組み込みエンジニアが目指すIoTストラテジストへの道(2)
というわけで続き。午前Ⅱ〜の勉強に対する、私の感覚とアドバイス的なものを書いていきます。
午前Ⅱ
今回はシステム監査技術者合格権限を使って午前Ⅰはスキップなので午前Ⅱからなんですが…うん…まぁ…ここまで来てしまうと、あまり言うことはないですね。
ITストラテジストに限らず、どの区分においても午前Ⅱは区分固有知識を問うだけなので、一言、『過去問やっとけ』 で終わりではあります。
それだけですべてを察し、空気のように午前Ⅱを乗り越えてくる熟練者と戦わなければならないのが、ITストラテジスト試験の厳しさの一つでもあります1。
不正解選択肢をすべて拾い上げて理解する
が、エンジニアのスキルセットだけで過去問に挑むと、未知の知識ばかりで辛いと思うので、先ほど紹介した、『この1冊ですべてわかる 経営戦略の基本』を読むと同時に、
- 正解選択肢だけではなく、不正解選択肢でわからない言葉をググって調べておく
といいと思います。
ペネトレーションプライシング(浸透価格戦略)と同時に、スキミングプライシング(上澄み吸収価格戦略)も覚えてしまう。PEST分析を聞かれたら、不正解選択肢に書かれている文章から、3C分析、SWOT分析、ファイブフォース分析までまとめて概念を勉強してしまうのが効率が良いです。
マーケ、戦略系用語を肌で理解するには
エンジニア畑固有の課題としては、仕事で使い慣れているわけでもないマーケ系、事業戦略系の用語です。
文言で概念を勉強しても、肌感と言うかイメージで理解できないのが、畑違いゆえのハンデになるんですが、実はこの辺を克服して、分析手法を体で覚える良い方法があるのです。
午後Ⅱを分析演習の場とするのです。
詳しくは後述します。
午後Ⅰ
システム監査技術者試験を経験した後で、ITストラテジスト試験の午後Ⅰを見た私の感想は、
- 何これ、めっちゃ分かりやすいんだが!?
でした。2
もう一つの感想は、
- あー、これ、システムアーキテクト試験の正統進化(上流版)系だわ。
という印象。
システムアーキテクト試験の上流進化系
システムアーキテクト試験の場合、システムの個別の構成要素(DBのフィールドとか、NW内のサーバとか)と、そのつながりについて聞かれることが多いですが、大抵、
- 現行システムで不足している機能とか
- なぜその設計にしたかの理由とか
- システム化対象業務の特性とか
実は結構WhatやWhyを聞かれているんですよ。
システムアーキテクト試験でチラホラ聞かれるこの手の要件絡み、理由絡みの問題について、もう1段上位の要件定義、経営課題的な背景を使って全面的に聞いてくるのが、ITストラテジスト試験の午後Ⅰなのかーというのが私のイメージでした。
システムアーキテクトと違うのは、技術的構成要素間のつながりではなく、要求やニーズ、現行システムの特性、リスクといった抽象的な事象間の関連を元に質問してくる ところです。
例えば2018年問1。
設問2 A社は、新サービスによって、顧客のどのようなニーズに答えようと考えているか、25字以内で述べよ。
問1はコールセンターのチャットボット化に関する問題なんですが、現行のコールセンターの特性とユーザニーズが、問題文に暗に示されているので、つなぎ合わせて答えていけば、普通に正答にたどり着けます。
自動音声応答の案内によって、顧客が案内の途中で電話を切ってしまうことが多く、
問い合わせをしてきた顧客に簡単なアンケートを行った。その結果、問い合わせをした顧客の多くが、電話やメールで問い合わせをする前に、ヘルプの検索などのセルフサービス機能での解決を試みていることが分かった。
1対1でわざわざ問い合わせを起こすのって面倒じゃないですか。こうした顧客のニーズはきちんと問題文に示されているので、
新サービスによって自ら問題を解決できること
サポートの手を煩わせず自己解決したいのね、ってな解答を、ちょっと想像力を働かせて上記の文章から引っ張ってくるだけの、要は国語の問題です。
ITストラテジストらしい午後Ⅰの設問
市場要求への推察を行わせるような問題は、ITストラテジストの固有問題と言えるかもしれません。例えば2018年問4。
設問1(2) U氏が、今後は海外市場の高層ビル向けの製品にも注力すべきと考えた需要面の理由を、30字以内で述べよ。
まぁでも、この辺も言うほど難しくないんですよ。ちゃんと書いてあるので。
新興国の都市部に高層ビルの建設予定が多く、集中した需要が見込まれる。
あと、複数のステークホルダの要求を同時に満たすような解決策を提案させる、なんて問題もこの区分らしい問題かも。2017年度問1。
設問2(1) 本文中の下線⑤の、A社の強みを活かしたあるサービスについて共同で実証検討を開始する提案の内容について、30字以内で述べよ。
この辺はA社と、A社と付き合いのあるP社、2社の特性を合わせると問題解決できる系です。実はP社には困りごとがあるんですよ。
近年、P社の整備部門への新規要員の採用が難しく、
整備部門を縮小しつつも、大型車両の運用を継続できる施策の検討
一方でA社には強みがあります。
ES部(エンジニアリングサービス部)は(中略)顧客に密着した高い品質のサービスを提供することで業界の評判も高い。最近では、他社製品への対応を有償で依頼されることも増えてきている。
これらを個別ではなく組み合わせることで、
- ん? A社の他社製品修理技術ってP社に高く売れるんじゃないか?
と商売根性を働かせると、
P社の整備部門の業務をA社のES部が受託する提案
と言うWin-Winの解決策を解答に書けるわけです。
商売根性を働かせる
この、『商売根性を働かせる』という点、特にエンジニア畑からこの区分に挑む人にとっては、午後Ⅰ、午後Ⅱを安定して戦うために必要となる、極めて重要な発想の転換ではないだろうか、と私は思っています。
最初にもちょっと触れましたが、ITストラテジスト試験を貫く大テーマは、『ITを利用していかに稼ぐか』 なのです。コストを減らす系にせよ、市場を選ぶ系にせよ、素早く市場展開させる系にせよ、ほとんどすべての設問が、直接間接にこれを聞いてきています。
技術畑で長く仕事をしていると、売り先を決めるのはマーケの仕事、商談取ってくるのは営業の仕事、量産するのは工場の仕事だろ、と、自分の視野を開発とIT技術の範囲に限定してしまいがちで、それ故に、『ITを使ってどう稼ぐか』という、金と市場に関する嗅覚が欠落してしまいがちです。
一方で、こうした嗅覚があると解きやすい というのがITストラテジスト試験の特徴の一つで。
- ん? この文言だと、ここのコストを減らして固定費を下げられるじゃん
- もっと売れる市場があるって書いてあるよね? そこに売りに行こうぜ
- このステークホルダ、我々が知らない技術持ってるじゃん。組めば自分で作らんで良さそう
みたいな解き方ができるんですよ。実際そういう解答になっていることが多いです。
ITストラテジスト試験の午後1で、つかみどころのない問題にお困りの方は、一度、『この状況を利用してどう金を稼ぐか?』 という視点で文言を捉えなおしてみると、ひょっとすると糸口がつかめるかもしれません。
定石を使う
あと、前述した情報処理教科書には、『トップダウンアプローチ』と『対策標語』というユニークな解き方があるので、これを先に念頭に置いてから挑むのもありです。
『対策標語』は、ITストラテジストとしての見解やノウハウを、設問の状況に応じて即適用するための指針の集合体と言っていいでしょう3。これを設問に対してズバッと当てはめて解答を導き出すのが、『トップダウンアプローチ』です。
例えば、『コアコンピタンスで勝負せよ』とか、『AIといったら学習』とか、『遊びが発生したら連携して活性化せよ』とか。午後Ⅰであるあるな状況に対して方向性を打ち出してくれます。
この辺を覚えるのが大変、というのが先述した話ですが、一通り押さえておくと午後Ⅰの戦いがぐっと安定するので、最後におすすめしておきます。
とりあえずこんなところかしら。不足していたら適宜補足します。
午後Ⅱは次回に回しましょうか。ではまた後ほど。