最終的なゴールです。

 そのためにはこの3つを三位一体として俯瞰し、矛盾点と記述不足を洗い出す必要があるわけですが、

  • このスタンスで試験に臨めるかは問題選択にも影響するし、勝敗を分けそうだな

 と実感したのは、試験が近づいた9月頃のことでした。

 実際そのとおりだったのですが、もっと早い段階で気づいておきたかったことでもあります。

3. 迷ったら線を引け

 これは試験が近づいた時にどこかで聞いたんですよね3

 これも論理設計問を解く時のポイントの一つです。

 論理設計問で『線を引く』というと、大抵は以下2つを指しますが、

  1. 概念データモデル上で関係表現をするためのリレーションシップを引く。
  2. 関係スキーマで主キー(下線)、外部キー(下破線)を表現する

 ここで私が念頭に置いている線は、リレーションシップの線です。

 概念データモデルでリレーションシップを引く場合、大抵は関係スキーマで外部キーの関係を表現してから引くと思うんですよ。

 外部キーになっているかどうかの確信がつかない時はなかなか線が引きにくいと思うんですが、こういう時は予め線を引いておいて、関係性を仮置きした後で、引き続きデータモデルを分析していく、というのが、私が最後に従った極意でした。

 これは事実かどうかちょっとわからないんですが、概念データモデルに余計な線が引かれていた場合であっても、減点はされないと言われています4

 予め概念データモデルで線を引いておけば、関係スキーマ上で発見した外部キー関係を万一概念データモデルに反映しそびれていたとしても、失点しない可能性があるわけです。

 得点テクニックの話ではあるんですが、同時に『関係性の仮定において積極性を失わないこと』という指針でもあります。

 もしリレーションシップの必要性が疑われるのであれば、まず存在を仮定した上で、その先の分析を進めてみましょう。

さいごに

 この3つが、私がデータベーススペシャリスト試験を受ける直前で得た気づきであり、合格した後になって『私に最も必要なテクニックだった』と思い直した3つです。

 この辺は受験攻略本を深く読むと、ある程度暗示的に書いてあったりするんですが、特にこの3つにフォーカスして説明された情報源を見たことがなかったので、来年度の受験生の準備に資するべく、書いてみることにしました。

 データベーススペシャリストに挑む動機5は皆様様々だと思いますが、勘所を押さえれば私のような門外漢6でも、足止めされずに一発突破できますので、良ければ上記を参考にして挑んでみてください。


  1. 応用情報の後に挑む区分としては、支援士に次ぐ有力な選択肢だと思っています。

  2. データベーススペシャリスト試験不合格の大きな原因の一つは、『関係スキーマで外部キーに下線を引きそびれた(関係を明示し忘れた)』。

  3. 5chだったかもしれません。

  4. あくまでも数本程度の話です。回答の趣旨を疑うぐらい引かれていたら減点、不合格もあり得るでしょう。

  5. ガッキーと結婚する資格を得るために挑む人も多かろうと思います。ガッキーロスが癒やされるかも…?

  6. 実はデータベースをガッツリ使うシステムを業務で構築した経験はほとんどありません。自分で構築、使用した事自体はそれなりにありますけども。

科学技術分野における最高位の国家資格 技術士(情報工学部門)のご紹介と、資格取得の感想戦について(後編)

 本記事はQiita Advent Calendar "IT資格取得をテーマに学びをシェアしよう!【PR】Udemy Advent Calendar 2021" 12/12(日)分の記事で、12/11(土)の記事の後編に当たります。

qiita.com

 前編は以下。

dimeiza.hatenablog.com

第二次試験

 さて。

 私はかねての計画に従って、第一次試験合格後、即座に第二次試験の受験手続きに入ったんですが…。

 これも受験するまでにひと騒動というか…大変でしたね。

未経験者がぶつかった、願書と押印とリモートワークの問題

 第二次試験受験時には、受験資格を満たす実務経験を記述した上で、当該実務経験について第三者(サラリーマンであれば雇用主)からの証明を受ける必要があります。

 で、この時の証明に必要なのは、証明権者の『公印』だったんですよ。

 問題の所在はもうおわかりですね。Covid-19とリモートワークと判子の関係についてです。

 会社もこの時かなりの混乱期で、感染防止と業務継続を両立させるための方針が二転三転し、右往左往していました。

 私はなるべく出社しない方向で管理職と調整していたんですが、この時ちょうど管理職が交代していて、リモートワークに対するポリシー変更があり、出社も含めてギクシャクしていたんですよ。

 折しもその時、私自身も咳を中心とした風邪のような自覚症状が出てしまって。執務は辛うじてできそうながら会社に出勤するのがはばかられる状態1になってしまいました。

  • 会社とは郵便経由で押印願書を授受しなければならない
  • 一方で公印をもらうには(ちょうどあまり関係が良くなかった)上長の承認が必要

 という組織上動きにくい状態になっていました。

 その上、

  • 周囲に技術士第二次試験願書作成経験者がおらず、社内手続きも含めてどのように進めればいいかわからない

 という手続き不慣れもあり、さらに、

  • 再試験合格から第二次試験願書締切までの期間が(例年と比すると)短い

 というこの年特有の事情も重なって、非常に手続きしづらい環境になっていました。

 そうは言っても、辛うじて第一次試験をこじ開けたのですから、手続きごときでヘバっているわけには行きません。

 これも技術士に求められる『複合的な問題の解決』と割り切って、各所に対する調整を始め、どうにかこうにか業務経歴の証明を受けた願書を入手し、技術士会に郵送することができました。

 あ、ちなみに令和3年度からは、押印に関するこうした不都合を考慮して、押印が不要になっているので、文書に印鑑をもらうための作業は軽減されています。今後受験する方はご安心ください。

論文との闘い

 IPA試験の論文と違って、

  • 試験範囲が特定の技術領域に限定されない
  • 技術よりも問題解決、行動特性といったコンセプチュアルな記述を求められる
  • 何よりも記述量が多い
  • その割に文字数が足りなくなる

 というのが技術士論文試験の特徴です。

 量も量ですし(以下、拙著から抜粋)、

試験科目 最大記述量 配点 回答時間
I 必須科目 600字×3枚 40点 2時間(10:00〜12:00)
II 選択科目 + III 選択科目 600字×3枚 + 600字×3枚 30点 + 30点 3時間30分(13:00〜16:30)

 合格率もだいぶシビアな数字で(同様に拙著から抜粋、令和2年度)、

選択科目 申込者数 受験者数 論文試験合格者数 論文試験合格率[%]
コンピュータ工学 42 35 1 2.8
ソフトウェア工学 111 89 7 7.9
情報システム 138 119 15 12.6
情報基盤 73 61 5 8.2
合計 364 304 28 9.2

 無対策で行ったら討死確定の試験です。

 IPA試験同様、論文答練して現場ですばやく解答を書けるようにならないといけないんですが、まぁ量が量なので手が痛くなりましたね。

 といっても、1日あたり大体600字詰め5,6枚ぐらいの答練ボリュームにしていた気もします。

参考書が…無い!

 もう一つ、IPA試験との圧倒的な差は、情報工学部門の参考書不足です。

 特に第二次論文試験に対して、Amazon等の著名な書籍販売サイトで手に入る参考書、対策本ははっきり言って0です2

 技術士(情報工学部門)の敷居の高さは、この情報源不足からも来ていて、正直試験の場で何を書けば正解なのか、心底手探りの状態で答練していました。

ここでちょっと先触れをしておくと

 私自身もこの状況は良くないなーと思っていて、IPA試験、技術士試験で積んできた論文作成ノウハウを、個人的にどこかでまとめたいと思っているところなので、もしかすると

 を執筆するかも知れません。

 とはいえ、書籍執筆って読み手が想定するよりもずっとパワーが必要で消耗する行為だというのは、自身が体験してよく分かっているので、この年末年始の私の状況次第、とお考えください。

感染との闘い

 答練は答練で黙々とこなしてきたんですが、それ以上にもっとクリティカルに効いてくるのはCovid-19。

 『もし受験日に感染していたら』というのが一番のリスクです。この場合は当然試験を受験できなくなります。

 とにかく体調を維持すること、崩さないことに専念していましたね。

試験の場に何を持っていくか

 技術次第二次論文試験は、おそらく自分がこれまで受験した試験の中で最も消耗する試験だろうと思ったので、(若さもだいぶ失われている事を考えて、)可能な限り肉体、精神の消耗リスクに備えられるよう、持参品もできる限りの吟味をしました。

 詳しくはここに載っていますが、

zenn.dev

 個人的には対肩こり向け鎮痛消炎剤マスク、そして言うまでもなく筆記用具の選定に一番気を使いました。

 (今でこそ不織布マスクが第一選択ですが)マスクはなるべく試験時に息苦しさや耳の痛みを伴わないものにしたかったので、エアリズムマスクを選んで持っていった、というのがあります。

試験の場で辛かったこと

 これは今だからこそ言えるんですけど、私の隣りに座っている人の筆圧が結構強くて、記述の音もうるさければ机も結構揺れたんですよ。

 試験開始時からだったので、メチャクチャ集中力が削がれましてね。私の自意識が過剰なだけですが、プレッシャーもかかりました。

 終わった後は肩や腰にもそれなりに負担が来たんですけど、試験中に一番キツかったのは、他の受験者からの集中力削ぎでした。

災い転じて福となす

 ただ、結果的に見ると(こうして合格記を書いているのもありますが)、このピンチはチャンスに逆転できた感もあります。

 『負けてたまるか!』と、私の論文作成もまたハイペースになっていきまして。

 以前、ITストラテジスト試験を受けた時は、そのハイペース故に危うく敗北を喫するところだったんですが、

dimeiza.hatenablog.com

 今回は以前の轍を踏むまいと、ハイペースでありながら慎重に論文設計を行い、着実に文字を埋めていました。

 気づいたら、必須科目でも選択科目でも、終了時間に1時間以上の余裕を残して論文を書き終えていました。

 試験中、休み時間に混んでいたトイレに行く余裕があったぐらいです。

 試験開始時、プレッシャーをかけられる側だったのが、いつの間にかプレッシャーをかける側に逆転していました。

 色々な試験を受験してしみじみ思っているのが、『試験中にピンチに陥った時に、どうやって心理的にリカバーするか』は、結構勝敗をシビアに左右するなぁ、と。

 まぁ…今振り返っても、自分の中では関ヶ原、天王山とも呼べる闘いで、なかなかの大一番、大勝負でしたね。

先例なき口頭試験対策

 論文試験が終わった後、一息ついて口頭試験の受験準備に入ったんですが、これも正解なき闘いでした。

 まず、

 点については、口頭試験も例外ではありません。

 まぁ、Webでは体験記をちらほら見かけるんですが、キツかったのは、

  • 2019年度以降の改定された口頭試験に関する体験記がまったくない

 ことでした。

 技術士試験制度は2019年に改定されているんですが、この時に口頭試験の基準や実施方式も変わっています。詳しくはここに。

zenn.dev

 ところが、新制度に対応した口頭試験で、一体何を聞かれるのか、何に備えるべきかということについて記述された、情報工学部門の体験記がまったくなかったのです。

 これは他分野も含めた口頭試験対策本も似たりよったりで、

  • 旧来の試験対策で、果たして私は口頭試験を突破できるのか…?

 という点で非常に不安になったのを覚えています。まぁ、そうは言っても対策はしたんですけども。

 ちなみに今は情報工学部門向け口頭試験の問答はWeb上に存在します。なぜなら私が書いたので。

zenn.dev

口頭試験で見つけた論文の粗

 事前情報だと、口頭試験において論文試験で書いた内容が話題になることもある、という話だったので、論文の内容も慎重に見直していたんですが、論文のある一言を見て、

  • 待てよ…この内容、試験官に通じているか…? 題意解釈は本当に大丈夫なのか…?

 と、不安になってしまったんですよ。

 これが口頭試験対策でもう一つキツかったところですね。

 不安がよぎった頃には他の口頭試験対策はだいたい終わっていたんですが、これ以上の口頭試験対策ができなくなったほどです。

 論文試験の結果発表前に口頭試験対策をした人だけが分かる苦しみだと思うんですが、『論文試験ダメかも知れない』という不安の中で行う口頭試験対策のストレスは想像を絶します。

論文試験合格時のハプニング

 論文試験どうなるか、と心配でやきもきしながら迎えた2021年初。

 合格発表日(2021/1/8)、合格者番号が書かれたpdfファイルを恐る恐る開き、私の番号を探したんですが、見つからなくて。

 『そうか…やはりダメなのか…厳しいな…』と打ちのめされながら、私は床に崩れ落ちたんですが、改めてpdfファイルを見ると、私が受験した選択科目であるソフトウェア工学』って書いてあるページが2つあることに気づいたんですよ。

 『ひょっとして…総監(総合技術監理部門)3のページを見てる…?』と、ハッと我に返った私はpdfファイルを先頭からたどり、情報工学部門の『ソフトウェア工学』のページを見たところ。

 そこに私の受験番号はあったんですよ。

 この時の脳内麻薬の出方はヤバかったですね。直後のツイートがこちら。

 ページ見間違いで落とされた後に持ち上げられるというコレ、技術士界隈ではよくあることらしいんですが、ほんの数分で一気に地獄から天国に叩き込まれた感がありました。

口頭試験直前に突然襲ってきた緊張

 ここから先は割と順調で、(私の知りえる限りでの)口頭試験対策も問題なく実施し、Covid-19の魔の手からも逃れ、無事本番を迎えまして。

 試験会場に行った後も、『これだけ練習してきたんだから何とかなるだろ』という余裕があったぐらいだったんですが。

 試験時間が近づいたので、受験者控室から試験室前の(廊下に置かれた)椅子に移動して、座った直後

 何の前触れも理由もなく、凄まじい緊張感が襲ってきたのを覚えています。

 この時、私は口頭試験とは、一般に言われているような、ただの合格率の高い試験ではなく、『1年間の努力の成否が20分間の舌端に乗る、もっとも易しくもっとも厳しい試験』であることを実感しました。

 この緊張の瞬間は、ここから先の20分間の振る舞いが、この2年間の勝敗を完全に左右するということを身体で理解した瞬間だったのでしょう。

 ただ、極度の緊張は感じましたが、緊張に負けなかったのは覚えています。試験官は我々の答案を通してくれた味方だ、と改めて思い直して面接室に入りました。

 後はガイドブック記載のとおりです。

 試験終了後、後進に残すためにも、自身の精神衛生のためにも、絶対に試験内容を忘れないようにしないと、と必死で記憶を維持していたのを覚えています。

振り返ってみると

 改めて振り返ると、技術士の取得自体敷居が高いだけでなく、

  • 情報工学部門は特に合格率が低い
  • 試験全般を通して参考書がほとんどなく、自力合格が厳しい

 という部門特有の逆境に加えて、

  • 令和元年度〜令和2年度の技術士試験はハードモード4だった(台風とCovid-19)。

 という、年度特有の問題に苦しめられた、茨の道5ではありました。

 『じゃあ、それだけの価値がある資格だった?』と聞かれると、正直まだ実感はないんですが、この資格を取ったことによって、それ以前の自分とは色々と変化したところも出てきています。

  • 高度試験合格だけの頃にはなかった、底から湧き上がってくる自信が出てきた
  • 社内の職位から独立した立場で組織の問題を俯瞰したり、意識的に教育、指導の声掛けをするようになった
  • 技術者倫理に悖らない行動を心がけるようになった
  • 私企業、個人としての利益だけではなく、(自身や他者の活動に対して)公益を意識した捉え方をするようになった
  • 書籍を執筆するなど、これまでの自分の枠を超えた活動をするようになった

 まだ技術士としては歩みはじめの一年だったんですが、内的な所から徐々に変わってきているような感があります。

さいごに

 技術士の価値については過小評価されているという嘆きの声が技術士自身からも聞こえることもありますが、私としては、

  • 技術士(情報工学部門)を(称号として)フルに活用しつつも、
  • 今は少ない技術士(情報工学部門)の陣容を拡大する働きかけをしつつ、
  • 社会的な地位を高めるために少しでも貢献できればいいな

 と思っているところです。

 現状、万人が目指すべき資格だとは思っていませんが、こんな事を感じながら戦い抜いた技術士(情報工学部門)受験生がいたということを踏まえつつ、一人でも多くの、高い技術力と高潔な心の両方を兼ね備えたITエンジニアが、この最難関、最高峰のIT資格に挑み、勝利を勝ち取って頂ければ、筆者としては何よりの幸いでございます。


  1. PCR検査も満員で実施してもらえず、咳が出ている関係上。

  2. よく探すと1冊だけ、一般に入手可能な書籍はあるのですが、それだけで十分かと言うと微妙。

  3. 総監(総合技術監理部門)は、21個ある技術分野の中で特殊な部門で、別途専門技術分野を持ちつつも、専門横断的な技術監理をすることを特徴とする部門です。総合技術監理部門の合格者番号は、専門とする技術部門、専門科目を併記した上で記載されます(pdfファイル全体では、同じ技術部門、専門科目名が2回表記されることになる)。

  4. 個人的にはDante Must Die/The Boss Extreme相当の難易度だと思っています。

  5. 良く言えば技術士試験史上に残る闘いで、この地獄の試練を潜り抜けた自身を誇るつもりではいますが、一方で、こんな思いをするのは令和元年度〜令和2年度受験者だけでいいとも思っています。