dimeizaのブログ

興味のある技術(IoT/VR/Smart Speaker)とか、資格試験の話とか、日常で出会ったTechな話について書いています。

プログラマが第二種電気工事士を取ってみた (1.YOUは何しに電工を?)

はじめに

前回、情報処理安全確保支援士の経過措置対象について話したときに、

dimeiza.hatenablog.com

…実は私自身も、(そんなに難しくはないんですが)準備にお金がかかる資格を、(スキルの幅を広げるために)受ける算段をしているところです。

という話をしていたんですが、この度目出度く資格取得に成功したので、その辺の話をしようかと思います(多分、相当需要は少ないと思いますが…)。

第二種電気工事士については山のようにWebに情報があふれているので、包括的な体験記はここでは書きません。Webの情報を参照しながら、私が電気の門外漢(プログラマ)としてこの試験に入門した際の気づきを共有しておこうかなと。

ちょっと長くなりそうなので、短め3部構成(動機+筆記試験、技能試験、本番+余談)ぐらいで行きましょう。

全体の流れは他の情報源を見てもらいつつ、『そういえば、あいつこんなこと言ってたな』ぐらいに思い出して使うぐらいがいいと思います。

きっかけ

かねてから電子工作系で活動している人たちを見ていると、割と軒並み取ってるんですよね、電気工事士って。

多分、エンベデッドに入門してきたルートが違う(電気、電子系 or 情報系)だと思うんですが、

  • エンベデッドに関わるならもう少し電気知っといてもよくない? 1

という理由が一つ。

今かかわっているのはIoT系の仕事なんですが、この方面だとスマートグリッドだとかスマートファクトリーだとか、強電系に関わる機会もあるかもしれないなぁ、と。

  • IoT系の活動をする際に、エッジ側の強電系に手を出せると、自己完結できるのでフットワークも活動の幅も広くなるんじゃない?

という理由が一つ。

ついでに、

  • IT系以外の世界を知っておくと、仕事の幅も広がるし、IT系知識と合わせて新しい価値作れるんじゃない?

という理由が一つありました。

それと合わせて、先行事例があったのも背中を押しました。

qiita.com

業務独占資格です。今話題の情報処理安全確保支援士は名称独占資格でしかないので、電気工事士の方がつおいですね!

費用も取得こそ5万弱(うち試験と免状交付で約1.5万)ほどかかりますが、継続講習費用2もなく、3年間で15万もお布施が必要な情報処理安全確保支援士よりよほどお得じゃん、と。

試験要領

www.shiken.or.jp

年2回実施で、筆記試験と技能試験の2種類の試験があり、筆記→技能の順で両方パスしなければなりません。

技能試験に落ちた場合、次回受験時に限り筆記試験が免除されるようです。

取得効果

www.shiken.or.jp

低圧(交流600V以下)で受電する場所の配線や設備(一般用電気工作物)の電気工事作業に従事することができます。平たく言うと自宅の宅内配線とかですね。

600V超で受電する電気設備(自家用電気工作物)の工事については上位の資格(第一種電気工事士 or 認定電気工事従事者)が必要なので、仕事で使う際には要件を満たしているかの注意が必要です。

これらの範囲は業務独占範囲なので、免状未取得者が施工すると違法になります。

筆記試験

教科書

使った教科書はこれでした(私の受験当時は2019年版)。

実は翔泳社の教科書を最初に買ったんですが、

読んでみて、知識の入り方がだいぶ違うように感じたんですよ。

翔泳社のほうはまさに教科書、という感じで、知識がひたすら羅列されています。図もそれなりに多いんですが、電気工事に全く知見のない入門者が読むと、どういうわけか頭に入っていかなくて。

一方で、『すいーっと合格』シリーズの方は、絵の大半が手書きになっているんですよ。

f:id:dimeiza:20190120201847p:plain

("ぜんぶ絵で見て覚える第2種電気工事士筆記試験すいーっと合格"から引用)

こういうのを見ていると、

  • いつも見ている天井から釣り下がってる蛍光灯は、『引掛シーリング』で吊るされ、『天井隠ぺい配線』で配線されていて、図面では実線なのか。
  • 表を歩いていると時々見かけるバネみたいなプラスチックの管、『合成樹脂製可とう電線管』で、略称は『PF』ね。

みたいな電気工事特有の知識が、普段の生活に紐づく形で入ってきました。

あと、絵中の文章も含め、基本的に読者を意識した語り口の文章になっていて、メカニズムやロジックがすっと入ってきやすい、という特徴があることに気づきました。

知識を詰め込んだだけの本と、読み手を意識した情報伝達ができている本、という差を私は感じたので、『すいーっと合格』をメインにして、翔泳社の教科書は辞書的に使ってました。多分『すいーっと合格』だけでも筆記試験はパスできると思います。

問題集

問題は前述の2冊に山のように入ってます。

電気系は情報系と違って技術的には十分確立済みで、大幅な技術のアップデートもなく、問題も一部パラメータを変える程度で多くは使いまわせるので、基本的に過去問を数年分こなせば全く問題ありません。

あと、隙間時間を使うためにアプリも使ってました。

play.google.com

筆記試験対策に当たってのポイント

上述のQiitaとか、私が見たWeb情報には書かれていなかったポイントを。

1. 最初は暗記できてなくてもいいので、とにかく回す。

f:id:dimeiza:20190120200254p:plain

("ぜんぶ絵で見て覚える第2種電気工事士筆記試験すいーっと合格"から引用)

例えば教科書を一度読んだだけで、こういうのを見て、『これは電磁開閉器で、上の方は電磁接触器、下の方は熱動継電器』って空で言える程度に暗記できるならいいんですが、普通の門外漢だとなかなか難しいと思うんですよ。

特に回路図特有の記号とか、記号下部にHとかLとか、3とか4とか書いてあっても、普通一発で覚えられないよね、と。

ただ、この辺の知識は過去問で、それはそれは嫌というほど問われます。逆に言うと、問題文を回して答えを確認するだけで、10回、20回と復習していることになるわけです。

ノートやメモにまとめたりするのも有効ですが、暗記系は最初は解けないと割り切って、問題数少な目で何度も回すのが、筆記試験知識定着のポイントでした。

あと、計算系は間違ったら、きちんと公式を確認して解きなおしましょう。どれを適用すべきか混乱することもあるので。

2. 複線図問題は捨てない。筆記試験内で読み書きできるようになっておく。

筆記試験のボーダーは6割。過去問の繰り返しで解けるとはいえ、一部の範囲を捨てると割り切って、学習を省略すれば、まぁその場は楽にはなるでしょう。

で、一部の受験記や対策サイトとかで『複線図問題は必ずしも筆記試験までにできる必要はないので、捨てても構わない』的な言説を目にしたことがあってですね。

複線図問題の学習を省略した方がいいのは以下の2パターンの人だけです。

  • 『別に資格はいらないので、電気工事士試験を筆記だけ受けて、筆記だけ合格すればいい』っていう物好きな人
  • 過去に複線図を書いて書き方を知っているか、複線図を書かなくても技能試験の回路を作れるレベルに到達している人

そうでない人は、筆記試験の段階で複線図を『短い時間で』読み書きできるようになっておきましょう。技能試験を見据えるならこの方がずっと良いです。

その理由は技能試験の練習を始めるとすぐに分かります。

技能試験では個々の部品とケーブルの配置だけが図として示されていて(単線図)、個々の電線を極性含めどのようにつなぎ合わせるべきかの記述がないのです。

www.shiken.or.jp

例えば候補問題1とかはこんな感じ。

f:id:dimeiza:20190120202443p:plain

普通第二種電工を受けるレベルの人は、単線図を見て個々の電線をつなぎ合わせる芸当などできるわけはないので、技能試験が始まったら、まず複線図を書き、その図に従って回路を構成していくことになります。すなわち、

1. 大半の受験者にとっては、技能試験を突破するには複線図の読み書きは必須技能

なわけです。

だったら技能試験勉強時に学べばいいじゃん、って反論が出てくると思うんですが、筆記試験合格から技能試験までは約1か月半、忙しい社会人の身分ともなれば、この間どれだけ効率的に技能試験の演習をこなすかがカギなわけで。

技能試験の必須作業に複線図の読み書きが含まれているなら、演習期間に入った時点で、

2. 演習内の複線図読み書き時間を最小化し、かつ複線図の学習時間を演習期間から取り除く

ことで、より多くの演習時間を獲得することができるわけです。

もう一つ、複線図を筆記試験で解くためには、一定以上のスピードで複線図を読み書きできる必要がありますが、これは、

3. 技能試験の限られた時間内で複線図を書けるかどうかの試金石

という意味もあります。技能試験はすべての作業を40分間で終えなければならない、時間的にはかなりタイトな試験ですから、複線図の読み書き程度に時間をかけていられないのです。

そして言うまでもなく、

4. 筆記試験の複線図知識は筆記試験の点数を上げ、合格の可能性を上げる

のですから、まぁ何というか、普通に考えるとやらないという手はなくて、いわゆる『急がば回れなのです。

慣れない人にはちょっと大変ですが、複線図は読み書きに作法があるので、それを体得してしまえば楽しくすらなります。筆記試験のうちにマスターしておきましょう。

筆記で言うべきことはこれぐらいですかね。以下、次号。


  1. 大学で電気はやったんですが、大分忘れている上に机上実験程度の実技しかしてませんからね。

  2. 認定電気工事者とか一種電工は講習があるんですが、費用はせいぜい1万程度と安価。

データベーススペシャリスト試験を受ける前に知っておきたい3つの極意

はじめに

 本記事はQiita Advent Calendar "IT資格取得をテーマに学びをシェアしよう!【PR】Udemy Advent Calendar 2021" 12/20(月)分の記事です。

qiita.com

…またですか?

 はい。またです。

f:id:dimeiza:20211218104728p:plain

 これで高度情報処理技術者試験のタイトルは6つ目になります。

今回も受験記書くの?

今回はテクニカルスペシャリスト試験の合格ですし、体験記とかを書く気は特になかったんですよ。

データベーススペシャリストについては山のように合格体験記も残っていますし、(良くも悪くも)コモディティ化されている区分1なので、あえて何かを書く必要もないと思ったんですが、昨日祝杯を上げながらこの一連のツイートをした際に、

この話は私がデータベーススペシャリスト試験を受ける前に知っておきたかった3つの受験テクニックだなぁ、と気づいたので、翌年以降受験する人のための道標として残しておこうと思ったのです。

というわけで、極意などという若干釣りっぽいタイトルですが、以降の話は体験記でもなければ、データベース技術の能力向上などといった高尚な話でもなく、純然たる受験テクニックの話です。

1. 出題パターンと傾向を熟知しておく。

 出題パターンについては、過去問を何年かパラパラめくっていくとすぐに分かる事かとは思います。

 データベーススペシャリスト試験の午後I、午後IIは、大抵以下の形式に則って出題されています。

  • 問題文の要件から概念データモデルのリレーションシップを引き、関係スキーマの空白を埋める。
    • いわゆる論理設計問。
  • 問題文に記述された性能に関する与件から、パフォーマンスを明らかにし向上を図る。
    • いわゆる物理設計問。
  • 問題文に記述されたシステム構成と業務フローから、SQLの穴埋めを行う。

 データベーススペシャリスト試験合格の一番の近道は、

  • 上記の各形式に対して明示的に備えつつ、
  • 自分はどの形式が最も得意であり、
  • IPAはどの形式に対して最も優遇してくるか

 を知っておくことです。

各形式に対して明示的に備える

 これはまんべんなく過去問を解いていれば問題なくできることです。

 午後I、午後IIでは問題選択をすることになって、結局一部の問題は解かず終いになるわけですが、後述するように、自分がどの形式を得意とするか知っておくためには、まず過去問を解いて体感しておく必要があります。

 また、全形式の問題を解いておけば、万が一、自分が最も得意としている形式が非常に難化している場合に、避けて通るための保険にもなります。

どの形式が得意かを知っておく

 受験生のバックグラウンドによって、各形式に対する得意、不得意が出てくると思います。

  • 日本語読解と概念の整理を得意とする人
  • SQLの組み立てを得意とする人
  • 計算とパフォーマンス把握を得意とする人

 自分がどの形式を得意としているかは、本番における問題選択の基準、判断材料として重きを占めることになります。

どの形式が最も優遇されるかを知っておく

 これはデータベーススペシャリスト試験経験者の間でよく言われていることですが、午後IIで出題される2問については、

  • 1問は論理設計問で、大半の人がこれを選ぶ(本命)
  • もう1問はそれ以外の問題で、選ぶ人は少ない(大穴、冒険)

 という話がされることがあります。論理設計問以外の問の方は比較的難易度が高い問題のことも多いそうです。

 このため、本番では論理設計問を安牌として選択するのが一般的な戦略になっています。

 ただ、今年の午後I問1辺りは論理設計問としては日本語の捻りが強く、過去で1,2を争う難問とも言われていて、必ずしも安全な道とは限らないのですが、論理設計問が攻略の基本にあることは、この区分の常識感として知っておいたほうが良いでしょう。

2. 概念データモデル、関係スキーマ、問題文を三位一体で解く。

これは上述の戦略に従って、論理設計問を選択した際の鉄則です。

 論理設計問の解き方の根本とも言える考え方で、当たり前と言えば当たり前ですが、概念データモデルと関係スキーマに欠落している情報は、問題文からだけではなく、他方からも補う必要があります。

概念データモデルの配置から関係スキーマの内容を類推する

 概念データモデルで予め配置されている情報は、回答者が線を引きやすいように配置されています。

 この線の引き方を見ると、

  • ん? この情報とこの情報が上下配置されてて交差もしなさそう…ひょっとして外部キー関係?
  • この情報とこの情報、多分サブタイプ関係だけど、関係スキーマには片方書かれてなくね?

 みたいな関係性が暗示的に読み取れることがあるので、ここから関係スキーマの穴埋めを疑っていったりすることもできます。

関係スキーマの表記と概念データモデルを照合する。

 関係スキーマ上、主キーや外部キー表記が予めされている場合、この関係性がきちんと概念データモデルに反映されているかを確認しておくことは大事です。

 外部キー、サブタイプ表記のような、データモデル間の関係を正確に表現することが論理設計問最大の出題趣旨で、出題者は問題を解いていく中で、新たな関係を解答用紙に記入していくことになるわけですが、この時、

  • 一方に予め暗黙的に表現されている関係性が、関係スキーマと概念データモデルの両方に反映されているか

 だけではなく、

  • 回答者が回答した新たな関係性が、関係スキーマと概念データモデルの両方に反映されているか

 ということも求められるので、これを意識的に確認する観点からも、関係スキーマの外部キー表現と概念データモデルのそれについて、平仄を取る癖をつけることはとても大事になります2

関係性を明示、暗示する問題文の表現を拾い切る。

 解答を求められる関係性や属性名は、大抵問題文から拾うことになるので、普通、問題文は慎重に見ることになりますが、

  • 識別する。
  • 一意になる。
  • 一意になるとは限らない。
  • 設定されないこともある。
  • 対応付ける。
  • 設定できる。
  • 設定できない。

 これらの述語が出てきた場合、かなりの確率で概念データモデルや関係スキーマの関係性を表現しているので、この述語で説明されている主体について、概念データモデルや関係スキーマ上の取扱を確認しなければなりません。

 ただ、もっと恐ろしいのは、関係を暗示しているのはこうした決まりきった表現とは限らないことです。

  • (適用率が)変わることがある。
  • 複数回することはない。

 のような、一見紋切り型でない述語であっても、この関係性を表現するデータ構造を実現せよ、という含意があって、概念データモデルと関係スキーマに影響を及ぼすことがあります。

 問題文の中に埋もれている、こうした暗示的な表現を拾って他2つに表現できるか、という点は、回答の画竜点睛を入れる上で重要になってきます。

三位一体で見れるかは問題選択にも影響する

 問題文、関係スキーマ、概念データモデルのそれぞれに断片表現された関係性を、関係スキーマ、概念データモデルに完全に表現し切るのが、論理設計問の最終的なゴールです。

 そのためにはこの3つを三位一体として俯瞰し、矛盾点と記述不足を洗い出す必要があるわけですが、

  • このスタンスで試験に臨めるかは問題選択にも影響するし、勝敗を分けそうだな

 と実感したのは、試験が近づいた9月頃のことでした。

 実際そのとおりだったのですが、もっと早い段階で気づいておきたかったことでもあります。

3. 迷ったら線を引け

 これは試験が近づいた時にどこかで聞いたんですよね3

 これも論理設計問を解く時のポイントの一つです。

 論理設計問で『線を引く』というと、大抵は以下2つを指しますが、

  1. 概念データモデル上で関係表現をするためのリレーションシップを引く。
  2. 関係スキーマで主キー(下線)、外部キー(下破線)を表現する

 ここで私が念頭に置いている線は、リレーションシップの線です。

 概念データモデルでリレーションシップを引く場合、大抵は関係スキーマで外部キーの関係を表現してから引くと思うんですよ。

 外部キーになっているかどうかの確信がつかない時はなかなか線が引きにくいと思うんですが、こういう時は予め線を引いておいて、関係性を仮置きした後で、引き続きデータモデルを分析していく、というのが、私が最後に従った極意でした。

 これは事実かどうかちょっとわからないんですが、概念データモデルに余計な線が引かれていた場合であっても、減点はされないと言われています4

 予め概念データモデルで線を引いておけば、関係スキーマ上で発見した外部キー関係を万一概念データモデルに反映しそびれていたとしても、失点しない可能性があるわけです。

 得点テクニックの話ではあるんですが、同時に『関係性の仮定において積極性を失わないこと』という指針でもあります。

 もしリレーションシップの必要性が疑われるのであれば、まず存在を仮定した上で、その先の分析を進めてみましょう。

さいごに

 この3つが、私がデータベーススペシャリスト試験を受ける直前で得た気づきであり、合格した後になって『私に最も必要なテクニックだった』と思い直した3つです。

 この辺は受験攻略本を深く読むと、ある程度暗示的に書いてあったりするんですが、特にこの3つにフォーカスして説明された情報源を見たことがなかったので、来年度の受験生の準備に資するべく、書いてみることにしました。

 データベーススペシャリストに挑む動機5は皆様様々だと思いますが、勘所を押さえれば私のような門外漢6でも、足止めされずに一発突破できますので、良ければ上記を参考にして挑んでみてください。


  1. 応用情報の後に挑む区分としては、支援士に次ぐ有力な選択肢だと思っています。

  2. データベーススペシャリスト試験不合格の大きな原因の一つは、『関係スキーマで外部キーに下線を引きそびれた(関係を明示し忘れた)』。

  3. 5chだったかもしれません。

  4. あくまでも数本程度の話です。回答の趣旨を疑うぐらい引かれていたら減点、不合格もあり得るでしょう。

  5. ガッキーと結婚する資格を得るために挑む人も多かろうと思います。ガッキーロスが癒やされるかも…?

  6. 実はデータベースをガッツリ使うシステムを業務で構築した経験はほとんどありません。自分で構築、使用した事自体はそれなりにありますけども。

科学技術分野における最高位の国家資格 技術士(情報工学部門)のご紹介と、資格取得の感想戦について(後編)

 本記事はQiita Advent Calendar "IT資格取得をテーマに学びをシェアしよう!【PR】Udemy Advent Calendar 2021" 12/12(日)分の記事で、12/11(土)の記事の後編に当たります。

qiita.com

 前編は以下。

dimeiza.hatenablog.com

第二次試験

 さて。

 私はかねての計画に従って、第一次試験合格後、即座に第二次試験の受験手続きに入ったんですが…。

 これも受験するまでにひと騒動というか…大変でしたね。

未経験者がぶつかった、願書と押印とリモートワークの問題

 第二次試験受験時には、受験資格を満たす実務経験を記述した上で、当該実務経験について第三者(サラリーマンであれば雇用主)からの証明を受ける必要があります。

 で、この時の証明に必要なのは、証明権者の『公印』だったんですよ。

 問題の所在はもうおわかりですね。Covid-19とリモートワークと判子の関係についてです。

 会社もこの時かなりの混乱期で、感染防止と業務継続を両立させるための方針が二転三転し、右往左往していました。

 私はなるべく出社しない方向で管理職と調整していたんですが、この時ちょうど管理職が交代していて、リモートワークに対するポリシー変更があり、出社も含めてギクシャクしていたんですよ。

 折しもその時、私自身も咳を中心とした風邪のような自覚症状が出てしまって。執務は辛うじてできそうながら会社に出勤するのがはばかられる状態1になってしまいました。

  • 会社とは郵便経由で押印願書を授受しなければならない
  • 一方で公印をもらうには(ちょうどあまり関係が良くなかった)上長の承認が必要

 という組織上動きにくい状態になっていました。

 その上、

  • 周囲に技術士第二次試験願書作成経験者がおらず、社内手続きも含めてどのように進めればいいかわからない

 という手続き不慣れもあり、さらに、

  • 再試験合格から第二次試験願書締切までの期間が(例年と比すると)短い

 というこの年特有の事情も重なって、非常に手続きしづらい環境になっていました。

 そうは言っても、辛うじて第一次試験をこじ開けたのですから、手続きごときでヘバっているわけには行きません。

 これも技術士に求められる『複合的な問題の解決』と割り切って、各所に対する調整を始め、どうにかこうにか業務経歴の証明を受けた願書を入手し、技術士会に郵送することができました。

 あ、ちなみに令和3年度からは、押印に関するこうした不都合を考慮して、押印が不要になっているので、文書に印鑑をもらうための作業は軽減されています。今後受験する方はご安心ください。

論文との闘い

 IPA試験の論文と違って、

  • 試験範囲が特定の技術領域に限定されない
  • 技術よりも問題解決、行動特性といったコンセプチュアルな記述を求められる
  • 何よりも記述量が多い
  • その割に文字数が足りなくなる

 というのが技術士論文試験の特徴です。

 量も量ですし(以下、拙著から抜粋)、

試験科目 最大記述量 配点 回答時間
I 必須科目 600字×3枚 40点 2時間(10:00〜12:00)
II 選択科目 + III 選択科目 600字×3枚 + 600字×3枚 30点 + 30点 3時間30分(13:00〜16:30)

 合格率もだいぶシビアな数字で(同様に拙著から抜粋、令和2年度)、

選択科目 申込者数 受験者数 論文試験合格者数 論文試験合格率[%]
コンピュータ工学 42 35 1 2.8
ソフトウェア工学 111 89 7 7.9
情報システム 138 119 15 12.6
情報基盤 73 61 5 8.2
合計 364 304 28 9.2

 無対策で行ったら討死確定の試験です。

 IPA試験同様、論文答練して現場ですばやく解答を書けるようにならないといけないんですが、まぁ量が量なので手が痛くなりましたね。

 といっても、1日あたり大体600字詰め5,6枚ぐらいの答練ボリュームにしていた気もします。

参考書が…無い!

 もう一つ、IPA試験との圧倒的な差は、情報工学部門の参考書不足です。

 特に第二次論文試験に対して、Amazon等の著名な書籍販売サイトで手に入る参考書、対策本ははっきり言って0です2

 技術士(情報工学部門)の敷居の高さは、この情報源不足からも来ていて、正直試験の場で何を書けば正解なのか、心底手探りの状態で答練していました。

ここでちょっと先触れをしておくと

 私自身もこの状況は良くないなーと思っていて、IPA試験、技術士試験で積んできた論文作成ノウハウを、個人的にどこかでまとめたいと思っているところなので、もしかすると

 を執筆するかも知れません。

 とはいえ、書籍執筆って読み手が想定するよりもずっとパワーが必要で消耗する行為だというのは、自身が体験してよく分かっているので、この年末年始の私の状況次第、とお考えください。

感染との闘い

 答練は答練で黙々とこなしてきたんですが、それ以上にもっとクリティカルに効いてくるのはCovid-19。

 『もし受験日に感染していたら』というのが一番のリスクです。この場合は当然試験を受験できなくなります。

 とにかく体調を維持すること、崩さないことに専念していましたね。

試験の場に何を持っていくか

 技術次第二次論文試験は、おそらく自分がこれまで受験した試験の中で最も消耗する試験だろうと思ったので、(若さもだいぶ失われている事を考えて、)可能な限り肉体、精神の消耗リスクに備えられるよう、持参品もできる限りの吟味をしました。

 詳しくはここに載っていますが、

zenn.dev

 個人的には対肩こり向け鎮痛消炎剤マスク、そして言うまでもなく筆記用具の選定に一番気を使いました。

 (今でこそ不織布マスクが第一選択ですが)マスクはなるべく試験時に息苦しさや耳の痛みを伴わないものにしたかったので、エアリズムマスクを選んで持っていった、というのがあります。

試験の場で辛かったこと

 これは今だからこそ言えるんですけど、私の隣りに座っている人の筆圧が結構強くて、記述の音もうるさければ机も結構揺れたんですよ。

 試験開始時からだったので、メチャクチャ集中力が削がれましてね。私の自意識が過剰なだけですが、プレッシャーもかかりました。

 終わった後は肩や腰にもそれなりに負担が来たんですけど、試験中に一番キツかったのは、他の受験者からの集中力削ぎでした。

災い転じて福となす

 ただ、結果的に見ると(こうして合格記を書いているのもありますが)、このピンチはチャンスに逆転できた感もあります。

 『負けてたまるか!』と、私の論文作成もまたハイペースになっていきまして。

 以前、ITストラテジスト試験を受けた時は、そのハイペース故に危うく敗北を喫するところだったんですが、

dimeiza.hatenablog.com

 今回は以前の轍を踏むまいと、ハイペースでありながら慎重に論文設計を行い、着実に文字を埋めていました。

 気づいたら、必須科目でも選択科目でも、終了時間に1時間以上の余裕を残して論文を書き終えていました。

 試験中、休み時間に混んでいたトイレに行く余裕があったぐらいです。

 試験開始時、プレッシャーをかけられる側だったのが、いつの間にかプレッシャーをかける側に逆転していました。

 色々な試験を受験してしみじみ思っているのが、『試験中にピンチに陥った時に、どうやって心理的にリカバーするか』は、結構勝敗をシビアに左右するなぁ、と。

 まぁ…今振り返っても、自分の中では関ヶ原、天王山とも呼べる闘いで、なかなかの大一番、大勝負でしたね。

先例なき口頭試験対策

 論文試験が終わった後、一息ついて口頭試験の受験準備に入ったんですが、これも正解なき闘いでした。

 まず、

 点については、口頭試験も例外ではありません。

 まぁ、Webでは体験記をちらほら見かけるんですが、キツかったのは、

  • 2019年度以降の改定された口頭試験に関する体験記がまったくない

 ことでした。

 技術士試験制度は2019年に改定されているんですが、この時に口頭試験の基準や実施方式も変わっています。詳しくはここに。

zenn.dev

 ところが、新制度に対応した口頭試験で、一体何を聞かれるのか、何に備えるべきかということについて記述された、情報工学部門の体験記がまったくなかったのです。

 これは他分野も含めた口頭試験対策本も似たりよったりで、

  • 旧来の試験対策で、果たして私は口頭試験を突破できるのか…?

 という点で非常に不安になったのを覚えています。まぁ、そうは言っても対策はしたんですけども。

 ちなみに今は情報工学部門向け口頭試験の問答はWeb上に存在します。なぜなら私が書いたので。

zenn.dev

口頭試験で見つけた論文の粗

 事前情報だと、口頭試験において論文試験で書いた内容が話題になることもある、という話だったので、論文の内容も慎重に見直していたんですが、論文のある一言を見て、

  • 待てよ…この内容、試験官に通じているか…? 題意解釈は本当に大丈夫なのか…?

 と、不安になってしまったんですよ。

 これが口頭試験対策でもう一つキツかったところですね。

 不安がよぎった頃には他の口頭試験対策はだいたい終わっていたんですが、これ以上の口頭試験対策ができなくなったほどです。

 論文試験の結果発表前に口頭試験対策をした人だけが分かる苦しみだと思うんですが、『論文試験ダメかも知れない』という不安の中で行う口頭試験対策のストレスは想像を絶します。

論文試験合格時のハプニング

 論文試験どうなるか、と心配でやきもきしながら迎えた2021年初。

 合格発表日(2021/1/8)、合格者番号が書かれたpdfファイルを恐る恐る開き、私の番号を探したんですが、見つからなくて。

 『そうか…やはりダメなのか…厳しいな…』と打ちのめされながら、私は床に崩れ落ちたんですが、改めてpdfファイルを見ると、私が受験した選択科目であるソフトウェア工学』って書いてあるページが2つあることに気づいたんですよ。

 『ひょっとして…総監(総合技術監理部門)3のページを見てる…?』と、ハッと我に返った私はpdfファイルを先頭からたどり、情報工学部門の『ソフトウェア工学』のページを見たところ。

 そこに私の受験番号はあったんですよ。

 この時の脳内麻薬の出方はヤバかったですね。直後のツイートがこちら。

 ページ見間違いで落とされた後に持ち上げられるというコレ、技術士界隈ではよくあることらしいんですが、ほんの数分で一気に地獄から天国に叩き込まれた感がありました。

口頭試験直前に突然襲ってきた緊張

 ここから先は割と順調で、(私の知りえる限りでの)口頭試験対策も問題なく実施し、Covid-19の魔の手からも逃れ、無事本番を迎えまして。

 試験会場に行った後も、『これだけ練習してきたんだから何とかなるだろ』という余裕があったぐらいだったんですが。

 試験時間が近づいたので、受験者控室から試験室前の(廊下に置かれた)椅子に移動して、座った直後

 何の前触れも理由もなく、凄まじい緊張感が襲ってきたのを覚えています。

 この時、私は口頭試験とは、一般に言われているような、ただの合格率の高い試験ではなく、『1年間の努力の成否が20分間の舌端に乗る、もっとも易しくもっとも厳しい試験』であることを実感しました。

 この緊張の瞬間は、ここから先の20分間の振る舞いが、この2年間の勝敗を完全に左右するということを身体で理解した瞬間だったのでしょう。

 ただ、極度の緊張は感じましたが、緊張に負けなかったのは覚えています。試験官は我々の答案を通してくれた味方だ、と改めて思い直して面接室に入りました。

 後はガイドブック記載のとおりです。

 試験終了後、後進に残すためにも、自身の精神衛生のためにも、絶対に試験内容を忘れないようにしないと、と必死で記憶を維持していたのを覚えています。

振り返ってみると

 改めて振り返ると、技術士の取得自体敷居が高いだけでなく、

  • 情報工学部門は特に合格率が低い
  • 試験全般を通して参考書がほとんどなく、自力合格が厳しい

 という部門特有の逆境に加えて、

  • 令和元年度〜令和2年度の技術士試験はハードモード4だった(台風とCovid-19)。

 という、年度特有の問題に苦しめられた、茨の道5ではありました。

 『じゃあ、それだけの価値がある資格だった?』と聞かれると、正直まだ実感はないんですが、この資格を取ったことによって、それ以前の自分とは色々と変化したところも出てきています。

  • 高度試験合格だけの頃にはなかった、底から湧き上がってくる自信が出てきた
  • 社内の職位から独立した立場で組織の問題を俯瞰したり、意識的に教育、指導の声掛けをするようになった
  • 技術者倫理に悖らない行動を心がけるようになった
  • 私企業、個人としての利益だけではなく、(自身や他者の活動に対して)公益を意識した捉え方をするようになった
  • 書籍を執筆するなど、これまでの自分の枠を超えた活動をするようになった

 まだ技術士としては歩みはじめの一年だったんですが、内的な所から徐々に変わってきているような感があります。

さいごに

 技術士の価値については過小評価されているという嘆きの声が技術士自身からも聞こえることもありますが、私としては、

  • 技術士(情報工学部門)を(称号として)フルに活用しつつも、
  • 今は少ない技術士(情報工学部門)の陣容を拡大する働きかけをしつつ、
  • 社会的な地位を高めるために少しでも貢献できればいいな

 と思っているところです。

 現状、万人が目指すべき資格だとは思っていませんが、こんな事を感じながら戦い抜いた技術士(情報工学部門)受験生がいたということを踏まえつつ、一人でも多くの、高い技術力と高潔な心の両方を兼ね備えたITエンジニアが、この最難関、最高峰のIT資格に挑み、勝利を勝ち取って頂ければ、筆者としては何よりの幸いでございます。


  1. PCR検査も満員で実施してもらえず、咳が出ている関係上。

  2. よく探すと1冊だけ、一般に入手可能な書籍はあるのですが、それだけで十分かと言うと微妙。

  3. 総監(総合技術監理部門)は、21個ある技術分野の中で特殊な部門で、別途専門技術分野を持ちつつも、専門横断的な技術監理をすることを特徴とする部門です。総合技術監理部門の合格者番号は、専門とする技術部門、専門科目を併記した上で記載されます(pdfファイル全体では、同じ技術部門、専門科目名が2回表記されることになる)。

  4. 個人的にはDante Must Die/The Boss Extreme相当の難易度だと思っています。

  5. 良く言えば技術士試験史上に残る闘いで、この地獄の試練を潜り抜けた自身を誇るつもりではいますが、一方で、こんな思いをするのは令和元年度〜令和2年度受験者だけでいいとも思っています。

科学技術分野における最高位の国家資格 技術士(情報工学部門)のご紹介と、資格取得の感想戦について(前編)

本記事はQiita Advent Calendar "IT資格取得をテーマに学びをシェアしよう!【PR】Udemy Advent Calendar 2021" 12/11(土)分の記事になります。

qiita.com

はじめに

 今年はAdvent Calendarを書く気は特になかったんですが、Qiitaにしては珍しく、資格をテーマにしたAdvent Calendarが盛況(カレンダー4つ目)とのこと。

(皆様iPad miniとゲーミングチェアを虎視眈々と狙っておられるようで…)

 『そう言えば、私これ取ったのだから、このAdvent Calendarを書く資格があるなぁ』と今年の自分を振り返ったのが、この記事を書くきっかけでした。

dimeiza.hatenablog.com

技術士とは

 実は技術士、特に情報工学部門については、今年の5月に本を一冊書かせて頂きまして。

(おかげさまで別冊共々、多くの方にご参照いただいております)

zenn.dev

 ここに詳述したので、繰り返しになってしまうんですが、ご紹介するとですね。

www.engineer.or.jp

「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた優れた技術者」の育成を図るための、国による資格認定制度(文部科学省所管)

 です。

 IT技術者界隈では知名度IPA試験より遥かに低いんですが、実は歴史自体はIPA試験とは比較にならないほど古く、由緒正しき国家技術資格です。

第二次世界大戦後、荒廃した日本の復興に尽力し、世界平和に貢献するため、「社会的責任をもつて活動できる権威ある技術者」が必要になり、米国のコンサルティングエンジニア制度を参考に「技術士制度」が創設され、1951年、日本技術士会が誕生し、1957年「技術士法」が制定されました。 

 もう一つ調子に乗って、技術士会に言わせると、こういうことらしいです。

技術士制度について

簡単に言うと、技術士とは、「豊富な実務経験、科学技術に関する高度な応用能力と高い技術者倫理を備えている最も権威のある国家資格を有する技術者」 ということになります。

 『最も権威のある国家資格』と、なかなか大きく出ています。

名称独占と技術分野

 技術士名称独占が法的に認められた国家資格です。名称独占は情報処理安全確保支援士にも認められていましたね。

 技術士は一応士業に当たるんですが、他の士業と違って、認定を受けた技術部門を冠して名乗ることが義務付けられています。

技術士の名称表示の場合の義務)

第四十六条 技術士は、その業務に関して技術士の名称を表示するときは、その登録を受けた技術部門を明示してするものとし、登録を受けていない技術部門を表示してはならない。

 技術士には21の技術分野が定められていて、最も隆盛を誇っている建設分野や、経営工学、果ては上下水道原子力など、日本を支えるあらゆる科学技術分野が包含されているんですが…。

 …この21分野の中にあるのです。情報工学』という部門が。

 ここまで説明して、ようやく技術士(情報工学部門)という資格に到達しました。

技術士(情報工学部門)とIPA試験との差

 IT技術者に説明する際には、IPA試験、特に高度情報処理技術者試験(高度試験)と比較すると理解が通りやすいかと思いますので、比較してみましょうか。

比較項目 高度試験 情報処理安全確保支援士 技術士(情報工学部門)
試験範囲 IT技術全般(区分により異なる) サイバーセキュリティ全般 IT技術全般+技術者倫理+コンピテンシー
要求される技術水準 ITSS Lv4 ITSS Lv4 情報工学全般専門知識+技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)
合格後の取扱 能力認定 名称独占(要登録) 名称独占(要登録)
法定義務、責務 特になし 信用失墜行為の禁止、秘密保持、受講 信用失墜行為の禁止、秘密保持、名称表示、公益確保、資質向上
合格率 区分により異なるが10%〜20%の間 約20%前後 (ここ最近)6〜8%
受験資格 特になし 特になし 要実務経験
更新 特になし 3年ごと (現状)特になし
管轄省庁 経済産業省(IPA) 同左 文部科学省(日本技術士会)
知名度 高い 高い 低い

 すごくあっさりとした言い方をしてしまうと、高度試験ではIPAが定めたシラバスの範囲内で、自身のIT知識と経験知を示せれば合格することができます。

 一方で技術士試験ではIT技術に関するウェイトはそれほど高くなく(知ってて当然という前提で)、問題解決能力や、技術者倫理を始めとした行動特性を兼ね備えているかを、実務経験と照らし合わせて検証されるという、IPA試験よりもコンセプチュアルな能力を技術者として問われることになります。

 正直な所、IPA試験よりずっと取っ付きにくく、合格率的にも厳しく難易度も高い試験です。

 技術士試験の各段階については、この先の感想戦で書こうと思っていますが、技術士(情報工学部門)について、もし詳しく知りたい方がいらっしゃるようであれば、ぜひ拙著をお読み頂ければ幸いでございます。

 特にここにまとめてあります。

zenn.dev

技術士(情報工学部門)試験の感想戦

 さて、ようやく本題に到着しました。

 技術士(情報工学部門)の試験でどういう試験がされるかの詳細についても拙著に書いてあって、受験を検討される方はそちらをお読みいただいたほうが良いと思います。

 が、それとは別に、各試験を受けた際の感想戦を書いてなかったなぁと思っていて。

dimeiza.hatenablog.com

よし、これでやっと感想戦ができますね。

 だいぶ放置してしまっていたので、技術士の紹介がてら、Advent Calendarにかこつけて書いてみようかと思っています。

受験前

何故こんなマイナー国家資格と対峙しようと思ったのか

 あれは今から36万…いや、2年前だったか…。

 受験のきっかけは、今から2年ほど前、ITストラテジストという資格に手をかけようとしていた時に遡ります。

 この記事を書く数ヶ月前ですね。

dimeiza.hatenablog.com

 Webで試験対策を調査している時に、こんな記事を見かけましてね。

www.slideshare.net

 これはITストラテジスト協会の定例会で発表された技術士に関する紹介資料です。

 技術士(情報工学部門)という資格自体は、過去に文科省に提出されたこの資料を見て知ってはいたんですよ。

www.mext.go.jp

 これを見たのが2016年、ちょうどエンベデッドシステムスペシャリストを受けた頃で、当時思ったのは、

  • IPA資格とは別にそんなのがあるのかー
  • そりゃぁIPAの方が知名度があるし評価されるから取るよね

 程度だったんですが、2年前にITストラテジストの取得を意識したとき、最初に紹介した資料を見て、ITストラテジスト『先』として見てしまったんですよね。

 ITストラテジストというIPA資格の『(他の区分を取った上での)ラスボス』の先にいる『裏ボス』として。

動機は『実益以外』

 文科省の資料から見ても、技術士(情報工学部門)という資格は直ちに実益に直結しなさそう、ってのは容易に分かったんですよ 1

 なので、この時の私の受験動機は、実益ではなく、憧れというかロマンに近いものでした(平たく言うと自己満足)。

  • 情報工学の技術者資格としては天辺
    • 名目としても、合格率的にも。IPA資格との差別化もできる。
  • 国家が自分に箔を付けてくれる。
    • 国に認められた技術者』ってカッコいいな、と思って。
  • 技術者として独占的な称号を得ることができる。

 まぁ、

  • 資格で会社に仕事を引っ張ってこれるかも知れない。
  • コンサルティング2というキャリアを開く道になるかもしれない。

 と、実益も多少は考えましたが、どちらかと言うと副次的な効果として捉えていた感があります。

 普通の人が資格を取る時って、学習時間や参考書など自己投資を多分に含むだけに、損得勘定で考えることが多いですし、それ自体は職業人としては当然だと思うんですよ。

 ただ、今の技術士資格、特に情報工学部門の立ち位置って、この感覚だとまず受験しようと思わない所3にあって。

 私の場合、この動機の所で頭のネジが一本外れていたのが、受験の大きなきっかけと言えるのかも知れません。

第一次試験

 さて、技術士試験を受けようと思った私なんですが、技術士試験には制度的には2つ、試験としては大きく3つのテストを受けなければなりません。

  • 第一次試験(秋に実施)
    • 多岐選択式のマークシート試験です。これに合格しないと第二次試験を受験できません。
  • 第二次試験
    • 筆記試験(夏に実施)
      • IPA論文試験を遥かに上回るボリュームの論文試験です。3つの試験ではここが最難関。
    • 口頭試験(冬に実施)
      • 20分間、試験官からの口頭での質問を受け、資質能力(コンピテンシー)を試される最終関門。

 ちょうどITストラテジスト試験を受けようとしている最中(夏頃)で受験を考えたので、まずは直近、ITストラテジストとほぼ同時期に実施される第一次試験から受けることになりました。

 ということで、ITストラテジストの試験対策と並行して、第一次試験の学習も進めました。

 幸いなことに、情報工学部門の第一次試験に関しては優遇措置があって、高度試験か支援士試験にパスしていると、専門科目の受験を免除してもらえます。

www.engineer.or.jp

Q:第一次試験の専門科目(情報工学部門)が免除される情報処理安全確保支援士試験合格者及び情報処理技術者試験の高度試験合格者ですが、高度試験の種類について教えてください。

A:ITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、エンベデッドシステムスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験、システム監査技術者試験です。

 私はこの時点で高度を4つ持っていたので、専門科目の免除を受けつつ、専門科目以外の科目である基礎科目(理系学部1,2年次相当の科学技術知識)、適性科目(技術者倫理、関連法知識)の学習に専念していました。

唐突な第一次試験中止の危機

 ところがですね。

 2019年10月という月は台風の当たり月で、この台風が飛んだハプニングを呼ぶことになりました。

【再試験決定!】技術士一次試験が台風の影響で中止や繰り下げ・・・大きな議論を生んでいます

 2019/10/13が第一次試験の日だったのですが、ちょうど巨大な台風が首都圏に襲来しており、全国的にも非常に荒れ模様な天気でした。特に首都圏では交通網がほぼ麻痺状態で、試験会場に物理的に行けない状況。

 この時に日本技術士会は、東京、神奈川の第一次試験実施を『中止』するという声明を出したのです。延期ではなく、中止です。

 これには非常に動揺させられると共に、強く憤慨したのを覚えています。

 技術士試験は年1回実施ですから、中止されてしまうと次に受験できるのは翌年の秋です。受験生としては技術士を取得するタイミングが1年遅れてしまうわけです。

 これについては他技術分野も含めてTwitter上でものすごい騒ぎになって、署名騒動にまで発展しました。

www.change.org

試験中止時の措置に関する法的根拠

 で、これには署名したんですが、それとは別に私はこんなものを見つけてしまったんですよ。

 技術士法第28条に試験の実施について書いてあってですね。

2 文部科学大臣は、指定試験機関が第二十三条の規定による許可を受けて試験事務の全部若しくは一部を休止したとき、第二十四条第二項の規定により指定試験機関に対し試験事務の全部若しくは一部の停止を命じたとき、又は指定試験機関が天災その他の事由により試験事務の全部若しくは一部を実施することが困難となつた場合において必要があると認めるときは、試験事務の全部又は一部を自ら行うものとする。

 技術士会ができないって言うなら、この条文を元に、文科省に試験の音頭を取ってもらうしかないなぁ、と。

 地域ごとに試験実施状況に差がある状態は法の下の平等に反する、という理屈もつけて、文科省に文書を書いて直接送りつけました4

 その結果、というわけではないですが、最終的に中止の処分は撤回され、東京、神奈川を含めた受験困難者に対しては、再試験という形で延期扱いになりました。

www.mext.go.jp

Covid-19、襲来

 で、(今から考えるとよりにもよって、)再試験は2020年3月に予定されていたのです。

 ちょうどこの時期に襲来したのが、今なお我々を脅かし続けるCovid-19です。

 先だっての中止騒動もあったので、今回のCovid-19によって再度試験が中止の憂き目に合うのでは、と、非常に懸念していて、毎日技術士会のページを確認していたのを覚えています。

ウィルスが齎した試験会場の混乱

 まぁ、技術士会の努力もあって5、第一次試験は無事に開催されたのですが、試験側も経験したことのないウィルスとの闘いで、種々の混乱は見られていました。

  • (今は大分定着していますが、)受験者全員への入室時アルコール消毒の徹底
  • 基礎科目終了後、全員を退室させ空気の入れ替えを徹底化

 対策の勘所が分かってきた最近のIPA試験なんかと比較しても、相当に肩に力の入った備え方になっていました。

 受験者に対しても、全員マスクを持参するように、マスクがない受験者の受験は認められない、と技術士会は何度も勧告していたのですが、マスクを持ってこなかった受験者6がちらほら出てきていて。

 会場内で『(マスクはないが)受験させろ』『職員の指示に従って退出せよ』という、受験者と運営側の押し問答で試験開始が滞る、という一幕もありました7

 というわけで受験するだけでも例年の何倍もキツイ第一次試験でしたが、(再試験までで知識を磨き直したせいもあって)私の成績は上々。無事第一次試験に合格することができました。

 さて、ここから第二次試験に入るのですが、あと半分あるのでここで一旦切りましょう。

 以下、後編に続く。

dimeiza.hatenablog.com


  1. 勤務先の資格取得奨励制度では弁理士、弁護士と並ぶ最高額の奨励金が出ますが、業務独占ではなく、手当も出ず、昇格条件でもなかったですから。

  2. 日本の技術士という称号には、成立当初の"Consulting Engineer"と、国際的標準に合わせた"Professional Engineer"(現在はこれが主流で英名でもある)の2つの意義が含まれています。

  3. これは正直改善が必要なところで、資格にもっと実益が伴うべきだと思っています。

  4. これは単なる手紙ではなく、体裁的には行政手続法に定義された『処分等の求め』に相当します。

  5. さすがに今回中止したら、カレンダー上取り返しがつかないですからね。

  6. ちょうどマスクが品薄だった社会情勢も相まって。

  7. 私の席の近くで情報工学部門の受験者がこのやり取りをしていて、勘弁してくれ…という感じでした。結局別室に行ってマスクをもらって受験したようですが、(技術者倫理にも悖るし)あの調子だと2次試験以降には行けなかっただろうなぁ…。

プログラマが第二種電気工事士を取ってみた(3.教室の受験者全部抜く)

技能試験当日

場所

千葉県の某大学でした。ちゃんとした作業台があるところでできるのかと思ったら、普通の講義室なのでちょっと面喰いましたね。

ただまぁ、受験者の前後左右の席は開けてあったので、左右のスペース的にはそれほど問題はありませんでした。

机の幅が若干狭かったんですが、まぁ困るほどではないです。

着席から試験までの間

これがまた異様に長いんですよ。10:55に着席させるくせに、試験開始は11:30~。30分以上溜めがあるんです。

本人確認とか問題配布とか、作業はいろいろあるんですが、最大の理由は技能試験用材料配布と確認のためです。

材料が配布された後、決められた時間内だけ、配布された材料を受験者が直接確認することができます。

材料に抜けがある場合は、この時間に限って交換を求めることができます。この時間を逃すと、たとえ欠品していても一切交換してもらえず、不合格確定なので、念入りに確認しなければなりません。というか、しっかり確認しておくとちょっとしたボーナスがもらえます。

というのも、技能試験の演習を2周以上回している人が念入りに確認すると、問題用紙を見るまでもなく、この時点で出題される候補問題が分かってしまいます。あぁ、この部品と、このケーブル長を求めるのはあの候補問題だよな、と。

実際、私もこの時点で出題される問題が分かったんですよ。そこでちょっと冷や汗をかきつつ苦笑したんですけどね。

前日の出来事

前日、私は最後の詰めとして、最も苦手な候補問題である、候補問題11の作成を行っていました。

候補問題11はこういう問題なんですが、私は特に金属管の取り付け作業に手間取る傾向があったのです。

f:id:dimeiza:20190123193201p:plain

f:id:dimeiza:20190123193056p:plain

(第二種電気工事士技能試験 すぃーっと合格より引用)

もう一つ、あえて最後に候補問題11を解くことにしたのは、金属管接続時に支給される部品上の都合によります。

候補問題11で支給される金属管はねじなし電線管で、ねじなしボックスコネクタを使ってジョイントボックスに固定する必要があります。

ねじなしボックスコネクタでねじなし電線管をジョイントボックスにつなぐ際は、止めネジを切るまでねじを回す必要がある(ねじを切らないと欠陥を取られる)んですが、一度ねじを切ってしまうと再利用できなくなるので、ねじを切るのは最後にしよう、と。

本番でも忘れずにネジを切らないとな、と思いながらねじを切っていました。

再び当日に戻ると

で、当日、試験会場で部品確認をしている私の手の中には、ねじなし電線管とねじなしボックスコネクタが握られていまして。

よりによって最も苦手なこれか(冷や汗)…昨日練習してきたけどさ(苦笑い)という感じでした。

ただまぁ、この時点で候補問題が特定されたおかげで、試験開始の合図を待つまでもなく、複線図作成以降の作業シミュレーションが頭の中でできるようになります。

段取りをばっちり組み立てて、開始時間を迎えました。

あとはもう手を動かすだけです。

ただ、これだけ準備していても、やはり本番一発勝負というだけあって、開始時には手が震えてましたね。

対策サイトや教科書で『本番特有の緊張感』と言っている奴ですが、作業手順をはっきりさせて無心に手を動かしていれば、そのうちスムーズに作業できるようになります。

演習をしっかり積んだうえで、本番では自分の習熟を信じましょう。

ふと気が付くと

時計を見ると、試験終了の大体12,3分前。一通り組付け、無欠陥も確認して完成。

両手を下ろしてふと教室を見渡すと、ほかの受験者は例外なく作業を続けていました。

…どうやら教室の中で最速で完成させたらしいぞ…と。

電気工事に関する専門教育を受けたわけでもない、初受験の私が受験会場最速、というのにはちょっと驚きました。

やることもないので2度、3度と確認していると、一本だけ規定長より長いケーブルがあって。そのケーブルだけ長さを計らず、切れ端をそのまま使っていたのに気づいたので、規定長に合うように切りなおす、などという無用な調整をしていたほどでした 1

試験終了時

試験終了の合図とともに、すべての受験者が作業を止め、その後は退出票をもらって一人づつ退出していくことになります。

退出票をもらうまでの間、何とはなしに教室の左右を見ていたのですが、結構いたんですよ、作品が未完成だった人が。

まだ部品の接続どころか、ケーブルの切断の段階、という人もちらほらいました。

きっと練習してこなかったんだなぁと思いつつ、事前準備の有無で峻厳に勝敗が決まる試験会場を後にした、という次第です。

さいごに

…というのが、第二種電気工事士を門外漢のプログラマが取得する際に得た諸々の気づきでした。プログラマから電気工事士を目指す人は少なそうですが、門外漢から電気工事士を目指す人はそれなりにいると思いますので、よければ参考にしてください。

これから免状の申請に入りますが、この資格が今後私にとってどういう助けになるか、実際のところはまだ分かりません2。ソフトウェアレイヤで仕事をしている限り、独占業務範囲に入ることも少なそうですしね。

ただ、IoT系も含め、電気が関わる種々の領域におびえることなく飛び込める切符を得られたので、機会を見つけてどんどん知見と権利を活用していきたいと思っています。


  1. ケーブル長に関しては、規定長の50[%]以下のときのみ欠陥を取られるので、長い場合は問題とされず、本来は不要な作業。余裕がなければ基本的にはやらない方がいい。

  2. プログラマを引退しても別の職が得られる、という、見えざる保険的な効果もあるかもしれません。

『技術士(情報工学部門) 攻略ガイドブック 別冊 第一次試験 専門科目(情報工学部門) 解答解説&傾向分析 』リリースのお知らせ

 タイトルが長い…。

zenn.dev

 というわけで、感想戦やると言いつつ放り出して次の書籍を書いてしまいました。

 現行制度で技術士第一次試験を情報工学部門で受ける場合、高度情報処理技術者試験 or 情報処理安全確保支援士試験に合格して、専門科目免除で受験するのが、基本的にはベストプラクティスです。

www.engineer.or.jp

Q:第一次試験の専門科目(情報工学部門)が免除される情報処理安全確保支援士試験合格者及び情報処理技術者試験の高度試験合格者ですが、高度試験の種類について教えてください。

A:ITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、エンベデッドシステムスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験、システム監査技術者試験です。

 ただ、ネットで観察していると、専門科目の免除を受けずに受験する人々も結構いるみたいで。

 これを書いた経緯は上記書籍のあとがき(無料で読めます)に書いておいたんですが、

  • 技術士会が公開している情報だけだと、どのように正解肢に到達するのかが分かりづらい問も多く
  • 単に基本情報、応用情報技術者試験レベルの問題として調べるのも結構面倒

 この辺りから、他部門同様、解答解説があったほうが受験者も捗るであろうと思いました。

 情報工学部門の書籍を増やしていくという点、現段階で情報工学部門の専門科目に関する有効な解説書が存在しないという点、(緊急事態宣言下の)夏休み期間を有効に活用するという点からも、今回書いてみようかと思い、初めて問題解説側として手がけてみました。

 技術士第一次試験を情報工学部門で受験し、かつ専門科目の免除を受けずに試験に臨もうという受験生の方は、ぜひ手にお取りください。

 一応各問について、解答のロジックを一通り説明しているので、Web上の情報だけを参照して自分で調べるよりもだいぶ楽になろうかと思います。

 反響があれば来年度以降も改訂するかも知れないので、お読みの方はご質問、ご要望等あればお寄せください。

『技術士(情報工学部門) 攻略ガイドブック』刊行のお知らせ

 前回のエントリで予告していた書籍1が完成しました。

zenn.dev

 第一次試験と、口頭試験に関する記述、ついでにあとがきを加え、ひとまず書籍として体をなす構成になりました。

 技術士(情報工学)受験生の一助となることはもちろん、技術士(情報工学)の知名度向上などに貢献できれば良いな、と思っています。

 本編は無料ですのでご興味のある方はぜひ。


 よし、これでやっと感想戦ができますね。

 いつも書いているようなノウハウは全部上記の本にまとめたので、後日、今回の受験の思い出などを語っていければと思っています。


  1. まぁ、紙の本ではなくZennの電子書籍ですが、書籍には違いありません。